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町医者の診療メモ Dr.みやけの20年の経験で培われた一種の「診察のコツ」をまとめます。

めまい:脳からみためまいを中心に

<< 4.めまいと脳循環調節機構、5.回転性めまい

6、危険なめまい、危険でないめまい

症状からみると、 回転性めまいは次の3種類に分けることができます。

  1. 頭痛を伴っている
  2. 聴覚症状(聴力低下、耳鳴、耳閉塞感など)を伴っている
  3. 何も伴っていないめまいだけ

回転性めまいが起こったときには、まず「頭痛があるかどうか?」が大切です。頭痛があったら、小脳出血と良性再発性めまい(片頭痛性めまい症)の2種類を考えます。

良性再発性めまいは片頭痛に伴ってくるめまいで生命に危険はないのに対し、小脳出血は死ぬ可能性のある危険なめまいです。頭痛を伴うめまいには危険なものとそうでないものと2種類あることになります。

頭痛、めまい、嘔吐を伴う例

【症例】47歳 女性
高血圧を指摘されるも放置。
午前2時、頭がガーンと痛くなって目が覚め、2階から1階のトイレへ自分で歩いて降りた。
トイレの中で景色がぐらぐら揺れるめまいと激しい嘔気が出現した。

突然、頭がガーンと痛くなったのは突発ピーク型の頭痛(※1)で、くも膜下出血や脳出血が起こったかもしれないことを意味します。したがってめまいはなくても、急いで救急車を呼んで脳外科に行く必要があります。

この場合では2階から1階のトイレへ降りていき、初めてめまいと嘔吐が出現しています。これが危険なめまいの特徴、「頭痛、嘔吐、めまい」です。脳出血は非常に進行が早いので、直ちに脳外科へ送らないといけません。

この突発ピーク型の頭痛にめまいと嘔吐が加わったら、すぐに救急車を呼ぶことが大切です。

(※1) 危険な頭痛とは
  1. 突然発症するとともに(何をしているときに頭痛が起こったか?はっきりと記憶している)、ピークに達する頭痛(突発ピーク型)
  2. 今までに経験したことのないような激しい頭痛
  3. いつもと様子を異なる頭痛
  4. 頻度と程度が増していく頭痛
  5. 50歳以降に初発した頭痛

良性再発性めまいの診断

良性再発性めまいは、一般には広く知られていませんが、診断のポイントははっきりしています。

  1. 本人自身が片頭痛をもっているか、もしくは家族に片頭痛の人がいる
  2. 寝不足、疲労、ストレス、アルコールで起こりやすい
  3. 頭痛と同時に急性の突発性の持続性の回転性めまいが突然起こり、早い人は1分で止まりますが、長い人は24時間、延々とまわり続けて吐き続けます。それがおさまると、今度は頭の位置を動かしたときだけに、持続の短い(30秒以内の)回転性めまいが何回か続いて一段落します
  4. 多くは聴覚症状や耳鳴を伴わないし、難聴をきたしません

片頭痛性のめまい

【症例】42歳 女性
中学生の頃より、疲れ・寝不足・ストレスの時に、月1回、目がチカチカする感じの後に拍動性の頭痛が30分発生する。
20歳よりセミの鳴くような持続性耳鳴があるが、2~3カ月前より、頭痛と共に右耳鳴が増強し、回転性めまいが発生するようになった。
(家族歴:父・姉・娘-片頭痛)

このめまいはあとで述べる良性発作性頭位変換めまいとの鑑別になるのですが、以前から疲労、寝不足やストレス、曇天のときに数日間、ズキズキする頭痛が発生していました。

ズッキン、ズッキンというのは血管性頭痛を意味し、前ぶれとして目の異常(チカチカと星が飛ぶ、まぶしく感じるなど)などを伴っていることから片頭痛と考えられます。そして、このめまいは常に片頭痛発作とともにやってくるということですから、連動しているわけです。

片頭痛のほうがめまいよりも歴史は長く、後から片頭痛にめまいが起こり始めたというときは、片頭痛性の回転性めまいが最も疑われます。

良性発作性頭位変換めまい

良性発作性頭位変換めまいは、頭を急に動かすと途端に眼が回りますが、30秒以内におさまる、立て続けに動かすとだんだん弱くなって起こらなくなるが、しばらく休憩するとまた起こってくる、つまり、頭を動かさなければめまいが起こらないが、動かすと起こるという特徴があります。

これは生命に危険がないということから、「良性」という名前がついています。しかも3曰ぐらい続くが、あとは数ヶ月なかったとか、何年もなかったとかいう形で発作がくるのが特徴です。

発作がくると、めまいは頭位変換(頭の位置を動かす)のときにのみ起こり、じっとしていれば起こらない、これが良性発作性頭位変換めまいです。

良性発作性頭位変換めまいは耳石障害といわれていますから、危険なめまいではありません。外来のめまいの大多数はこれです。

聴覚症状を伴うめまい

次は聴覚症状を伴う回転性めまいです。これには、(1)突発性難聴、(2)メニエール病、(3)神経血管圧迫症候群 の3つがあります。

聴覚症状として主なものは、聴力低下、耳鳴、耳閉塞感などがあります。耳閉塞感はトンネルに急に入ったときや飛行機の発着時など急な気圧の変化で起こる耳の詰まった感じで、たいへん不快です。

(1)突発性難聴

突発性難聴のめまいと聴覚障害の関係を表す図1のようになります。

突発性難聴のめまいと超額障害図1突発性難聴のめまいと聴覚障害

聴覚症状は難聴のこともありますが、耳鳴や耳閉塞感のこともあります。急に回転性めまいが起こる同時に、聴力に関して何かの症状を持っていると突発性難聴やメニエール病、前庭神経炎などが疑われます。

【症例】突発性難聴 26歳 女性
とくに誘因と思われるものもなく、ある日突然右耳鳴が始まり、右耳がほとんど聞こえなくなった。数時間後激しい回転性めまいが始まり、悪心・嘔吐を伴った。
めまいは次第に軽快しつつあるが、1週間後の現在まだ右耳鳴は強く、右難聴も同じ状態が続いている。
しかし発作当時より今日まで、その他の神経症状は自覚していない。

突発性難聴では、ある日突然耳が聞こえなくなり、眼がグルグル回ります。そして聴覚(蝸牛)神経は再生しませんので、神経軸索まで壊されてしまった場合には、永久に耳は聴こえなくなります。ステロイド療法である程度聴力が同復した場合には、脱髄だけで軸索はまだ生きていたと言えます。

ところが、平衡(前庭)神経自身も再生しませんが、消失した平衡(バランス)機能は小脳で代償されるので、めまいのほうはだんだん回復します。

蝸牛(聴覚)神経線維(軸索)が助かり、蝸牛神経鞘のみ消失(すなわち脱髄)した場合では聴力がやがて回復しますが、これは経過をみないことには分かりません。

原因の一番多いのがウイルス感染後の聴神経炎と言われています。かぜの後に起こる多発性神経炎をギラン-バレ症候群と呼びますが、これはウイルス感染から回復して自己免疫ができると、突然脊髄や神経根に脱髄が起こって神経が麻痺してくると考えられています。

突発性難聴ではギラン-バレ症候群と同じことが聴神経(第8脳神経)に起こるわけです。かぜをひいて治って10日ぐらいして、突然耳が聞こえなくなり回転性めまいを起こしたら、ウイルス感染後の聴神経炎(第8脳神経炎)と診断できます。

代償作用のない聴覚神経

代償作用のない聴覚神経では、めまいがどうして治るかということですが、一側の前庭神経は死んでしまいますが、反対側の前庭神経なり小脳が喪失した機能を代償するからです。ところが聴力には代償機能がないのです。一方、めまいのほうは1~2週間で消失します。

脳卒中の防止に全力を

発症前にかぜをひいてない場合では、内耳が血行障害を起こした可能性が残ります(内耳梗塞)。つまり、脳底動脈自体またはその枝である前下小脳動脈から分枝した内耳動脈に塞栓症が起こると、内耳梗塞をきたし突発性難聴となるわけです。

耳鼻科では突発性難聴と一括して診断されますが、脳神経外科で診るこのような人の半分以上がかぜをひいていないので、塞栓症もけっこう多いと思われます。

内耳の血管障害とすると、内耳動脈は脳底動脈もしくは前下小脳動脈の分枝ですから、突発性難聴が起こったということは椎骨脳底動脈系の脳卒中の一部分現象が起こったと考えられ、大きな発作になる可能性もあるわけです。

次には脳底動脈血栓症がくる可能性があるので、脳卒中の予防に全力をあげる必要があります。

聴覚症状(難聴、耳鳴、耳閉塞感など)とめまいをほぼ同時に起こしたときには、かぜ症状(ウイルス感染)があったかどうかをまず確かめます。ウイルス感染があれば突発性難聴などを考えながら耳鼻科専門医に診てもらいます。

ウイルス感染がはっきりしない場合は脳卒中の可能性も考えながら、年齢、喫煙、高血圧、コレステロール異常、糖尿病など動脈硬化を起こしやすい疾患があるかどうか検査します。これらの合併があるときには脳外科的に対処することも考えます。

聴覚症状とめまいの起こった時期に大きなずれがあるときには、聴覚神経鞘腫など脳腫瘍やその他の病気の可能性も考えなければなりません。

(2)メニエール病

メニエール病はよく知られていますが、めまいが起こればすぐにメニエール病という診断が一番困ります。実際にはメニエール病は比較的珍しい病気で、回転性めまいのほとんどが先ほどの良性発作性頭位変換めまいです。

【症例】38歳 男性
約3年くらい前より、左耳鳴・耳閉感が始まると間もなく、激しい回転性めまいが発生。回転性めまいは約1時間続き、めまいが軽くなると、耳鳴や耳閉感も軽快する。
同様の発作を15回くらい経験している。

メニエール病というのは突発性難聴と違って、聴覚症状(聴力低下、耳鳴など)から始まり少し遅れて激しい回転性めまいが起こり、治まるときはほぼいっしょに治まるという発作性のめまいです。

突発性難聴では突然に聴力低下が起こり、めまいは回転性というよりはフワフワするめまいが数週間持続しますが、メニエール病では発作の回転性めまいが起こり、持続時間はせいぜい1~2時間です(最低1時間は続くというのも大切な特徴ですが)。

メニエール病の回転性めまいはたいへん激しいため起き上がることはもちろん、はって歩くことも困難なたいへん恐い思いをする、辛いめまいです。

メニエール病は内耳のリンパ水腫が原因と考えられています。リンパ水腫の起こる原因は明らかではありませんが、一種のアレルギー反応か血管運動障害(血管壁の水成分の出入りを調節する作用の異常で、血管運動性鼻炎とか血管運動性浮腫と同様の機序)と考えられます。

こうした機序を考えると、いったんメニエール病のめまいが起こると最低でも1時間くらいはめまいが続くわけで、30秒という短い時間では済まないわけです。これが次に述べる神経血管症候群による回転性めまいとの鑑別点になります。

*低音障害型感音難聴とは

回転性めまい発作を伴わない、耳閉塞感、難聴、耳鳴の持続の対策に困ることがあります。フワフワするめまいを伴うことがありますが、耳閉塞感(トンネルに急に入ったとき、飛行機の発着時など急な気圧の変化で起こる耳の詰まった感じ)が長時間続くため、たいへん不快な感じがします。

こうした低音障害型感音難聴や蝸牛型メニエール病(メニエール病非定型例でめまい発作を伴わない)はメニエール病の前段階と考えられています。ストレスが一因として考えられ、反復するストレスにより回転性めまいが加わりメニエール病に伸展する可能性があります。

蝸牛の内リンパ腫が原因として考えられイソソルビドが投与されることがありますが,水分摂取療法といって毎日十分な水分摂取により改善を図る治療法もあります。

(3)神経血管圧迫症候群

【症例】79歳 女性
主訴:めまい・耳鳴
現病歴:1年前より、1日に何回となく約1分間続く突然起こる耳鳴と回転性めまいがある。このめまいは、テグレトール300mg/日の投与により完全に消失した。

脳幹からは多数の脳神経が出ています。動脈が脳神経の一つのである三叉神経を圧迫すると、顔面に電気が走るような発作的な痛みを起こします。三叉神経痛の特徴はこの痛みが瞬間的に、繰り返し起こることです。

動脈が聴神経と前庭神経を圧迫すると、神経に活動電流が起こりキーンと耳が鳴り、回転性めまいを生じます。この例では発作はせいぜい1分以内に消失してしまいます。この例はメニエール病ではなく、神経血管圧迫症候群です。

テグレトールという薬は三叉神経痛などの特効薬ですが、ふらつきが出やすいことと薬疹を起こしやすいのが欠点です。

【症例】49歳 男性
拍動性の右耳鳴り出現。
約2カ月後に耳鳴の増強を伴う10数秒間の回転性めまいが1.5年間に4回。
2年後には発作が週1回に増加し、聴力低下を自覚するようになった。

この例も神経血管圧迫症候群です。検査の結果、椎骨動脈が大きくわん曲しているのが分かり、これが第8神経を圧迫していることが疑われました。

>>次ページで、頭痛や耳鳴を伴わない回転性めまいについて解説します。

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町医者の診療メモ

町医者の診療メモ:はじめに

(よく見られる症状と診察のポイント)発熱

(よく見られる症状と診察のポイント)頭痛

内科から見た肩こり

めまい:脳からみためまいを中心に

  1. めまいへのアプローチ
  2. 眼前暗黒感
  3. 起立性のめまいとシェロングテスト
  4. めまいと脳循環調節機構
  5. 回転性のめまい
  6. 危険なめまい、危険でないめまい
  7. 頭痛や耳鳴を伴わない回転性めまい
  8. 誘発されない回転性めまい
  9. 中枢性のめまいはなぜ起こるか?
  10. 高齢者のめまい感

関節痛・筋肉痛と内科の病気

血液検査からみた診断へのアプローチ

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