患者が「めまい」と言って診察に訪れたら、どういうアプローチをしたらいいのでしょうか?
1、めまいへのアプローチ
患者が「めまい」と言って診察に訪れたら、どういうアプローチをしたらいいのでしょうか? 耳鼻科からのアプローチとかいろいろありますが、ここでは主に脳神経の疾患を中心に、内科的な疾患や、耳鼻科的な疾患を含めながらに述べることにします。
日本はこれからますます高齢者社会となっていき、脳神経と関係が深い高齢者のめまいをみる機会が多くなると予想されるからです。
三種類のめまいの鑑別
頭痛が一般的であるように、日常の外来では多くの患者がめまいを訴えて診察に来られます。小児科でも目が回る患者はいますし、婦人科ではもっと多いでしょう。
めまいには下の図のごとく3種類ありますが、めまいの訴えがあった時はそのどれかということをまず決めることが大事です。
図13種類のめまいの鑑別
めまいは回転性か?
一番わかりやすいのは回転性めまいです。「めまい」といったときに、本当に景色がぐるぐる回っているのか、それとも、ただフラフラしているのかを判別します。回転性でない場合は2種類しかありえません。
一つは患者がよくいう立ちくらみです。立ち上がったらクラッとしてしまったという立ちくらみです。これは意識がなくなる直前の状態で、立った瞬間に血圧が下がって、意識中枢のある脳幹網様体が虚血を起こして起こるのが、この病態生理です。原因は何であれ、何らかの形で脳幹が虚血に陥るのが立ちくらみの本態の姿です。
次はふらつきです。いつもフラフラ、フワフワ浮いたような感じ(浮動感)がするとか、何となく揺れている感じ(動揺感)がするとか、フワッとしているとか、そういうようなことを患者が言えば、軽度の内耳障害のこともありますけど、多くは中枢性の平衡障害が起きていると考えます。体の平衡をとっている部位は脳幹と小脳てす。失調という言葉があります。酒に酔っぱらった人が歩くとよろけるのはまさに失調です。ですから、その軽い程度のめまいが起こったと考えると、このふらつきがよく理解できます。
高齢者と若年者のめまい
脳幹や小脳に虚血が起こると、このようなふわふわする浮動性のめまいが起こってきます。高齢者の浮動性めまいの場合には、脳幹循環不全、したがって椎骨脳底動脈不全症を考えなければなりません。すなわち脳卒中の前兆かもしれないという注意が必要です。地震でいうと大型地震の前の予震なんだということをちゃんと説明する必要があります。
若年の方にはよくみられる起立性調節障害があります。これが一番多い原因です。若い女の子がよく朝礼中にひっくり返るのがその例です。これは一時的な血圧の調節障害によって血圧が落ちて、フラフラしているわけです。
脳には大脳、小脳、脳幹、脊髄があります。脳幹中心に脳幹網様体があって、この活動が大脳を活性化しています。(図2)
車でいうとエンジンに相当し、それによって意識を維持しています。脳幹の橋の真ん中より上(上位脳幹)の綱様体が意識の維持に関係し、橋下部網様体が呼吸中枢、延髄網様体が循環(心臓)の中枢で、脳幹のそれぞれの高さの障害で意識消失(昏睡)、呼吸停止(無呼吸)、心停止が起きます。
図4のように、脳幹を腹側からみると、2本の椎骨動脈が延髄と橋の境目で一緒になって、1本の脳底動脈となり、中脳上端でその先が2本の後大脳動脈に分かれます。右小脳半球をとって見えやすいようにしてあります。後大脳動脈は後頭葉の内側の視覚領野に血流を供給しています。
2、眼前暗黒感
もし何らかの状態で血圧か下がって椎骨動脈の血液が足りなくなってくると、椎骨脳底動脈系の末端である後大脳動脈から虚血となり、視覚領野が虚血して目の前が真暗くなるのです(眼前暗黒感)。
眼の前が暗くなるということは、景色がみえるのに視覚中枢に血液がなくなることによって見えなくなる中枢性の視力障害を意味します。両側の視覚領野の血液が足らなくなっている、すなわち脳底動脈の血液が足らないということを逆に患者が教えてくれているわけですが、次の瞬間血液循環が上位脳幹まで足らなくなってくると、意識がなくなるのです。てすから、眼の前が暗くなってストンと倒れたら、脳幹虚血の典型的な例で、英語で“black-out”といいます。
眼前暗黒感というものは常に後頭葉の虚血状態であり、その原因は脳底動脈、椎骨動脈の循環不全、すなわち脳幹の循環不全です。脳幹は生命の維持に大切な部位ですから、眼前暗黒感を訴えた患者をそのまま帰すのは危険です。その時にいくらにこにこしていても関係ないのです。
3、起立性のめまいとシェロングテスト
立ちくらみの患者にはシェロングテストをやる必要があります。
起立性めまいの例
典型的な例を挙げます。この患者は寝ているときは何ともないのですが、起きると景色がぐるぐる回って吐き出す典型的な起立性のめまいです。シェロングテストでも典型的な起立性低血圧があります。
この方はもともと高血圧で、寝ていたときの血庄は170/110です。1分おきに血圧を測るわけですが、立つと死んでしまう可能性があるのでベッドのところに座らせたら血圧がストンと落ちる。最低血圧と同じぐらいに最高血圧が落ちる。これは10分間にわたってそうなのです。しかし、寝かせると血圧かボンともとに戻る。これは典型的な起立性低血圧です。
若い人では起立性調節障害がよくありますが、高齢者の場合にはほとんど間違いなく脳幹に梗塞があります。脳幹にある自律神経中枢が壊れると血圧は調節できないのです。
シェロングテストとは?
まず3分間横になり安静にさせて血圧を測り、安定してからすばやく立たせ、その直後に血圧をはかるという簡便法です。
ここですでに血圧が下がれば診断は決まったのでそれ以上は続けません。ところが中にはゆっくり血圧が下がる人がいるので、すぐ測って何ともないと思っても安心しないで、立たせて下がらなかったら、そのまま立たせて3分ぐらい経ってもう一回測ります。起立直後と3分後に血圧を測る。3分やっても下がってこなかったら、中止するというような簡便法です。これは日常の外来診療で役に立ちます。
お年寄りがヒョロヒョロと倒れて、「眼が回った」というのでシェロングテストをやったら、みごとに起立性低血圧を示すことがあります。ですからこのテストはばかになりません。
陽性の場合は、高齢者では脳幹梗塞が疑われるので専門医に紹介してみてもらいます。必要によって脳梗塞の治療と再発予防を行います。
若い人はもちろん起立性調節障害でしょうから、運動療法などに加えて低血圧の治療薬を投与します。
88歳 男性の症例
症例)88歳 男性
以前より、四肢末端のしびれあり。1力月前より、起立した途端に数分間フワッとした感じがするようになった。立ち上がった途端にフワッとするので、起立性低血圧が疑われるので、このような場合には高齢者では特にシェロングテストをしなければなりません。
>>次ページで、めまいと脳循環調節機構、回転性めまいについて解説します。
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