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血液検査で分かること

血液検査糖尿病の検査

Dr.みやけ

糖尿病は2つのタイプに分けられます。

若い年齢で発病し、インスリン注射を初めから必要とする糖尿病がその一つです。しかし多くの場合は、中高年になってから糖尿病を起こしやすい体質に、肥満や高血圧・運動不足などが加わって起こってきます。
軽い糖尿病では自覚症状も少ないため気がつかずに過ごしていて、健康診断などで偶然発見されることも少なくありません。

国内には約690万人の糖尿病患者がいると推測され、とくに40歳以上では10人に1人の割合といわれ、代表的な生活習慣病の一つです。
このように国民病化してしまった糖尿病は、動脈硬化を進行させ脳梗塞や心筋梗塞を起こすばかりでなく、失明や腎不全を起こすこともあり、放置しておくとたいへん危険です。

インスリンの働き(図1)

体内
図1体内

糖尿病とは、血液中にブドウ糖が異常に増えた結果引き起こされる、さまざまな体内の反応異常をいいます。

食事として摂られた糖分は、ブドウ糖に変わって血液中に吸収されますが、健康な状態ではブドウ糖は筋肉や脂肪組織、肝臓に速やかに吸収され、エネルギー源として利用されます。このため血液中のブドウ糖(血糖といいます)は、いくら食事をした後でも、一定レベル以上に上がらないようになっています。
血糖を一定のレベル以下に保つために働いているのが、すい臓から血液中に出てくるインスリンというホルモンです。

インスリンの働きは、ちょうど放送局とテレビの関係にたとえることができます(図2)
すい臓を放送局にたとえると、すい臓から出るインスリンは放送局から出る電波といえます。放送電波は家庭のテレビアンテナに入り、テレビが映ります。すい臓から出たインスリンも筋肉や脂肪組織、肝臓などのアンテナ(受容体といいます)にくっついて、血糖を下げる働きをします。

糖尿病のしくみ
図2糖尿病のしくみ

糖尿病の起こるしくみ

テレビの映りが悪いときには、原因としてはアンテナの働きが悪いことや放送局からの電波が弱い などの原因が考えられます。成人の糖尿病の原因は、まず初めはインスリンに対するアンテナ(これをインスリン受容体といいます)の働きが悪くなるせい と考えられています。
体質に加えて、肥満、美食、運動不足、ストレス などがアンテナの働きを悪くする誘因と考えられます。

糖尿病の発病前には、アンテナの働きが悪くなると電波が強く出てテレビの映りをよくする のと同じ原理で、すい臓からインスリンが必要以上に出ている状態が続きます。このインスリン過剰の状態も動脈硬化を進行させるため、体にとってはよくないものと考えられています。
すい臓からインスリンが過剰に出ていると、そのうちにすい臓も疲れ始め、徐々にインスリンの出が悪くなってきます。これが糖尿病の始まりです。

このように、
(1)インスリンのアンテナの働きが悪くなり、その結果
(2)すい臓からのインスリンの出が悪くなる、
の2段階を経て中高年の糖尿病が発病すると考えられています。

これに対して若年者の糖尿病では、放送局の機械が故障していきなり電波が出なくなる、すなわちすい臓のインスリン合成がいきなりストップする 結果起こってきます。
この原因としては、放送局内での内輪もめ(すい臓の中で起こるアレルギー反応:これを自己免疫反応といいます)が有力視されています。

糖尿病の診断のための検査

糖尿病の診断のための一般的な検査
糖尿病の診断のための一般的な検査
血 糖 血液中のブドウ糖の濃度
尿 糖 尿中のブドウ糖の濃度
HbA1c 1ヵ月の平均した血糖の状態を知るための検査
糖負荷試験 糖尿病の詳しい診断のためのブドウ糖の負荷試験

健康診断などでもっとも一般的に行われているのは、血糖と尿糖の検査です(上表参照)。血糖は食事の影響を受けやすいため、空腹時に測定をしないと正確な判断は困難です。血糖は変動しやすいために、食事の影響を受けにくいより安定した検査が重要となります。
高血糖が続くと、赤血球中のヘモグロビンはブドウ糖(グルコース)と結合して長く安定なグリコヘモグロビンA1c(HbA1c)をつくります。HbA1cの測定は約一ヶ月間の血糖の平均の状態が分かるため、糖尿病の診断や経過観察のために重要な検査です。

空腹時血糖とは、正確には前夜から10時間以上絶食して早朝に測定した血糖値をいいます。少なくとも長時間の絶食後でないと正確な空腹時血糖とはなりません。空腹時血糖から見た正常域と糖尿病域の値を表にしています(図3)
しかし空腹時血糖からだけで糖尿病を診断することは困難で、学会の診断基準には75gのブドウ糖のシロップを飲んでから2時間後の血糖値を糖尿病の診断のために加えています。

空腹時血糖および75g糖負荷試験の判定基準
図3空腹時血糖および75g糖負荷試験の判定基準

しかし診断のために糖負荷試験をすべての人に行うことは困難です。実際には、食事に関係なく測定した血糖が、200mg/dlを越えていると糖尿病と診断されます。
またグリコヘモグロビンA1c(HbA1c)の値が、6.5%を越えると糖尿病と診断されます。グリコヘモグロビンA1c(HbA1c)の測定は簡単なため、診察室では血糖とHbA1cを測定して糖尿病かどうか診断することがふつうです。
HbA1cは5.8%以下が正常値ですが、5.8%から6.5%もきわめて糖尿病に近いと考えられ、軽い糖尿病として扱われることが多いと思われます。

右の表(図4)は糖尿病と診断された方の、血糖値やHbA1cの目標値を示しています。糖尿病の経過観察には、HbA1cと空腹時血糖、食後2時間後の血糖値が目安になります。
とくにHbA1cは安定した値を示すため、糖尿病の一ヶ月間の状態を知るためにもっとも重視される検査です。

血糖値コントロールの指標
図4血糖値コントロールの指標

尿糖もよく調べられますが、尿糖が陽性となるのは血糖が約200mg/dlを越えてからです。ちょうどお風呂の水がこぼれて床に流れ出たのが、尿糖であるとたとえることができます。
(図5)湯船の高さがちょうど血糖200mg/dlと考えることができます。尿糖が陽性なら、血糖が一時的に200mg/dlを越えたことが分かります。
しかし、軽い糖尿病で血糖が200mg/dlを越えていない時には、尿糖は陽性になりません。軽い糖尿病は、尿検査だけでは見逃される可能性があります。

血糖と尿糖の関係
図5血糖と尿糖の関係

尿糖が陽性であったり、高血糖があったからといって、すぐに糖尿病と診断できるわけではありません。腎性糖尿といって腎臓から尿中にブドウ糖が漏れやすい体質の方がいます。
また、胃の手術後や甲状腺機能亢進症(バセドウ氏病)では食後に一時的に高血糖になることがあります。このような場合には、HbA1cの測定や糖負荷試験の結果から、糖尿病かどうか判断できます。

やや詳しい糖尿病に関する検査(図6)

やや詳しい糖尿病に関する検査
図6やや詳しい糖尿病に関する検査

糖尿病の診断のために、血中インスリン濃度が測定されることがあります。インスリン濃度は変動が大きいために単独で測定されるよりも、糖負荷試験で血糖とともに時間的な変化をみるために測定されます。糖尿病では、糖負荷後のインスリン分泌が少なくかつ遅延する特徴があります。

Cペプチドはすい臓でインスリンが合成されるときの副産物です。Cペプチド量はインスリン量を反映しています。とくに尿中Cペプチド量は、インスリン分泌の一日量を知ることができ、インスリン注射が必要かどうかの一つの目安になります。

糖尿病が進行すると腎機能障害(腎症)が起こってきます。尿タンパク陽性は、糖尿病性腎症の進行を意味するためにとくに大切です。しかし尿タンパク陽性の状態は、すでに腎症が進行していることを意味します。糖尿病の経過観察の上で、尿中微量アルブミンは早期の腎症を調べるために重要なものとなっています。

糖尿病診断のための検査(2013/10.31更新)はこちら⇒

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