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町医者の診療メモ Dr.みやけの20年の経験で培われた一種の「診察のコツ」をまとめます。

急な胸の痛み(胸痛発作)

Dr.みやけ

急な胸の痛みには、狭心症や急性心筋梗塞、大動脈解離、肺塞栓症、緊張型気胸などの重篤で緊急性の高い病気が含まれます。

気がつかずに放っていると死に至ったり、後遺症を残すことがあるたいへん重要な症状です。
まず胸痛発作の例を挙げてみましょう。

【症例】 
ふだんは健康な55歳男性。出勤途中、突然に前胸部にグーと圧迫されるような不快感を自覚。吐き気・おう吐と冷汗があった。両肩に圧迫感を感じる。2~3時間経過しても改善しないため、緊急受診した。

急な胸の痛み(胸痛発作)

このような胸の痛み・胸部圧迫感が原因で診療所を訪れる人は多くいます。まず狭心症や心筋梗塞などを疑いますが、原因はこれだけではありません。
皆さんが今までに経験したことのない胸の痛みや苦しみを感じたときには、放っておかないですぐに循環器専門の診療所や病院に行かなければなりません。

急な胸の痛み(胸痛発作)で考えれられる病気

まず初めに考えなければならない重要な病気は、次の三つです。

1 不安定狭心症、心筋梗塞
2 大動脈解離
3 肺塞栓症

これらは緊急性の高い致命的な病気で、できるだけ早く専門病院に送る必要があります。 三つの病気の特徴を表にまとめてみました。

  1
不安定狭心症
・心筋梗塞
2
大動脈解離
3
肺塞栓症
1.発症様式 突然 突然 突然
2.部位・分布 前胸部 胸痛と背部痛 胸の痛み(どこでも)
3.持続時間 数十分~数時間 数十分~数時間 数時間~数日
4.緩解・増悪因子 運動中でも、安静時でも なし 吸気で悪化
5.性状 グーとする圧迫感押しつぶされるような感じ 裂けるような激痛  鋭いさし込む痛み息切れ・呼吸困難を伴う
6.放散痛 下あご、頸部、肩から腕に 前胸部と背部 とくにない
*関連事項
  • 前ぶれとして運動時の数分間の胸痛発作
  • 糖尿病と関係深い
  • 高血圧と関係深い
  • 大動脈瘤とは異なる病気    
  • 若い女性でピルの内服
  • 妊娠中・飛行機やせまい車内泊
  • 手術後
  • 長期臥床や車いす生活
  • 凝固異常

これら3つの重要な病気についで大切なのが次の二つです

4 心外膜炎
5 気胸

二つの病気の特徴を表にまとめてみました。

  4
心外膜炎
5
気胸
1.発症様式 突然 突然
2.部位・分布 胸骨後面 上胸部
3.持続時間 数時間~数日 数時間
4.緩解・増悪因子 吸気や臥位で悪化
座位や前屈で軽減
吸気で悪化
5.性状 鋭い痛み 鋭い痛み
6.放散痛 下あご、頸部、肩、腕に放散 なし
*関連事項
  • かぜが先行することも
  • 背の高いやせ型の若者
  • 肺疾患のある高齢者

しかし、実際には症状だけで診断することはむつかしいため、胸部X線や心電図、血液検査、超音波検査を組み合わせて診断するように努めます。やや専門的になりますが、検査の特徴を表にまとめてみました。

  胸部X線 心電図 血液検査 超音波検査
1不安定狭心症
・心筋梗塞
ふつうは特徴がないが、心不全や心陰影拡大も ST上昇、異常Q波 トロポニンT陽性 左室心筋運動の異常
2大動脈解離 ふつうは特徴がないが、縦隔の拡大やカルシウム徴候も   D-ダイマー陽性  
3肺塞栓症 ふつうは特徴がないが、肺炎像のことも
  • V1-3のT波陰性
  • Ⅰ、aVLの深いS波
  • Ⅱ、Ⅲ、aVFのR波増高
D-ダイマー陽性 右室負荷と左室の変形
4心外膜炎 ふつうは特徴なし 全誘導でのST上昇   心のう水貯留のことも
5気胸 肺の虚脱と胸腔内の空気      
*これらのは、診療所の予備検査としてみられる代表的な所見です

血液検査の中で、D-ダイマー、トロポニンT、NT-proBNPと呼ばれる検査は、すでに述べた三大緊急疾患の1不安定狭心症・心筋梗塞、2大動脈解離、3肺塞栓症の疑いを抱くためにたいへん役立ちます。これらは診療所でも比較的検査できるので、ぜひ日頃から活用したいものです。

*これらの三大疾患ではそれぞれ冠動脈や大動脈、肺動脈の中に血栓が形成されます。本来血栓は止血のためには有用ですが、血栓が存在し続けると血流が阻害されることになり、体にとっては有害になります。そうならないためにプラズミンという酵素が働いて、血栓の構成因子であるフィブリンを溶解します。この現象を線溶現象といいます。このとき分解された物質をフィブリン分解産物と呼び、D-ダイマーはその一つです。

D-ダイマーは体のどこかに血栓ができていれば、線溶現象が亢進し高い値を示します。播種性血管内凝固症候群、重症感染症、がん、心筋梗塞、脳梗塞、肺塞栓症、大動脈解離(解離性動脈瘤)、胎盤早期剥離、妊娠中毒症、膠原病、血管炎などで上昇する可能性があり、これらの疾患を疑う予備検査としてたいへん重要です。

次に挙げる病気は、緊急性はそれほど高くなく診断が遅れても致命的にはなりにくいものです。しかし胸の痛みの原因としては、最も頻度が多いものです。

6 胸膜炎、肋間神経痛、帯状疱疹、逆流性食道炎や胆石の発作

急な胸の痛みが起こる16の病気の中で恐いのは、1不安定狭心症・心筋梗塞、2大動脈瘤解離、3肺塞栓症の三つで、これらの病気を見逃してはなりません。

急に胸の痛みを感じたとき、まず大切なのは

a 痛みが突然起こったか、徐々に起こってきたかどうか?
b 痛みの場所や広がり
c どのくらい痛みが持続するか?
d 痛みが姿勢や呼吸・咳で強くなるか?

の4点です。これらは診断の手がかりになるため重要です。

a 痛みが突然起こったか、徐々に起こってきたかどうか?

痛みが突然起こった場合には何かが「詰まる、ねじれる、裂ける、出血、破裂」する病気を考える という、診断上のたいへん重要な原則があります。反対に痛みがいつの間にか起こってきた場合には、緊急性が低い病気を考えます。しかし、患者さんの苦しみが強いと、記憶があいまいになり判断に困ることもあります。「何かしているときに、急に苦しくなりましたか?」など質問を変える工夫が必要です。

b 痛みの場所や広がり

痛みの場所が広い範囲で起こるときには、1不安定狭心症・心筋梗塞、2大動脈瘤解離、3肺塞栓症 の可能性がありますが、一つの場所(ピンポイント)で起こるとき、これらの病気は考えにくいです。

患者さんに痛みの場所を聞いたとき、「ここです」と人差し指で指さしたときには 1不安定狭心症・心筋梗塞、2大動脈瘤解離、3肺塞栓症 は考えにくく、手のひらを広げて胸を押さえるような仕草をしたときや場所がはっきりしないときには、123 の可能性が高くなります。

c d どのくらい痛みが持続するか? 痛みが姿勢や呼吸・咳で強くなるか?

一般に 1不安定狭心症・心筋梗塞、2大動脈瘤解離、3肺塞栓症 のような重篤な病気では、胸の痛みは数十分~数時間続くのがふつうです。痛みが姿勢の変化や咳・深呼吸で一瞬起こるか、または数分くらいで治まるときは、 123の可能性は低いと考えられます。 4心外膜炎、5気胸、6胸膜炎、肋間神経痛、帯状疱疹、逆流性食道炎や胆石の発作 に含まれる病気では、さし込むような痛みが瞬間的に起こるか、または数分以内に治まるのがふつうです。さらに姿勢の変化や深呼吸・咳などで痛みが誘発されます。

姿勢によって痛みが変化するとき、深呼吸や咳で誘発される胸の痛みでは、最重要な 1不安定狭心症・心筋梗塞、2大動脈瘤解離、3肺塞栓症 の可能性は低くなります。

急な胸の痛み(胸痛発作)が起こる病気の説明

1 不安定狭心症、心筋梗塞

不安定狭心症と急性心筋梗塞(急性冠動脈症候群)

不安定狭心症と心筋梗塞は心臓を栄養している冠動脈が血栓により詰まりかかったときに起こる病気です。これらは連続した病態なのでまとめて急性冠動脈症候群と呼ばれます。冠動脈が詰まると血液が流れなくなるため、心筋が壊死します。突然死だけでなく、後遺症として心不全などを起こします。

心筋梗塞と糖尿病の関係は深く、糖尿病予備群と言われる状態の時から冠動脈の動脈硬化は進行します。実際、心筋梗塞を発症した多くの人が、いわゆる糖尿病予備群や軽い糖尿病の状態を持っています。高血圧が主な原因で起こる脳梗塞が減る一方で、心筋梗塞は増加しつつあります。

2 大動脈解離

解離性大動脈瘤

大動脈の内膜に亀裂が生じ、そこから血液が中膜の隙間に侵入したものが大動脈解離です。原因不明の中膜壊死や動脈硬化が原因と考えられます。急に発症し、ときに大きな解離腔を形成するため、解離性動脈瘤とも呼ばれます。

ふつうは失神するほどの激痛が突然始まります。解離が進むにつれて、数回にわたって激痛を感じることが多く、胸部から始まり腰部に広がることがあります。痛みがそれほど強くないと、大動脈解離は救急外来で16~38%が見逃されているという恐いデータがあります。

3 肺塞栓症

肺塞栓症

肺塞栓症はエコノミークラス症候群と関係が深い病気です。航空機や自動車内に窮屈な姿勢で、長時間にわたり座ったままといった状況で起こるものがエコノミークラス症候群です。窮屈な姿勢で股付近の大腿静脈を圧迫し続けると、その部位に血栓が形成されます。その血栓が肺に飛んで肺動脈が詰まると肺塞栓症を起こします。

車いすで生活する高齢者や寝たきり状態では、大腿静脈などの深部静脈に血栓を起こしやすく(深部静脈血栓症)、肺塞栓症を起こすことがあります。妊娠中やピルを内服しているときにも起こりやすくなります。こうした若い女性で急に呼吸困難や胸の痛みを起こしたときには、肺塞栓症を忘れてはいけません。体質的とされる血液凝固異常でも起こります。また入院中に起こることがあります。安静が必要とされる手術や骨折の後、ガン治療などで4日以上ベッドに寝たきりだった場合に起こりやすいと言われます。

おもな症状は急な呼吸困難・息切れですが、胸の痛みもそれに続いて多い症状です。肺塞栓症はまれな病気ではありませんが、診断が難しく見逃されているケースが多いと言われます。

4 心外膜炎

心外膜炎とは、ウイルスや細菌の感染などにより心臓の外側を被う膜に炎症が起こる病気です。初期症状は、発熱や咳がでるなどの風邪によく似た症状です。胸痛や呼吸困難も伴ってきます。結核性心外膜炎は慢性に経過すると収縮性心外膜炎と呼ばれ、液体(心のう水)が貯留するだけでなく心不全を起こします。

5 気胸

気胸は肺から空気がもれて肺の外にたまった状態です。肺が空気に押されて小さくなります。気胸は比較的若い、背の高いやせた男性に多く発生します。肺の上部にブラと呼ばれる袋ができ、ここに穴があくと気胸になります。気胸を起こすと胸の痛みや息切れを感じます。気胸の中で緊張型気胸は緊急性の高い重篤な病気です。おもに事故や外傷が原因で起こりますが、すべての気胸で起こりうるため注意しなければなりません。高齢者でも肺気腫などの肺疾患があると気胸を起こすことがあります。

一般に気胸の広がりが、鎖骨を超えない程度では自然に吸収されますが、鎖骨を超えると入院治療が必要になります。

6 胸膜炎、肋間神経痛、帯状疱疹、逆流性食道炎や胆石の発作

若い人が急に胸部痛を生じると胸膜炎が原因のことがあります。ふつう発熱はなく、さし込むような痛みが片側の胸部に起こります。胸部X腺を撮影すると診断できます。

肋間神経痛については詳しくは本サイトの(よく見られる大人の病気・症状:肋間神経痛)をご覧下さい。

胸膜炎や肋間神経痛の原因が悪性腫瘍などの浸潤による場合は、致命的になるため注意が必要です。

帯状疱疹では疱疹が出現する前に、片側の胸部がピリピリと痛むことがあります。ズキンズキンという痛み方ではなく、衣服などがこすれるとピリピリと痛みます。疱疹が出てくるまでは診断ができないため、一週間くらい痛みのある側の背中から胸部にかけてニキビのような疱疹が出てこないか注意します。

逆流性食道炎は一般的な病気ですが、胸やけやゲップといった定型的な症状でなく、胸の痛みで発症することがあります。また胆石の発作が、狭心症とよく似た胸の痛みで起こることがあります。これら消化器系の病気も胸の痛みの原因になることを忘れてはいけません。

これらの中で恐いのは、1不安定狭心症・心筋梗塞、2大動脈瘤解離、3肺塞栓症の三つで、これらの病気を見逃してはなりません。

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急な胸の痛み(胸痛発作)

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  2. 急な胸の痛みを感じたときまず大切なのは
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