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学童と大人のための食物アレルギーQandA

2.緊急時の対応

Dr.みやけ

アナフィラキシーという強いアレルギー反応を起こした場合でも、適切な対応をとれば生命を守ることができます。

命にかかわる症状は、突然起こる呼吸困難(のどが腫れて呼吸ができなくなる喉頭浮腫、気管支喘息、おう吐した物での窒息)と、血圧の低下(ショック)、けいれん、不整脈(脈が乱れて脳に血液が送れなくなる)などです。

アナフィラキーのような強いアレルギー反応が起こった場合には、本人や周囲のとるべき対応ははっきりしています。アナフィラキシーは一刻を争う緊急事態で、そのまま様子をみていても治ることはありません。
エピペンを持っていればためらわずに注射する、救急車を呼んでできるだけ早く病院に行く、の二つの方法です。

しかし、すべての食物アレルギーがアナフィラキシーで発症するわけではありません。
皮膚の発赤やじんま疹、浮腫といった皮膚・粘膜症状だけの場合、のどや口の中の違和感(口腔アレルギー症候群・OAS)、腹痛やおう吐などの消化器症状だけの場合も、食物アレルギーでは多くあります。
このような場合にも、あわてずに適切な処置をとることがたいへん重要です。

食物依存性運動誘発アナフィラキシーでは、ある特定の食物(小麦が多いですが、その他に甲殻類、果物、野菜、ナッツ類などがあります)を食べた後、2時間以内に運動することでアナフィラキシー反応が起こります。
食事を食べた後(多くは昼食後)、体育や遊んでいるときに、突然じんま疹が出てきて、呼吸がゼーゼー・ヒューヒューいいだします。そのうちに意識がもうろうとなって倒れてしまいます。ひどければ死に至ることもあります。
食事から運動までの時間は1時間以内が多いのですが、食事から運動を始める時間が早いほど、発症しやすくなります。食後の運動の多くは球技やランニングなどですが、もっと軽い運動、散歩や入浴などでも起こることがあります。

給食を提供する小学校や保育所、幼稚園では、このようないろいろなタイプの食物アレルギーに遭遇する機会が多いと思われますし、子どもが小さいだけにスタッフの責任が大きくなります。もちろん年齢にかかわらず、家庭内でもまた外食中にでもこのようなアレルギーが起こる可能性があります。

アナフィラキシーに備えて、エピペンを持参する学童やおとながこれからますます多くなっていくことでしょう。しかし、実際に食物アレルギーが疑われたときに、どのタイミングで正しくエピペンを注射するのかは、意外とむつかしいです。

わたしの診療所で実際にあった、食物アレルギーの小さな例です。その小学生にエピペンを注射するかどうか、1時間以上様子をみていたことがあります。家庭や学校での対応について、いくつか示唆に富んでいると思われるので紹介します。

  • 7歳の小学生、他の小児科医から食物アレルギーに対してエピペンを処方されていた。
  • 夕方の6時半ころにクッキーを食べて5分後に、のどの違和感を子どもが訴えたために本院を受診された(7時過ぎ)。
  • 処方された小児科医はすでにその日の診療をすでに終了されていて、連絡が取れなかった。
  • その小児科医では、ただちに自宅でエピペンを注射するように指示されていたらしいが、子どもの症状が軽いのでエピペンを注射して良いかどうか分からないと母親。
  • その子の食物アレルギーの症状は、今までは食べ物を口にしてから1時間から2時間ほどして遊んでいるときに出てくるため(食物依存性運動誘発アナフィラキシー?)、母親は一人では自宅で様子をみることが怖くてできない、エピペンをどうやって注射して良いかも分からないと話された。
  • その間、子どもにはリンデロンシロップを内服させたが、子ども自身は元気な様子。

このようなケースは、これから家庭でも、学校でも多くなるのではないかと思われます。万一、子どもが目の前で突然アナフィラキシーを起こしたら、エピペンをただちに注射して救急車を呼ぶことに、誰もためらいはないはずです。

問題は、エピペンを持参している子どもが、皮膚や口の中の比較的軽い症状で食物アレルギーを起こした場合に、どう対応するべきか? です。その時は軽くても、時間がたつにつれて喘息発作や呼吸困難を起こしてくるとたいへん危険です。

このときに感じたことを列挙してみます。

  1. 医師がエピペンを注射することは簡単ですし、エピペンは誤って注射しても怖い薬ではありません。しかし、注射した後から起こるかもしれない、遅発性アレルギー反応を予防できるかどうか?したがってエピペンを注射した後は、とくに学童では必ず救急車で病院に行くことを決めておく必要があります。
    ⇒エピペンを注射した場合には、必ず病院に行って経過観察を受けること
  2. 小児科医からはただちにエピペンを注射するように言われていましたが、アレルギー症状が軽いときには必ずしもエピペンは必要ないことがあります。症状に応じた対応の仕方を、親や本人に詳しく説明する必要があると感じました。
    ⇒食物アレルギーの症状に応じた対処方法をつねに用意しておくこと
  3. 親や本人にエピペンの注射方法を十分に教育しておかないと、いざという時に怖くて注射ができないおそれがあります。
    ⇒エピペンの注射の方法をふだんから練習しておくこと
  4. エピペンを渡した場合には、少なくとも緊急時の医師との連絡方法を確認しておく方が、より安全ではないかと感じました。
    ⇒緊急時の連絡方法を主治医と相談して決めておく方が安心
  5. 家庭や学校、保育所、幼稚園でこのような食物アレルギーが起こった場合に、常に親や周囲の人が慌てずに、冷静に対応できるでしょうか?私自身は、はなはだ疑問に感じます。
    エピペンを注射したり、持参の薬を正しく使うには、ある程度の医学的な知識と判断が必要になります。救急車が来るまでの十数分間に、顔色をみたり、脈を調べたり、全身状態観察する必要があります。救急隊員が到着するまでの対応方法は、患者の生命を左右するだけでなく、後々の責任問題にも発展しかねません。
    ⇒アナフィラキシーを起こした場合には、周囲の人がしり込みをするのではなく、適切に対応をとる必要がある。そのためにも、幼児や学童を預かる施設では、ふだんからマニュアルを作成して、緊急時に備えておくこと

※このサイトは、地域医療に携わる町医者としての健康に関する情報の発信をおもな目的としています。

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学童と大人のための食物アレルギー

1.食物アレルギーについて

2.緊急時の対応

  1. 食物アレルギーを起こしたときの、症状に応じた対処方法を教えてください。
  2. エピペンについて教えてください。
  3. エピペンを誤って注射したとき、副作用など怖くありませんか?
  4. エピペンは皮膚を消毒しないで注射しても大丈夫ですか?
  5. じんま疹や口の違和感(OAS)などの、比較的軽いアレルギー症状の時に使う、内服薬を教えてください。
  6. 食物アレルギーがある子どもの外食時の注意について教えてください。
  7. キャンプ場、ボーイスカウトで野外料理のときの注意について教えてください。

3.食物アレルギーの診断と検査

4.食物アレルギーの特徴


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