「高血圧治療ガイドライン2009」では、最初に選択すべき降圧薬として、カルシウム拮抗薬、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)、ACE阻害薬、利尿薬、ベータ遮断薬の5種類が推奨されています。
しかし、ベータ遮断薬は気道や血管を収縮させたり、インスリン感受性を低下させる作用があることなどから、高齢者や糖尿病、気管支喘息を合併する場合には第一選択薬とはなりません。
また、メタ解析では心疾患のイベント抑制効果については他の降圧薬と同等だが、高齢者の脳卒中予防効果は劣るとの成績があることから、ベータ遮断薬を今後も第一選択薬として位置づけておくべきかについてはさまざまな見解があります。専門家は、「ベータ遮断薬の使用頻度は決して高くはないが、適切な患者に投与すれば非常に有用性が高い」と強調しています。
心不全や心筋梗塞後は積極的適応
ベータ遮断薬は、交感神経抑制による心拍出量の低下やレニン産生のなどにより降圧する薬剤で、冠動脈疾患が多い欧米ではわが国よりよく使用されています。
心筋梗塞患者に対しては、内因性交感神経刺激作用のないベータ遮断薬を用いた大規模臨床試験で、心筋梗塞再発や突然死に対する有用性が示されています。また、心不全の治療においては、症状の有無にかかわらず左室機能障害を伴う心不全患者の予後を改善し、入院頻度を減少させる効果があります。さらに、狭心症を合併する高血圧には、ベータ遮断薬とカルシウム拮抗薬が適していますが、とくにベータ遮断薬は動脈硬化による冠動脈狭窄による労作性狭心症に有効とされています。
これらの知見などを踏まえ、「高血圧治療ガイドライン2009」では、ベータ遮断薬の積極的適応として、心不全や頻脈、狭心症、心筋梗塞後が記されています。
心拍数を下げてイベントを抑制
ベータ遮断薬の注目すべきメリットとして心拍数を抑制する効果があります。心拍数は血圧とは独立して生命予後に影響する因子であることが、わが国の疫学研究でも多く示されています。心拍数60~69拍/分の死亡率が最も低く、それ以上に心拍数が上がるほど死亡率が上がっていったというわが国の調査もあります。
心拍数の増加が新血管系に及ぼす影響としては、心臓の仕事量が増える、動脈壁にかかるストレスが増加する、プラークが不安定化するなどの可能性が指摘されています。ベータ遮断薬を使用することで心拍数が下がり、これらの負荷が軽減することにより予後が改善する効果が期待できます。
ストレス下の血圧上昇に効果的
ベータ遮断薬には、ストレスによる交感神経を介した血圧上昇を抑制するという特徴もあります。ストレスのかかった職場高血圧などに有用な可能性があります。
pointベータ遮断薬には他の降圧薬には代替えできない特徴的な作用があり、条件付きになる可能性もあるが、第一選択薬の一つとして残すべきであろうと考えられる。
参考文献:日経メディカル7月号(2010年7月10日発行 第512号)その他
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