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心房細動について

4.慢性心房細動と一過性心房細動

ふだんの心電図では正常の洞調律を示すにもかかわらず、急に短時間から数時間、長いときには半日から一日くらい心房細動を示すことがあります。
このような心房細動は一過性心房細動と呼ばれます。(心電図9、10)

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心房細動の心電図 心電図9一過性心房細動の非発作時(58歳、男性)

心房細動の心電図 心電図10一過性心房細動の発作時(58歳、男性)

これに対していつ心電図を記録しても常時心房細動を示す場合を、慢性心房細動と呼ぶことがあります。

心房細動では、はっきりとした原因が分からない場合が少なくありません(全心房細動の2.1%~15%)。このような心房細動を孤立性心房細動と呼ぶことがありますが、孤立性心房細動も一過性心房細動として発症し、しだいに心房細動をくり返すようになり慢性心房細動に移行する例がしばしばみられます。

これは心房細動が長期間続くにつれて、心房の筋肉の変化が起こり洞調律に回復しにくくなり、慢性心房細動に移行しやすくなるためです。このため一過性心房細動ではできる限り、洞調律に回復させるように努めます。

しかし、慢性心房細動では心拍が不規則に打ち、心拍数が変動を示すのにもかかわらず、からだが心房細動に慣れてしまうと自覚症状が少なくなり、日常生活では比較的楽に過ごすことができます。これに対して、一過性心房細動では心房細動の発作時に強い動悸や胸部不快感を自覚することがしばしばあり、日常生活で支障を生じることがあります。自覚症状の強い一過性心房細動の例が、最も治療に困難するということができます。

心房細動が長時間持続すると、心不全や血栓塞栓症の危険性が高まり、また心房の構造的な変化を生じて心房細動をくり返しやすくなることなどから、一過性心房細動ではできるだけ速やかに洞調律に回復させることが原則とされています。そのために薬剤を使用した薬物的除細動(除細動とは心房細動を正常の洞調律に戻すこと)を試みたり、食道ペーシング、直流通電による電気的除細動などが試みられることがあります。

最近では動悸などの自覚症状が強く、薬剤によって治療が困難な頻回に心房細動をくり返す例に対して、高周波カテーテルアブレーションが有効であることが確認されるようになってきました(65~80%の根治率が報告されています)。これは肺静脈入口部が一過性心房細動の発火点になりうることから、この部を電極で焼却することによって、心房細動を起こさないようにする新しい治療法です。

一過性心房細動の中でこのような除細動の治療が積極的に試みられるのは、動悸や胸部不快感などの自覚症状が強く、薬剤でコントロールが困難な例と思われます。自覚症状が軽く、心房細動に気がついていないひとも数多くいます。半数以上の人に自覚症状がなく、別の病気で受診したときや健康診断で偶然心房細動が発見されることも多いようです。しかし自覚症状の有無にかかわらず、血栓塞栓症の危険性があり注意が必要です。

自覚症状という点から考えると、一過性心房細動から慢性心房細動に移行すると、心拍数を適正なレベルにコントロールできれば、動悸や胸部不快感などの自覚症状は著しく改善します。患者も楽になったと話されるようになります。

まとめ

心臓の機能や血栓塞栓症の予防から考えれば、心房細動をできるだけ洞調律に回復させることが重要と考えられます。しかし薬物的に心房細動を完全に予防することはしばしば大きな困難を伴います。

一方、慢性心房細動に移行した方が自覚症状は改善し、治療は心拍数と心不全のコントロールと血栓塞栓症の予防のためにワーファリンを内服すればよく、治療が簡単になるというパラドックスをしばしば経験します。

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■心房細動について

  1. 心房細動の心電図
  2. 心房細動と心拍数
  3. 心房細動の治療上の問題点
  4. 慢性心房細動と一過性心房細動
  5. 心房細動の原因
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  7. ワーファリンによる血栓塞栓症の予防
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