日常診療の場では、若い人が頸部リンパ節のはれに気がついて受診される方が多くおられます。
いろいろ調べると、リンパ腫や白血病、結核、癌のリンパ節転移、膠原病などの名前が挙げられていて怖くなってしまいます。
もちろんこうした病気を頭に浮かべながら、検査や診断を進めることは大切ですが、若い人にこれらの病気はそれほど多いものではありません。
また、医師であればこれらの病気を見逃すことはまずないと思われます。
というのは、原因が明らかでない場合、最終的にはリンパ節生検が行われ、病理診断が行われるからです。
リンパ節のはれでは大きさや硬さも重要ですが、まず痛みがあるかどうか注意します。
上に上げた病気ではリンパ節の腫れだけで痛みはふつう伴いません。
痛みがあれば、次のような原因を考えます。
若い人の頸部リンパ節のはれの原因
若い人の頸部リンパ節のはれの原因として、咽頭炎・扁桃炎や外傷(ピアス、アトピー性皮膚炎によるひっかき傷など)など一般的なものを除くと、次のような可能性が高くなります。
リンパ節のはれではありませんが、頸部のはれとして忘れてならないものに
その他、伝染性単核症、SLE、リンパ腫、ネコ引掻き病、結核、サルコイドーシス、川崎病、トキソプラズマ症、梅毒、癩などが挙げられます。
【病気の簡単な説明】
1.ウィルス(アデノウィルス?)感染症
人のアデノウィルスには1~41型の血清型があり、特定の血清型と疾患の組み合わせは次のようになります。
咽頭結膜熱: | 夏期に多くプール熱ともいわれ、結膜炎、咽頭炎、高熱が4-5日続く |
急性咽頭炎: | 冬期に散発し、かぜ症状と咽頭発赤、頚部リンパ節腫脹など |
流行性角結膜炎: | はやり目ともいわれ、結膜充血と目やにが強く、感染力が強い |
乳児急性胃腸炎: | 1年中みられ、かぜ症状、腹痛、嘔吐、下痢など |
急性出血性膀胱炎: | 頻尿、血尿、排尿困難など |
アデノウィルス感染症は、小児ではこうした特徴のある症状を示しますが、20歳前後の若い人ではこれらの症状は出にくくなります。
一方、20歳前後の若い人では原因の不明な頸部リンパ節の腫れが現れることがあります。
リンパ節の腫れは両側よりも片側が多く、首筋に沿ってリンパ節の腫れがいくつも起こります。
痛みが強く、首を回すのが困難です。数日で自然に消失します。
成人ではアデノウィルス検査を行うことはまれなため、断定はできませんが、私見ではありますがある種のウィルス、とくにアデノウィルスではないかと考えています。
↓詳しくは、こちらのページをご覧ください。
2.猫ひっかき病
片側性にいくつものリンパ節のはれを生じる病気に猫ひっかき病があります。
これはバルトネラ・ヘンセラ菌が原因で起こり、猫によるひっかき傷や咬まれた部位の所属リンパ節のはれを生じます。
上肢の傷では同側の腋窩(えきか:わきの下)リンパ節のはれが生じ、さらに頸部リンパ節がはれることがあります。
3.菊池病(壊死性リンパ節炎)
菊池病は10~20代の若い人にしばしばみられる、頸部のリンパ節の痛みとはれを伴う病気です。
リンパ節腫脹は頸部に多いですが(65-70%)、まれに腋窩(えきか:わきの下)、そけい部などに生じることがあります。
高熱を伴うことが多いのですが、軽い熱が上下する場合もあります。
菊池病の特徴的な検査所見はないため、原因不明の若い人の頸部リンパ節のはれでは、次の伝染性単核症とともに菊池病を疑うことが大切です。
菊池病は決してまれではないので、若い人の頸部リンパ節のはれではまず疑うことから始まります。
アデノウィルス感染症と違いは、アデノウィルス感染症では頸部リンパ節のはれは数日以内に軽快しますが、菊池病や伝染性単核症ではリンパ節のはれや発熱が長引くことから区別することが可能です。
4.伝染性単核症(EBウィルス感染症など)
EBウィルス感染症は菊池病と同様に、日常診療で若い人にしばしば見られます。
EBウィルス感染症=伝染性単核症と考えられがちですが、サイトメガロウイルス(CMV)、ヒトヘルペスウィルス6(乳児の突発性発疹の原因ウィルス)、アデノウイルス、単純ヘルペスウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、A・B型肝炎ウイルス、トキソプラズマ、リケッチアなどによっても伝染単核症は起こります。
伝染性単核症は、発熱や咽頭炎・扁桃炎など風邪とよく似た症状で始まりますが、頸部リンパ節のはれが風邪と比べて大きい点が異なります。
若い人で初めは風邪と考えても、数日しても症状がよくならないときに疑いが強くなります。
血液検査では、肝機能障害や異型リンパ球などが見られる点が菊池病と異なります。
EBウィルス感染症は未婚の若い人に多く、抗体を調べることで診断できます。
EBウィルスの抗体が上昇していないときには、菊池病の他CMVやHIV感染などの可能性を考えることも大切です。
5.帯状疱疹の発症前
帯状疱疹や単純ヘルペスによる皮膚病変が発症する前から、頸部リンパ節がはれてくることがあります。
ピリピリとした痛みを伴うことが多いのですが、診断は特徴的な湿疹が出てくるまで困難です。
7~10日くらいはヘルペス特有の湿疹が出てこないかどうか、注意します。
6.乳幼児では川崎病、小児の風疹
乳幼児で高熱と頸部リンパ節のはれを認めた場合には、川崎病の疑いを持ちながら経過を慎重にみる必要があります。
頸部リンパ節のはれは大きく、触ってみずとも見ただけでも大きいと分かることもあります。
頸部リンパ節ではありませんが、耳介後部にリンパ節のはれに気がついたとき、さらに手足に小さな紅斑を認めた場合は風疹の可能性が高くなります。
7.正中頸嚢胞または側頸嚢胞
正中頸嚢胞と側頸嚢胞は忘れた頃に診察室に来られます。
リンパ節のはれや顎下腺・舌下腺腫瘍と判断に困ることがあります。
両疾患とも外見から分かるくらいにはっきりとしたしこりが1個だけあること、エコーでは充実部分に乏しい均一な嚢胞の所見が見られることです。
8.甲状腺腫瘍や亜急性甲状腺炎
これらの甲状腺の病気は頸部の正中付近の甲状腺の部位に一致して起こり、血液検査やエコーで比較的簡単に診断が可能です。
9.舌下腺・顎下腺のはれ(唾石、腫瘍など)
側頸嚢胞と鑑別困難なことがありますが、頸部リンパ節のはれとは場所や大きさ、数の点からそれほど難しくありません。
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