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いろいろある認知症(3)

認知症の種類

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5せん妄と認知症

老人が急に入院したときや知らない土地に転居したとき、大震災など強いストレスにあったときなどに、注意障害(ぼんやりする)、幻視(実際にはそこにないものが見える)や錯視(実際にある物を、別の違う物と見間違う)、不安・興奮などが短期間のうちに起こることがあります。

せん妄は老人に多く起こりますが、その原因は複雑です。内服中の薬剤の副作用(特に抗コリン作用を持つ薬剤、ベンゾジアゼピン系の薬剤など)として起こることもあります。
せん妄の多くは一時的なもので、適切な対応により数日から数週間で改善しますが、治療をしなければ、永続的な脳障害に至ることがあります。

認知症の22~89%にせん妄を合併することが知られています。せん妄と認知症の鑑別は簡単ではありませんが、老人で認知症状が急に悪化したとき、あるいは行動・心理面での異常(BPSD)が急に発現・増悪したときにはせん妄をまず疑います
「見えない物が見えたり、突然興奮したりおびえたりすることはないか?」、「夕方から夜間にかけて症状があっかしないか?」などに注意します。

6老年期うつ病と認知症

うつ病は老年期にしばしば起こります。老年期うつ病の症状は、しばしば認知症の症状とオーバーラップするため両者の鑑別は容易ではありません。老年期うつ病の中には認知症に移行することは少なくありませんが、逆に認知症にうつ症状を伴うことも少なくありません。

老年期うつ病では抑うつ気分があまり目立たず、集中力・判断力・意欲などが低下し、記憶障害や認知機能低下を訴えることが少なくありません。家族からも「注意力低下」「集中力低下」などの症状が、認知症の始まりと誤解されることがよくあります

うつ病に伴うこのような認知症に似た状態は「(うつ病性)仮性認知症」と呼ばれますが、抗うつ剤による治療で改善が期待できます。「(うつ病性)仮性認知症」では、記憶障害というよりもむしろ遂行機能障害(動作や精神面の活動性低下)が多く、本人自身がこれらの症状を認知症よりも深刻に捕らえる特徴があります。

「うつ病」なのか「抑うつ状態(うつ状態)」なのかを区別することは大切です。「うつ状態」はうつ病だけでなく、ほかの精神疾患や認知症、また健常者でも起こることがあります。
また老年期うつ病や認知症では、「うつ状態」と「アパシー(無気力、感情鈍麻)」と区別することも大切です。うつ病では症状が不安や苦痛として訴えられることが多いのに対し、アパシーでは不安や苦痛の訴えがむしろほとんどみられません。

老年期うつ病では、認知機能低下が徐々に進行し認知症に至ることも少なくありません。おおむね約1.5~2倍程度のリスクになると報告されています。老年期の抑うつだけでなく、老年期以前のうつ病や抑うつの既往も認知症と関連があります。

アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症ではしばしばうつ病が合併します。アルツハイマー型認知症ではおおよそ20%程度と考えられています。レビー小体型認知症では初期には記憶障害は目立たずうつ症状を伴うことが多く、老年期うつ病との区別が困難です。幻視やレム睡眠行動異常、パーキンソン病に似た症状などがないか注意します。

7高齢者の認知症とてんかん

今までてんかんは小児期における発症率が高い疾患とかんがえられてきました。しかし近年いくつかの調査により、てんかんの発症率は高齢者でもっとも高いことが明らかになってきました。

てんかんの年齢階級別発症数

高齢者のてんかんの約45%がけいれんを伴わない複雑部分発作のみであることが報告されています。複雑部分発作の特徴は、けいれん発作を伴わない意識減損発作で前兆として自律神経失調症神経症状や、発作時の無動凝視や自動症、そして発作後の遷延するもうろう状態が挙げられます。

発作の始まりは、動作が止まり意識が曇ってぼんやりします。その後、意識の曇りが進み、様々な自動症が現れます。自動症そのものの持続時間は、2~3分程度です。たとえ長く続いても数分以内が通常です。しかし、自動症に続いてもうろう状態が30分以上から長時間にわたる場合もあります。
発作中の記憶はなく、あっても部分的であり、発作後に発作中のことを思い出せません。また、思い出すことができてもきわめて不充分です。

自動症の代表的な症状です。

  1. 落ち着かない様子で体を動かす
  2. 舌をならす。舌なめずりをする。唇をなめる。唇を咬む。舌を突き出す。口をモグモグさせる
  3. 顔をなでまわす。手をもむ。腕を振り上げる。着物の端をつまむ。ボタンをはめたりはずしたりする。ポケットをつまんで裏がえしにする
  4. 戸を開けたりたたいたりする。近くの物や人に関心を示すしぐさをする。人を威嚇するようなしぐさをする。手慣れた作業(洗濯物をたたむ、皿を並べるなど)をする
  5. 家の中や外を歩きまわる。家から飛び出す

複雑部分発作後のもうろう状態の多くは数分程度ですが、数時間から数日にわたって続くことがあります。また発作後に認知機能障害や、抑うつ状態が長引くことがあり、これらは認知症やうつ病とみ誤ることがあります。発作後の認知障害としてはもうろう状態だけでなく、さまざまな精神・神経症状が高い頻度で出現することが報告されています。

*出現頻度(持続時間):集中困難71%(6時間)、記銘障害66%(6時間)、見当識障害46(1時間)、思考の停滞42%(9時間)

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