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町医者の診療メモ Dr.みやけの20年の経験で培われた一種の「診察のコツ」をまとめます。

めまい:脳からみためまいを中心に 8、9

<< 7.頭痛や耳鳴を伴わない回転性めまい

8、誘発されない回転性めまい

姿勢や頭の位置と無関係に起こる、すなわち誘発されない回転性めまいについて述べることにします。

これは突然にグルグル回るめまいが起こりますが、頭痛もなければ、聴覚も何ともなく、神経症状もありません、めまいだけが単発にくる、突発性の回転性めまいです。

これには前庭神経炎という病気のほか、脳幹の梗塞脳腫瘍一過性脳虚血発作てんかん発作などを考える必要があります。

前庭神経炎によるめまい

前庭神経図1前庭神経

前庭神経炎は先に述べた突発性難聴と同じで、ウイルス感染がおもな原因です。突発性難聴では、聴力関係する聴神経(蝸牛神経)と平衡感覚つまりバランスに関係する前庭神経(図1)もいっしょに障害されますが、ウイルスが前庭神経のみを障害すると聴力には影響しないで、激しいめまいだけが起こってきます。これが前庭神経炎によるめまいです。

前庭神経には代償機能があるので、数週間経つと改善してきます。かぜをひいて1週間ぐらいしてめまいが起こったという場合は前庭神経炎と診断できますが、かぜの症状がはっきりとしない場合には脳幹梗塞や脳腫瘍、一過性脳虚血発作なども考えなければなりません。

温度眼振反応(カロリック反応)による鑑別

この鑑別には、温度眼振反応(カロリック反応)が役に立ちます。氷水を耳の中に流すと、正常では必ず眼振が起こります。

前庭神経炎というのは、ウイルス感染後の神経炎で前庭神経が死んでしまうのですから、氷水を注入しても眼振もめまいも誘発されません。検査中にめまいが起こらずにふつうにしていたら、前庭神経はもう機能していないということですから前庭神経炎と診断できます。

脳幹梗塞や大脳の腫瘍で前庭神経核の全部が機能しなくなることは通常はありません。鼓膜を観察して鼓膜が破けてないという確認だけして、氷水がめんどうなら冷たい水道水を注射筒で20 ccぐらい注入します。患者がめまいや眼振を生じないときは前庭神経炎を考えます。前庭神経炎でなければめまいや眼振が起こります。したがって、この検査をするときには、検査の目的と意義をきちんと説明する必要があります。

遷延性めまいと一過性再発性めまい

原因不明の回転性めまいの中には2種類あります。数時間から数週間にわたって延々と眼が回るものと、一過性の再発型、つまり、短い回転性めまいが何回も何回も繰り返し起こってくるものと2種類に分かれます。

前者では前庭神経炎か脳幹梗塞か、この二つを考えます。一過性で再発性にくるものではてんかんや一過性脳虚血発作、神経血管圧迫症候群があります。

9、中枢性のめまいはなぜ起こるか?

一般には中枢性のめまいは神経症状を伴うことが多いと言われます。回転性めまいというのは前庭神経核、内側縱束、傍正中橋網様体という眼球運動に関係し、脳幹の背側の中心にある部位の機能障害で起こります。

めまい(眼振)を起こす部位と、麻痺(錐体路)やしびれ(内側毛帯、脊髄神経路)を起こす部位とはかなり離れています(図2)。眼運動系だけに梗塞や出血が起これば、めまい以外は神経学的には何も起こらないことになります。

中脳横断面・橋横断面・延髄横断面図2中脳横断面・橋横断面・延髄横断面

眼球運動をみることの重要性

延髄では、前庭神経核、聴力の蝸牛神経核、三叉神経核、顔面神経、錐体路が並んでいます。
脳幹では前庭神経核の周辺はもっとも血液が行きにくい場所なので、脳幹の循環不全ではまず前庭神経核のところから虚血になります。したがって、回転性めまいが起こります。循環不全が小さいとめまい以外の神経症状は伴いません。しかし、梗塞が少し三叉神経核に及ぶことがあります。めまいがあれば三叉神経核の機能を見ればよいことになります。三叉神経が異常なければ、他の神経学的な検査は正常だろうと考えられます。

顔面の知覚(痛みや触覚など)を支配する三叉神経というのは、1枝、2枝、3枝と分かれ、図のように支配しています。これは三叉神経末梢の場合で、三叉神経核の支配は異なります。

口唇の周囲のしびれから脳幹の循環不全を想定する

三叉神経図3三叉神経

延髄に三叉神経核があるのですが、これがタマネギの皮のような神経支配になっています(図3)。めまいを起こす前底神経核に隣接する三叉神経核が支配しているのは、口の周りだけです。めまいを起こした場合には、唇の周りがしびれているかどうかが大切です。ピンで口唇の周り、次いで頬のあたりを少し突いて、口唇の周りが鈍いかどうか調べます。

過換気症候群でやはり口唇の周りがしびれてくるといいますが,それは過呼吸されてしまうと血管が攣縮してくるからです。すると、前庭神経核と三叉神経のこの部分だけが虚血を起こすから、口唇の周りがしびれてくるのです。唇の周りのしびれというのは非常に大切な症状です。もしあれば、脳幹の循環不全を考えなければなりません。

脳幹の前庭神経核の近くに血管運動中枢がありますので、この両方が虚血しますと、この患者のように回転性めまいの発生と同時に血圧が異常に高くなります。血圧が高くなって眼が回ったわけではないので、高血圧性脳症などと判断してはいけません。

視床病変によるめまい

中枢性のめまいの場合、脳幹だけが原因だというイメージを与えてきました。脳幹以外の大脳はめまいを発生するのかという疑問が起こります。

内耳から入ってくる前庭神経の刺激は、脳幹を通っていろいろなところを通りますが、最後は視床を通って頭頂葉の2v野(図4)といわれる所に行きます。つまり、このどこが障害されてもめまいを生じます。このどこかがてんかんなどで発作性放電を起こしてもめまいが起こる、ということも分かってきました。

頭頂葉図4大脳

視床の役割

視床の位置関係図5視床の位置関係

すべての大脳皮質は視床(図5)の特定の核と相互連絡をとっています。私たちの手足の感覚は視床のVPL核を経由して頭頂葉で統合されていくのですが、平衡感覚はこの前庭神経核に入り、そこから上行して視床のVPI核をへて頭頂葉連合野で空間の認知ができます。 VPM核というのは顔からの知覚をうけるところです。

視床では、顔、手、足からの知覚に関与する核が図6のように並んでおり、ちょうど首の下のところがVPI核でめまいと関係の深いところです。

視床体性感覚中継枝(VPL、VPM、VPI)と身体局所との相関図6視床体性感覚中継枝(VPL、VPM、VPI)と身体局所との相関

【症例】68歳 女性
コタツに入っていて、トイレに行こうと立ち上がった時、頭がふわっとし自分の体が揺れる感じがし、数秒で治まったが、左手→左足→左の口角の知覚消失。

視床を介した回転性めまいの例です。数秒で治まりましたが、次の瞬間に左手の感じが消失して、足、口と、どんどんしびれてきたということは、図のように視床で梗塞がVPI→VPL→VPMへと進展していったわけです。

まずぐるぐる景色が回った瞬間に手がしびれ、足がしびれ、顔がしびれてきました。梗塞すると、めまいは止まります。つまり、最初に虚血を起こしたときに眼が回ったわけです。眼が回っているうちはよかったのですが、それが梗塞化してくるとめまいは止まりましたが、しびれが起こってきました。

>>次ページで、高齢者のめまい感について解説します。

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町医者の診療メモ

町医者の診療メモ:はじめに

(よく見られる症状と診察のポイント)発熱

(よく見られる症状と診察のポイント)頭痛

内科から見た肩こり

めまい:脳からみためまいを中心に

  1. めまいへのアプローチ
  2. 眼前暗黒感
  3. 起立性のめまいとシェロングテスト
  4. めまいと脳循環調節機構
  5. 回転性のめまい
  6. 危険なめまい、危険でないめまい
  7. 頭痛や耳鳴を伴わない回転性めまい
  8. 誘発されない回転性めまい
  9. 中枢性のめまいはなぜ起こるか?
  10. 高齢者のめまい感

関節痛・筋肉痛と内科の病気

血液検査からみた診断へのアプローチ

急な胸の痛み(胸痛発作)

いろいろある鎮痛薬

胸部レントゲン写真から考える肺疾患


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