町医者の診療メモ 

町医者の診療メモ Dr.みやけの20年の経験で培われた一種の「診察のコツ」をまとめます。

町医者の診療メモ:はじめに

医師は職人!?

診療所の外来にはさまざまな訴えを持った患者が来院しますが、外来では入院患者のようにじっくりと時間をかけて考える余裕はありません。
一人の患者に割くことのできる時間はせいぜい10分くらいです。この短い時間内に手際よく診察をすませ、検査と治療の方針を適切に立てなければなりません。そして、患者が重大な病気を抱えていないかどうかを速やかに判断しなければなりません。

こうした診察手順を毎回毎回、短時間にミスなく遂行することは容易ではなく、知識や技術に加えて、豊富な経験といわば勘が必要とされます。これらは職人芸に似たものと考えられ、長年の経験に培われた一種の「診察のコツ」のようなものです。
こうした「診察のコツ」を持つことの長所は、診察のぶれを最小限に抑え、効率よく正しく患者を診察できることです。

内科の日常診療では、よくみられる症状は比較的限定されます。診察室の短い時間内で、(絶対とは言えないまでもほぼ)正しい結論にいたることのできる、知識と経験に基づいた手法を述べたいと思います。

始めにお断りしておきますが、病気の診断はネット上の情報だけでできるものではありません。必ずかかりつけの医師や最寄りの診療所、病院で、実際の診察を受けていただくようにお願いします。
また専門家からはいろいろと批判もあるかと思いますが、経験に基づいた個人的な見解ということで了解をお願いします。


ネット情報の落とし穴

さまざまな健康問題はインターネットで検索することができます。しかし、病気や症状の説明がいったん活字になってしまうと、どの内容も同じような重みを帯びることになり、読んだ人にとってすべて当てはまるような錯覚を起こすことがあります。
病気の症状の意味には重み、言い換えると順位のようなものがあります。この症状の重みの判断は医師にしかできないことです。ネットや書物の知識だけではむつかしく、自分で勝手に決めつけないようにする注意が必要です。度が過ぎると、自分で病気を作ることになりかねません。

病気の診断には知識が必要なのは当然ですが、知識に加えて経験がかなり物を言います。診察室に入ってきたときの表情や歩き方、雰囲気から始まり、病歴や家族歴、そして診察の結果などから、総合的に診断を進めていきます。
ベテランの医師になると、経験的な直感が働いて診断に必要な症状や検査、さらにはいくつかの診断名の候補が自然に頭に浮かんできます。これはいわば職人芸です。
もしこういった職人芸が必要なければ、コンピューター診断が可能になるかもしれませんが、実際には人間がロボットでもない限り、それはとうてい無理でしょう。

検査をフルに活用

インフルエンザの検査キットに始まり、さまざまな迅速検査キットが活用できるようになりました。血液検査、レントゲン検査、超音波検査などは今や一般的な検査ですが、検尿や検便の重要性は今も昔も変わりません。

外来診察のポイントは重大な病気を見逃さないことです。最終診断はそれぞれの専門家に任せるとして、重大な病気の存在を見落とさないことが診療所の重要な責務だと考えています。その目的のためにも、外来で検査を有効に組み合わせて行うことは、診察の大きな助けになります。「検査なくして診断はなし」とまで言えるほどです。

さらに最近の動向として、患者は検査を受けて初めて納得する傾向が強いと感じます。検査を有効に行うことは、患者の訴えや疑問に答えるためのよい手段にもなります。

必要のない検査を行うことは厳に慎まなければなりませんが、検査数に比例して病気の発見率も高まるというのも事実のように思います。忙しいとか面倒だからと言って、必要な検査を省略したときに限って、大きな病気が潜んでいたということが過去にはありました。手間を惜しまずに、こまめに必要な検査をする大切さを痛感しています。


発熱の診断に必要な検査

約3週間以上にわたり38度以上の熱が続くときは、いわゆる不明熱と考えられます。感染症が原因の不明熱では、結核、感染性心内膜炎、膿瘍が3大原因疾患で、その他では尿路感染症、肝胆道感染症がしばしば原因になると言われています。

このような結果を見ると、感染症が原因である不明熱では、血液検査、胸部レントゲン、血液培養、尿培養、心・腹部超音波検査、胸部から骨盤の造影CTなどにより大半が診断可能であると指摘されています(日本医事新報 No.4631 2013 1.26)。

これらの検査の中でCTを除けば、今や一般の診療所でいずれも施行可能な検査です。これらの中で、血液培養と尿培養は忘れられがちな検査です。感染症が疑われる不明熱ではすぐに抗生剤を投与するのではなく、血液培養を行うことが大切です。

本院で見つかった発熱が長期間続いた4例では、感染性心内膜炎、肝膿瘍が原因でした。感染性心内膜炎は20~30歳台で2例、肝膿瘍は30歳台と80歳台の各1例でした。比較的若い年齢層に見られたのが特徴でした。
結核は以前ほど多くはありませんが、高熱が続く例はなく、咳や痰が続くときに、また自覚症状がない高齢者で偶然レントゲン写真から見つかるなど、現在も見逃しやすい落とし穴的な疾患だといつも注意しています。

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