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町医者の診療メモ Dr.みやけの20年の経験で培われた一種の「診察のコツ」をまとめます。

血液検査からみた診断へのアプローチ

Dr.みやけ

「疲れやすい、体がだるい、熱っぽい、吐き気がする」、「食欲がない、体重減少が気になる」、「関節が痛い・はれている、筋肉痛がある、しびれがある」などという訴えは一般的なものばかりです。

このようなとき患者さんが始めに訪れるのが内科診療所ですが、いろいろな原因を考えなければならず内科医としては悩みの多い症状です。

こんなとき、血液検査は診断につながる有力な手がかりを与えてくれます。検査で何か一つでも説明のつかない異常がみられたとき、原因疾患に気がつくきっかけになることがあります。私のベッドサイドの経験から得られた、「血液検査の結果からみた診断の流れ」を紹介します。

*表1の中のB2・SC4という項目は院内採血セット名で便宜上の名前です。その詳しい内容は表2に記しています。

困ったときの血液検査の流れ 1st step
(表1)

B2とは 白血球数
赤血球数、血色素量、ヘマトクリット値、MCV、MCH、MCHC
血小板数
白血球像
SC4とは 総蛋白、アルブミン、蛋白分画、血糖、CRP
尿素窒素、クレアチニン、尿酸
総コレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪
ZTT、総ビリルビン、直接ビリルビン、AST、ALT、ALP、LAP、LD、CHE
γ-GTP、CK、アミラーゼ

(表2)

血液検査の結果だけでなく、患者さんの症状は大切です。注目すべき症状について表にしました。これらの症状は初診時にはなくても、経過観察中に出てくることもあります。

注意すべき主な症状
  1. 発熱・体重減少・脱力感、倦怠感
  2. 皮膚症状(紅斑、紫斑、潰瘍、リベドなど)
  3. 関節痛・関節のはれ
  4. 筋肉痛・筋力低下・手足のしびれ
  5. 目の異常  など

1st step

基本的な検査としてまず、B2・SC4(院内検査セット) に加えて血沈、カルシウム・リン(Ca・P)、グリコヘモグロビン(HbA1c)などを調べます。また検尿を行い、異常があれば尿沈渣を調べます。

血液一般検査では、白血球数や血小板数、白血球分類にとくに注意します。白血球数と血小板数の減少があれば、膠原病の中で全身性エリテマトーデスを疑います。白血球分類ではとくに好酸球数に注目します。好酸球の増加は、好酸球性血管性浮腫、好酸球性肺炎、好酸球増多症候群、ANCA関連血管炎、副腎皮質機能低下症、血液腫瘍など比較的まれで診断のむつかしいとされる病気に気がつく手がかりになります。

血沈は時間がかかること、疾患特異性に乏しいことなどから最近は敬遠されがちです。しかし、血沈はいろいろな病気で亢進するので、何か異常があるのではないかというきっかけを与えてくれる重要な検査手段です。血沈の欠点は時間がかかることと、正常値が今一つはっきりしないことなどでしょう。
血沈の正常値(1時間値)は、男性は年齢÷2(mm)まで、女性は(年齢+10)÷2(mm)までと考えるのが実際的です。説明困難な血沈の亢進から胸部大動脈瘤切迫破裂に気がついた経験があります。
時間がないときには、数分で結果が分かる簡便法もあります(血沈棒を約45度傾斜する方法)。

Ca・Pは副甲状腺機能異常、悪性腫瘍の骨転移、骨髄腫、サルコイドーシス、骨軟化症、くる病、(骨粗鬆症治療薬による)ビタミンD過剰症などで変化します。高Ca血症では食欲低下、吐き気、口の渇き、筋力の低下などの症状が出やすくなるので見逃さないことが大切です。

グリコヘモグロビン(HbA1c)は血糖とともに糖尿病診断のための検査です。

高齢者の検尿で赤血球や蛋白の増加が認められたときは、診断のむつかしいとされる血管炎症候群を疑う必要があります。

膠原病の検査の中でANA(抗核抗体)とRF(リウマチ因子)の組み合わせは、いろいろな膠原病の中で最も陽性率の高い検査でスクリーニングとして有用です。

甲状腺機能異常は年齢を問わず、もっとも一般的な病気の一つです。若い女性に多い機能亢進症ではどうきや手足のしびれ・ふるえ、過食など分かりにくいことがあります。高齢者の機能低下症ではうつ病や認知症と間違われることがあります。

フェリチンは再生不良性貧血、悪性リンパ腫、白血病血球貪食症候群、成人発症スチル病などでは増加することがあります。フェリチンが鉄欠乏性貧血で減少するのは有名ですが、増加していたときは診断の難しいこれらの病気の可能性を考えます。

これらは内科診療所でも簡単に検査できる項目の組み合わせで、実際には初診時に同時に行うようにしています。必要に応じて、2nd stepの検査を追加することがあります。

2nd step

2nd stepとして考える血液検査ーその1

トロポニンTとD-ダイマー、NT-proBNPは診療所でも簡単に検査ができるキットがあります。胸痛や息切れ、下肢浮腫などの訴えがあったとき、これらの結果から、心筋梗塞、肺塞栓、大動脈瘤、心不全の悪化、深部静脈血栓症などに気がつくきっかけになることがあります。もちろん心電図や胸部レントゲン撮影、心臓超音波検査を必要に応じて行います。

腫瘍マーカーはいろいろありますが、一度に多くの検査を行うことはできません。CEA・CA19-9の二つの組み合わせはスクリーニングとして有用です。

2nd stepとして考える血液検査ーその2

これらの検査は膠原病を疑うときに行う検査です。抗SS-A抗体はシェーグレン症候群、抗Scl-70抗体は強皮症、抗Jo-1抗体は多発性筋炎や皮膚筋炎、CH50や抗DNA抗体は全身性エリテマトーデスを疑うときに検査します。
これらは初診時に行うよりも、1st stepの結果や症状などから膠原病が疑われたときに行う追加検査です。

3rd stepとして考える血液検査

さらに必要に応じて、3rd stepにあげた検査を計画します。これらは実際には専門医のもとで行われることの多い検査です。これらの中でACTHとコルチゾル値(早朝9時までに検査)は、副腎皮質機能の評価のために必要があれば、私の診療所でもぜひ行いたい検査と考えています。

最後に

内科診療所にはさまざまな病気を抱えている人が訪れますが、患者さんが最もよい教科書という古い格言をつくづく実感しています。教科書で得られた知識は断片的ですが、実際に患者さんをみたときに知識が有機的に結合する気がします。

一人の患者さんの診察時間はせいぜい10分前後です。じっくりと時間をかけて診察したいところですが、次に待っている患者さんのことを考えるとそんなに時間をかけるわけにはいきません。そのため短い診察時間の中でも、効率よく診断できる方法がないものか考え続けてきました。
ここに上げた考え方はまだまだ改善の余地を残しているわけで、一生勉強といったところでしょうか。

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