Q6:特異的IgE抗体価が高ければ本当に食べられませんか?
A6:特異的IgE抗体の結果をみるときには、食物の間の交叉抗原性について知っておく必要があります。
ある食物(抗原)に対する抗体が、他の食物(抗原)と反応(結合)することがあり、交叉抗原性といいます。交叉抗原性は花粉と野菜や果物、果物や野菜の間によくみられます。
交叉抗原性についてはSichererの表(図1)がわかりやすく、これによればメロンとスイカやバナナ、アボガドの交叉抗原性は92%と高く、甲殻類なども75%と高値を示しています。
これらの食物では一つアレルギーがあれば、同じグループの中の別の食物でもアレルギーが起こりやすいことがわかります。反対に、牛乳と牛肉は10%とかなり低く、以前によくいわれた「牛乳アレルギーの人は牛肉も食べられない」といったことは根拠に乏しいことがわかります。
この表によれば、ある食物の特異的IgE抗体価(ラスト値)が高くなっていると、交叉抗原性を示す他の食物でもアレルギーを起こす可能性があることがわかります。しかし、特異的IgE抗体価が上がっていても、実際に食べてもアレルギーが起こらないことがあります。
これはこの検査では、アレルギーの原因となる食物と似たタンパク質の構造をもつ別の食物も陽性となることがあるためです。どうしてこのような一見、相反するようにみえることが起こるのでしょうか?
アレルギー症状を誘発するIgE抗体は食物タンパク質である抗原と反応します。一つのIgE抗体はタンパク質の一部分である数個並んだアミノ酸配列の特定の部分を認識します。この抗体が認識する場所をエピトープ(抗原決定基)といい、ふつうは一つのIgE抗体は一つの特定のエピトープのみ認識します。
そのため、もしエピトープ部分の特定のアミノ酸配列とまったく同じ配列を持つ別のタンパク質があれば、このIgE抗体は他のタンパク質でも認識することができます。
植物や食物の同じ種(または科)の間、または種がまったく異なっても発生学的に(遺伝子的に)同じタンパクが含まれていれば、エピトープ部分の基本的なアミノ酸配列が類似していたり、立体構造が似ていることが多く、多くの食品や環境物質(花粉やダニなど)に対する共通のIgE抗体が検出されることがあります。
全く同じ、またはほぼ同じアミノ酸配列をもつタンパクが異なる食品や環境物質に含まれる場合があり、これを交叉反応といい、交叉反応を起こす抗原を交叉抗原といいます。
特異的IgE抗体検査は、標識された抗IgE抗体(特異的IgE抗体と結合するように人工的につくられた抗体、つまりこの反応では特異的IgE抗体が抗原の役目をします)を用いて試験管内で患者の血清と反応させて、特異的IgE抗体と結合するかどうかを調べる検査です。
したがって、エピトープ部分が同一の異なるタンパク質(食物、すなわち抗原)であれば、すべて反応して陽性の結果になります。
たとえば、多くの穀物(コメ、小麦、雑穀)にアレルギー症状を示す場合(抗体価が同じくらいの数値を示す場合)、交叉抗原を認識している場合が多いと考えられます。
また、穀物や野菜のすべてにCAPラストクラス2~3くらいを示す場合、共通に含まれる糖鎖に感作されていることが多く、その場合は除去の必要性はほとんどありません。小麦とコメは同じイネ科に属し、両者間に交叉反応性も証明されていますが、小麦アレルギー患者のほとんどはコメをふつうに食べていることが多いのです。
学童や大人では、特異的IgE抗体検査の結果でCAPラストクラスが5~6になっていれば、その食品がアレルギーの原因になっている可能性が高いと考えられます。
ラストクラスが2~3の場合は、交叉反応の可能性も考える必要があります。逆に、特異的IgE抗体が陰性でもアレルギーの原因のことがあります。食物アレルギーの原因診断には、食物日誌を記録するなど、食べたものを注意深く観察することが大切です。
参考文献:
1) 「食物アレルギー」 監修斉藤博久、編集海老澤元宏、診断と治療社
2) 独立行政法人環境再生保全機構「ぜん息予防のための よくわかる食物アレルギーの基礎知識」
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