急な胸の痛み(胸痛発作)が起こる病気の説明
1 不安定狭心症、心筋梗塞
不安定狭心症と心筋梗塞は心臓を栄養している冠動脈が血栓により詰まりかかったときに起こる病気です。これらは連続した病態なのでまとめて急性冠動脈症候群と呼ばれます。冠動脈が詰まると血液が流れなくなるため、心筋が壊死します。突然死だけでなく、後遺症として心不全などを起こします。
心筋梗塞と糖尿病の関係は深く、糖尿病予備群と言われる状態の時から冠動脈の動脈硬化は進行します。実際、心筋梗塞を発症した多くの人が、いわゆる糖尿病予備群や軽い糖尿病の状態を持っています。高血圧が主な原因で起こる脳梗塞が減る一方で、心筋梗塞は増加しつつあります。
2 大動脈解離
大動脈の内膜に亀裂が生じ、そこから血液が中膜の隙間に侵入したものが大動脈解離です。原因不明の中膜壊死や動脈硬化が原因と考えられます。急に発症し、ときに大きな解離腔を形成するため、解離性動脈瘤とも呼ばれます。
ふつうは失神するほどの激痛が突然始まります。解離が進むにつれて、数回にわたって激痛を感じることが多く、胸部から始まり腰部に広がることがあります。痛みがそれほど強くないと、大動脈解離は救急外来で16~38%が見逃されているという恐いデータがあります。
3 肺塞栓症
肺塞栓症はエコノミークラス症候群と関係が深い病気です。航空機や自動車内に窮屈な姿勢で、長時間にわたり座ったままといった状況で起こるものがエコノミークラス症候群です。窮屈な姿勢で股付近の大腿静脈を圧迫し続けると、その部位に血栓が形成されます。その血栓が肺に飛んで肺動脈が詰まると肺塞栓症を起こします。
車いすで生活する高齢者や寝たきり状態では、大腿静脈などの深部静脈に血栓を起こしやすく(深部静脈血栓症)、肺塞栓症を起こすことがあります。妊娠中やピルを内服しているときにも起こりやすくなります。こうした若い女性で急に呼吸困難や胸の痛みを起こしたときには、肺塞栓症を忘れてはいけません。体質的とされる血液凝固異常でも起こります。また入院中に起こることがあります。安静が必要とされる手術や骨折の後、ガン治療などで4日以上ベッドに寝たきりだった場合に起こりやすいと言われます。
おもな症状は急な呼吸困難・息切れですが、胸の痛みもそれに続いて多い症状です。肺塞栓症はまれな病気ではありませんが、診断が難しく見逃されているケースが多いと言われます。
4 心外膜炎
心外膜炎とは、ウイルスや細菌の感染などにより心臓の外側を被う膜に炎症が起こる病気です。初期症状は、発熱や咳がでるなどの風邪によく似た症状です。胸痛や呼吸困難も伴ってきます。結核性心外膜炎は慢性に経過すると収縮性心外膜炎と呼ばれ、液体(心のう水)が貯留するだけでなく心不全を起こします。
5 気胸
気胸は肺から空気がもれて肺の外にたまった状態です。肺が空気に押されて小さくなります。気胸は比較的若い、背の高いやせた男性に多く発生します。肺の上部にブラと呼ばれる袋ができ、ここに穴があくと気胸になります。気胸を起こすと胸の痛みや息切れを感じます。気胸の中で緊張型気胸は緊急性の高い重篤な病気です。おもに事故や外傷が原因で起こりますが、すべての気胸で起こりうるため注意しなければなりません。高齢者でも肺気腫などの肺疾患があると気胸を起こすことがあります。
一般に気胸の広がりが、鎖骨を超えない程度では自然に吸収されますが、鎖骨を超えると入院治療が必要になります。
6 胸膜炎、肋間神経痛、帯状疱疹、逆流性食道炎や胆石の発作
若い人が急に胸部痛を生じると胸膜炎が原因のことがあります。ふつう発熱はなく、さし込むような痛みが片側の胸部に起こります。胸部X腺を撮影すると診断できます。
肋間神経痛については詳しくは本サイトの(よく見られる大人の病気・症状:肋間神経痛)をご覧下さい。
胸膜炎や肋間神経痛の原因が悪性腫瘍などの浸潤による場合は、致命的になるため注意が必要です。
帯状疱疹では疱疹が出現する前に、片側の胸部がピリピリと痛むことがあります。ズキンズキンという痛み方ではなく、衣服などがこすれるとピリピリと痛みます。疱疹が出てくるまでは診断ができないため、一週間くらい痛みのある側の背中から胸部にかけてニキビのような疱疹が出てこないか注意します。
逆流性食道炎は一般的な病気ですが、胸やけやゲップといった定型的な症状でなく、胸の痛みで発症することがあります。また胆石の発作が、狭心症とよく似た胸の痛みで起こることがあります。これら消化器系の病気も胸の痛みの原因になることを忘れてはいけません。
これらの中で恐いのは、1不安定狭心症・心筋梗塞、2大動脈瘤解離、3肺塞栓症の三つで、これらの病気を見逃してはなりません。
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