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7.肩こりと睡眠・疲労感 [内科から見た肩こり]

25歳を過ぎるころから知らず知らずに朝の寝覚めが悪い日が多くなります。そして中年になると朝になっても疲れがとれなくて、重い体を引きずるようにして仕事や家事につくことが多くなります。

1)睡眠について

私たちの睡眠は1~2時間ごとに深い睡眠と浅い睡眠を周期的に繰り返しています。浅い睡眠をレム睡眠と呼び、朝に近づくとレム睡眠の時間が長くなり夢を見やすくなります。
レム睡眠が浅くなりすぎると寝ているように見えても半分は起きているような状態で寝覚めが極端に悪くなります。睡眠の障害については本HPの家庭の医学の中でやや詳しく述べています(家庭の医学-おとな-睡眠の障害)。

2)肩こりと睡眠

ふつう肩こりは夕方にかけて強くなります。デスクワークやパソコンでの仕事が長くなったり、仕事の緊張感が疲れとしてたまってくるからです。家庭の主婦も家事や育児に追われて疲れが夕方にたまってきます。

一方、肩こりの強い人は朝起きたときから頭痛や頭がボーとする、体全体の倦怠感などを感じることがあります。体を動かしていると少しずつ頭痛や倦怠感が軽くなっていきます。
この理由としては肩こりの強い人は一日が終わる就寝前には肩だけでなく、体全体が硬くなってしまいがちです。睡眠中は体を動かすことがほとんどないために体が硬くなってしまい、その結果朝起きるときには体全体のこりを強く生じて倦怠感を自覚することになります。

年齢とともに腰や膝などに変形性関節症や椎間板変性症などの老化現象を抱えることになりがちですが、睡眠中に腰や膝を動かさないでいると硬くなってしまいます。朝腰や膝が重だるくなり何とも言えず起きづらくなります。

また睡眠障害があり眠りが浅くすぐに目が開いてしまうような人では、レム睡眠の時間や頻度が多いため眠っている間でも緊張感が強く体が硬くなりがちです。朝起きるときには体全体がかたくなり、重だるい倦怠感や頭痛などを生じやすくなります。

このような理由から肩こりで悩んでいる人には夜寝る前にストレッチ体操を勧めています。(図1、図2)ストレッチ体操は一日の体の緊張感やこりをほぐしてくれ快い眠りに導いてくれます。
20歳代の前半までは体が柔らかいため特別にこのようなことをしなくても睡眠だけで体の疲れはとれますが、中高年になるにつれこのストレッチ体操は肩こりの予防だけでなく、健康一般の維持のためにたいへん重要であると考えています。ストレッチ体操の一例をあげてみました。

肩こりストレッチ体操1
図1肩こりストレッチ体操1

肩こりストレッチ体操2
図2肩こりストレッチ体操2

肩こりが強く眠りが浅い人では夜寝る前に筋弛緩効果のある抗不安薬を飲むのも役立ちます。眠りが深くなることによって筋肉の緊張感が和らぎ、肩こりの軽減に有用です。

次に疲労感について筆者の考えを述べてみます。疲労感にはスポーツの後の爽快感を伴うものや仕事やストレスの時に感じる何とも病的な疲労感までさまざまです。また内科などの病気によるものもありますが、ここでは病気から起こる疲労感は除外します。

3)肉体的な疲労感

スポーツをした後の疲労感は快く感じられますが、立ち仕事や残業の続く長時間労働、パソコン業務の後などにくる肉体的な疲労感は、むしろ倦怠感として不快に感じられます。
肉体的な疲労感は筋肉のこり-緊張-から来るものです。スポーツも種類により、特定の筋肉を酷使するために後から筋肉の張りや緊張を生じてきます。しかしスポーツ後の筋肉のこりは部分的な筋肉のこりで解消しやすいばかりでなく、スポーツは脳に作用してβ-エンドルフィンという爽快感を生じる物質の合成を刺激するために、快感を生じると考えられます。

スポーツ後の疲労感は快いのに対して、仕事後の疲労感は不快に感じられます。とくに朝起きるときに、何とも言い難い倦怠感を感じることがあります。その違いは何でしょうか?  第一に仕事に関係した疲労感は、程度に違いはあれ精神的な疲労感を伴うため、第二に仕事では同じ姿勢で長時間いることが多く、スポーツに比べて全身の筋肉を使う機会が少なく、特定の筋肉のこりを生じやすいためと考えられます。

4)精神的な疲労感

この中には神経症やうつ病などの精神科的な病気の状態も原因としてあげられます。しかし、実際の内科の診察室では精神的なストレス、過労、睡眠不足、心配事などが重なったために、軽いうつ症として感じる疲労感や、自律神経障害(失調症)の症状の一つとして疲労感を生じることがしばしばあります。

自律神経失調症
図3自律神経失調症

(図3) 自律神経障害(失調症)という言葉はあいまいに聞こえますが、自律神経は実際に存在する神経です。自律神経には興奮に関係した交感神経とその作用を抑制するように働く副交感神経から成っています。自律神経は自分の意志でコントロールすることができませんが、心臓の働きや血圧を調節したり、腸管運動を支配、唾液や涙の分泌の調節、瞳孔の調節など体の見えない部分のきわめて重要な調節神経です。

自律神経は脳の視床下部という所に司令室があります。精神的ストレスは視床下部に作用し、自律神経の司令室を混乱させることによって、自律神経障害(失調症)と呼ばれる多彩な症状を起こしてきます。
自律神経障害(失調症)は、本来は自律神経(とくに興奮神経である交感神経)に関係した、動悸、発汗、ほてり、血圧上昇、不安感、口が渇く などの症状に限定すべきですが、すでに述べたさまざまな不定愁訴に対して、自律神経障害(失調症)と呼ばれることがよくあります。

肉体的な疲労感と精神的な疲労感
図4肉体的な疲労感と精神的な疲労感

(図4) 精神的な疲労感は自律神経の中でも交感神経の緊張を起こし、病的な疲労感につながります。私たちの感じる疲労感は肉体的な疲労感と精神的な疲労感の重なり合いから成っていると考えられます。
精神的な疲労感が強いほど病的な疲労感として感じられることになります。このような疲労感は睡眠時間を長くしたりスポーツをするなど気分転換も重要ですが、病的な疲労感が強い場合には抗不安薬や抗うつ薬といわれる種類の薬を上手に飲むのも重要です。

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