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町医者の診療メモ Dr.みやけの20年の経験で培われた一種の「診察のコツ」をまとめます。

「肩こり関連症候群」とは?〈1〉

Dr.みやけ

どうしたら頭痛が良くなるのでしょうか?

今まで述べてきたのは頭痛の分類や病名に関することばかりで、一般的の方にとって最大の関心事である「どうしたら頭痛が良くなるのか?」という点がすっかりあいまいになってしまいました。
西洋医学では症状から分類そして診断名に至り、そこから治療法が決定されるという大きな流れがあります。症状や体質から治療に入る東洋医学との大きな違いです。

緊張型頭痛では肩こりを自覚していることが多いのですが、肩こりを自覚していない方もいます。その場合でもよく聞くと、首筋がこっていて重だるい、頭が重くすっきりしない、目頭が重くなり昼間でも眠たい感じがする、何となくボーとする、その結果ふわふわして何となくまっすぐに歩きにくい などと筋肉のこりが原因と思われる症状を持っている場合がほとんどです。

マッサージなどを受けた機会に「あなたは肩がこっていますよ」と指摘されることがあるように、肩こりがあっても気がついていないことが意外と多くあります。また、肩こりは肩周辺の筋肉のこりと単純に考えると、肩以外の首筋や頭部の筋肉、目の周囲の筋肉が疲れて緊張して起こる症状は、肩こりとは違うことが分かります。
これらの様々な症状をまとめてここでは便宜上、「肩こり関連症候群」と呼ぶことにします。

筋肉のこる部位の違いによって起こるさまざまな症状・・・「肩こり関連症候群」?
○頭周囲の筋肉では… 頭が重い、すっきりとしない、ボーっとする、ふわふわするめまい
○目の周囲の筋肉では… 目が疲れやすい(眼精疲労)、目頭が重く昼間でも眠たい感じがする、目を動かすと目の周囲が痛い、眼の奥が痛い
○首筋から後頭部の筋肉では… 首筋が重い、後頭部に電気の走るような痛み、髪の毛を触るとピリピリする感じ、歯が浮いた感じ
○胸部から背部の筋肉では… 胸の圧迫感があり何となく息苦しい、どうきがする、心臓や肺が悪いのではないかと不安感、疲れやすい、微熱感がある
○首の周囲の筋肉では… のどに物が詰まったような異物感・閉塞感

これらの症状は睡眠不足が続いたり、疲れがたまってくると悪化しやすくなります。天候の影響を受けやすく、雨の日が続いたり台風の影響で気圧が下がるときに悪化しやすい特徴があります。

【重要】
頸椎や肩関節の病気、胸郭出口症候群など整形外科的な病気や神経内科、心療内科、脳外科に関連した病気が基礎にあると、「肩こり関連症候群」と呼ぶさまざまの症状や上肢のしびれ・痛み、筋力の低下などが起こりやすくなります。
「肩こり関連症候群」は、肩周辺の筋肉のこりを原因とする症状の呼び名であり、これらの症状の原因となる病気は多岐にわたることに注意しなければなりません。
肩こりが原因と決めつけないで、専門医による診察と検査を受けることを忘れてはなりません。

どうして「肩こり関連症候群」という症状が起こるのでしょうか?

肩の筋肉は、一種類ではなくいくつも重なって存在し、機能や働きは異なっています。一般に肩の筋肉は背部では、付着部の上方は後頭部から首の後ろなどにあり、下方は肩甲骨から脊柱、肋骨などに広く存在します。胸部では付着部の上方はおもに鎖骨や肋骨などにあり、下方は肋骨や腹筋などにつながります。そのため、肩の筋肉は肩のみならず、背部や胸部に連なって存在します。次に述べる「肩こり関連症候群」のいろいろな症状は緊張型頭痛を訴える人だけでなく、いわゆる肩こりの強い人にも多くみられる症状です。しかしこれらの症状は主に頭部から首筋のこりが原因で起こりやすく、肩こりを自覚していない場合でも起こります。

息が苦しい、どうきがする

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肩こりが強くなると、背部や胸部の筋肉も緊張してこりが強くなります。
(図1)

肩こりが強くなると、背部や胸部の筋肉も緊張してこりが強くなります。(図1)そうするとちょうどビール樽の枠が樽を締め付けるように、背部から胸部にかけて筋肉の緊張によって締め付けられるようになります。その結果、圧迫感やどうきを感じるようになり、心臓や肺が悪いのではないかと不安になります。患者さんはしばしば、「息苦しい、空気が入りにくい、深呼吸しないと空気を吸い込みにくい」などと表現します。また全身の筋肉の凝りが強いと倦怠感、微熱感を感じるようになります。

このような症状は早朝に強く感じることもあれば、夕方にかけて強く感じることがあります。寝起きに感じるのは、睡眠中は体を動かすことが少ないため、寝起きは筋肉が固くなりやすいためと考えられます。夕方にかけて強くなるのは、仕事の種類や育児などにより、夕方にかけて疲れが蓄積されていくためと考えられます。

肩の筋肉群と後頭部から頭部にかけて存在する筋肉群の連続性はほとんどの場合はありません。したがって肩の筋肉群のこりが原因の肩こりと後頭部や頭部のこりによる症状とは同時に起こるとは限りません。これが緊張型頭痛には必ずしも肩こりを伴わない理由の一つと考えられます。緊張型頭痛と考えられる頭痛でも、肩こりを自覚していないことはしばしばあります。このため、緊張型頭痛の患者さんに「肩のこりが原因ですよ!」と説明しても「肩こりはないのに!」と納得してもらえないことがあります。

眼の痛み、目頭が重い

パソコンや細かな作業を長時間すると眼の疲れを感じるようになります(眼精疲労)。眼精疲労が起こりやすい要因はドライアイや乱視、近視などさまざまですが、結果として眼輪筋(図2)という眼の周囲にある筋肉の緊張が高まること、簡単に言うと眼輪筋のこりが原因と考えられます。眼輪筋がこってくると、まぶたが重くなり閉まるような感じになります。目頭が重い、昼間でも眠く感じるようになります。

眼精疲労と三叉神経痛(眼神経痛)

肩こりの強い人は後頭部や頭部の筋肉のこりを生じやすいのですが、それと同時に眼の周囲の筋肉(眼輪筋)のこりも生じやすくなります。頭蓋骨の眼窩の上下には上眼窩裂、下眼窩裂(図3)という凹みが有りそこには三叉神経から枝分かれした眼神経の末梢神経が走っています。眼輪筋が緊張すると、上下眼窩裂の眼神経の末梢部分が圧迫されて眼の痛みを生じることがしばしばあります。痛みの特徴は、まばたきをしたり眼を動かすと痛みを感じたり、ときには眼の奥に電気が走るように激しく痛みを感じることがあります。このような眼の痛みはふつう左右どちらか一方に起こります。(図4)

このような眼神経痛は三叉神経痛の一種と考えられますが、典型的な三叉神経痛とは異なるものです。症候性三叉神経痛と呼んだ方がよいかも分かりません。眼の痛みは緊張型頭痛と合併しやすいのですが、眼の疲れなどで単独で起こることもしばしばあります。

後頭部の電気の走るような痛み

首筋には幾重にも筋肉が重なって存在します。これらの筋肉は頭部を支えるために重要で、常に大きな力が加わっています。(図5、6)首筋の筋肉群は常に緊張しているのですが、ふつうこりを意識することは少ないです。しかし頸椎の疾患により、またパソコンなどのうつむいてする仕事に長時間従事していると、首筋の筋肉群は過度に緊張してこりを生じます。

後頭神経痛

首筋のこりが強くなると、左右どちらか(両方のこともあります)の後頭部に電気の走るようなビリっとした痛みが起こるようになります。またそのようなときに髪の毛をさわるとピリピリとした感じがします。このような痛みは耳介後部にかけて起こることもあります。間隔は数秒から数時間で一度痛み出すと数日から数週間継続します。ひどい時には、頭皮をブラシや指で触っただけで、飛び上がるほど痛くなることもあります。こうした痛みを後頭神経痛と呼びます。(図7)

後頭神経痛は首筋から後頭部の筋肉の緊張が神経を圧迫することから起こることが多いのですが、中には帯状疱疹が原因で起こることもあります。帯状疱疹では湿疹が出る数日前から後頭神経痛を生じることがあります。頭髪の中ににきびに似た湿疹が出てきたときには帯状疱疹を疑います。

後頭部には大後頭神経、小後頭神経、大耳介神経と呼ばれる神経が痛みなどの知覚に関係しています。大後頭神経は外後頭隆起(後ろの骨の出っ張り)の外側2.5cm、小後頭神経はさらにその外側2.5cmから出ており、これらの神経の出口を圧迫して痛みが増強すれば診断がつきます。

歯が浮く

肩こりが強いときに歯が浮くと感じることがあります。疲れやストレスがたまってくると歯が浮くように感じることがあります。歯科で調べてもらっても異常は指摘されません。口腔や下あごの知覚は主として三叉神経の一つ下顎神経が支配しています。首筋がこってくると下あごにかけても筋肉の緊張が高まります。その結果、何らかの機序で下顎神経の圧迫と血流障害を引き起こすのではないかと考えられます。正座を長くしていると足しびれますが同時に足がむくんだような感覚が生じます。これには末梢神経の圧迫と血流障害の両方が原因しています。これと似たことが歯の浮く原因ではないかと推測されます。

緊張感やストレスが強いと知らず知らずの間に歯を食いしばっていることがあります。睡眠中にも歯を強く食いしばるため、口腔粘膜には歯形が残ります。こうなると顎関節に負担がかかり顎関節症を起こすことがありますが、そこまで行かないとしても下あごにはかなりの負担がかかることになり、筋肉の緊張と血流障害を引き起こすのではないかと考えられます。

頭や首筋が重い、ボーっとして何となく集中できない

首筋から頭部の筋肉がこってくると、重だるく感じるだけでなく、ボーっとして何となく集中できないと感じることがあります。前頭部から後頭部にかけて頭部の筋肉(図8)がこってくると締め付けられるような、またきつめの帽子をかぶったような鈍い圧迫感を生じることがあります。こうなると吐き気を伴うことが多くなります。ちょうど船酔いや車酔いで吐き気を伴うのと同じです。緊張型頭痛ではこうした特徴を持った頭痛が起こりやすくなります。緊張型頭痛はいわゆる「肩こり関連症候群」の一つの症状として捕らえることができます。

肩と頭部の筋肉群の間には連続性がほとんどないことをすでに述べましたが、内科的なこりの症状のほとんどは、肩こりよりも頭部の筋肉のこりが原因ではないかと考えられるほどです。これに対して整形的な肩こりの症状は、頸椎や胸郭出口症候群、肩関節などの疾患が原因で起こり、肩こりだけでなく上肢のしびれやだるさ、筋力低下などを伴うことが多いと考えられます。

【緊張型頭痛の成因についてやや詳しい説明】

緊張型頭痛がどうして起こるのか?詳しいことはまだ解明されていませんが、次のようないくつかの機序が考えられています。緊張型頭痛に関連する部位としては頭部筋肉群および中枢神経の2つが考えられています。

頭部筋肉群の中で後頭部筋群は緊張型頭痛の主な病巣の一つと考えられていますが、これは後頭部筋群の頭蓋骨付着部の圧迫により生じる圧痛のためです。後頭部筋群の圧痛は、他の体部の筋肉よりも弱い圧迫で痛みが起こることが明らかにされています。さらに筋肉は骨の付着部位に近づくにつれて次第に神経支配の密度が濃厚になっていることが知られていて、骨膜と腱は筋肉に比べて圧迫に対する感受性が高いことが明らかにされています。後頭部や首筋はちょうど骨への付着部に相当し、骨膜や腱が存在する部位です。

さらに頭痛患者では圧痛を感じる閾値が健常人よりもより低く(敏感である)、その原因として後頭部の筋肉付着部の炎症性変化や中枢性機序が推測されています。また頭痛を誘発する機序として、後頭神経の圧迫、筋肉のけいれんなどの可能性が考えられています。

筋膜痛症候群は痛みを誘発する刺激点を筋膜に有する疾患で、緊張型頭痛の原因の一つとされています。この刺激点は、筋肉内の血管が筋収縮により圧迫されて十分な血流を得られない結果エネルギー不足に陥り、このエネルギー不足を修復しようとして白血球から炎症性物質が放出され、筋膜の知覚神経終末を刺激して形成されるのではないかと考えられています。

慢性緊張型頭痛の患者では、一般に全身の筋肉の痛みに対してより敏感になっていることが分かっています。この原因として中枢神経の関与が考えられています。緊張型頭痛では長時間の不適切な姿勢、運動不足、不眠などにより頭部や首筋の筋肉群の緊張が高まって痛覚神経が刺激されて痛みを生じ、さらに筋肉や筋膜の炎症や損傷は白血球からの疼痛物質の放出を誘発します。その結果、感覚神経終末の感作が生じて、弱い刺激でも疼痛を感じるのではないかとされています。痛みを感じ続けると、脊髄から中枢(大脳)にも影響が及んで、大脳レベルでもさらに痛みを感じやすくなるのではないかと考えられています。さらに緊張型頭痛ではストレスや不安、感情障害などにより大脳レベルの疼痛抑制システムもうまく作動しなくなり、中枢性に疼痛が抑制されにくくなると考えられています。このように緊張型頭痛では、筋肉の知覚神経と中枢(大脳)の間に悪循環が形成されて慢性化していくと考えられます。

参考文献
1)清水利彦、緊張型頭痛の病態と治療法、最新医学69巻6号2014年

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