動脈硬化の進展には、高コレステロール血症、高血圧症、糖尿病、喫煙などのさまざまな危険因子が関与しています。
動脈硬化による病変は、
- 血管壁における隆起性病変(プラーク)の形成と、
- プラークの一部が破裂し血栓が形成され血流が途絶する
という2段階の過程で起こってきます。(図1、2)
最近では動脈硬化の抑制という点からは、プラークの破裂を予防すること(プラークの安定化)が重要なポイントとして注目されています。コレステロールの低下療法はプラークの形成を予防するだけでなく、血管内皮細胞機能を改善させプラークを安定化させることにより、動脈硬化性病変を明らかに予防することができます。(図3)
血中ではコレステロールの多くはLDL-コレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)として存在します。血管内皮やマクロファージから産生されるスーパーオキサイドなどによりLDLの一部が酸化されると酸化LDLが合成されます。(図4)
プラーク形成の初期段階として内膜下へのマクロファージの侵入がきわめて重要です。マクロファージが血液中の単球に由来することはよく知られており、血中の単球が内皮に接着したのちに内膜下に侵入しマクロファージに変化すると考えられています。
内膜下でマクロファージが酸化LDLを無制限に取り込むことにより、マクロファージの泡沫化(コレステロールエステルの蓄積)が起こってきます。こうしてプラークが形成されてきます。(図5)
動脈硬化の進展を予防する目的で血管内皮細胞の果たす役割は重要であり、その機能改善のために種々の試みがなされています。(図6)
コレステロール低下の目的で主に使用される薬剤はHMG-CoA還元酵素阻害剤と呼ばれるものです。これらの薬剤は血中コレステロールを低下させることにより、比較的短期間(1~6ヶ月)に血管内皮の機能を改善することが明らかになっています。その一つが内皮細胞から産生されるNO活性の改善です。(図7)
酸化LDLの増加は内皮細胞からのNO産生を抑制しますが、コレステロール低下による酸化LDLの減少はNO産生を改善させ、動脈硬化の進展を抑制しHMG-CoA還元酵素阻害剤ます。
またコレステロール低下療法による大規模臨床試験では、HMG-CoA還元酵素阻害剤の投与によって十分なLDLコレステロール低下が得られないグループでも、心血管イベントの減少が認められました。
コレステロール低下作用以外にも、これらの薬剤は血管壁に対する直接作用(内皮細胞内のNO合成酵素の活性亢進、平滑筋細胞の増殖・遊走の抑制、単球の内皮への接着の減少など)により動脈硬化の進展を予防することが明らかになっています。
血中コレステロールの低下療法は動脈硬化の進展にきわめて重要な意味を持っています。
参考文献:
1)松澤佑次監修.プラークの予防、安定化を目指して.日医雑誌 vol.121 no.7 PY1-4.
2)寺本民生ら監修.わかりやすい動脈硬化.ライフサイエンス出版.2002.
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