動脈硬化による内膜の肥厚性病変をプラークと呼びます。
急性冠動脈症候群といわれる心筋梗塞や不安定狭心症で血管内腔が閉塞するのは、プラークが徐々に成長して閉塞するわけではありません。何らかの原因でプラークが破裂(ラプチャー)し、そこに血栓が形成されることによって急に血管の閉塞が起こってきます。
今までの冠動脈造影などによる研究から、急性冠動脈症候群の発症前に必ずしも高度の血管狭窄が存在しないことが分かってきました。
今までにもくり返して述べてきたように、プラークには血栓を起こしにくい安定プラークと血栓を起こしやすい不安定プラークが存在します。安定プラークではプラークが繊維性被膜に覆われているのに対して、不安定プラークでは繊維性被膜が存在しないかきわめて薄いため脂質コアが血管内腔に接して存在します。(図1)
不安定プラークではマクロファージや平滑筋細胞、炎症細胞としてのリンパ球などの細胞が存在しますが、これらの細胞からは種々の物質が分泌されています。これらの作用により平滑筋細胞の細胞死(アポトーシス)が起こり細胞数が減少するだけでなく、蛋白分解酵素の作用により繊維性被膜も分解され、薄くなってしまいます。
また、血管内腔の裏打ちをしている内皮細胞の機能も低下し、酸化LDLの侵入や凝固機能の活性化の抑止効果が低下してきます。
不安定プラークではマクロファージやリンパ球などの炎症細胞浸潤の結果、血管壁の炎症が起こっているため、血液中の炎症マーカーであるCRPがしばしば上昇しています。
このように破裂しやすい不安定プラークでは、
- 脂質コアが大きい
- 繊維性被膜が薄い
- マクロファージの浸潤が多い
- 平滑筋細胞が少ない
などの特徴がみられます。(図2)
不安定プラークが破裂する詳細な原因はまだ分かっていませんが、不安定プラーク内には新生血管が発達して認められます。この新生血管は弱いため内膜内で出血を起こしたり、浮腫を生じやすくなり、内膜の内圧を高めている可能性があります。(図3)
また、内皮細胞機能の維持のためには、血流による適度なずり応力が重要であると考えられています。血圧の変化、心拍数や血流の変化など機械的な血管内腔の変化は、ずり応力の変化を生じ内皮細胞機能を障害し、血栓形成に導きます。
プラーク破綻の前後には冠動脈れん縮(血管が一時的にけいれん起こして収縮する現象)を起こしていることもあり、これがプラーク破裂に関与している可能性も考えられます。
急性冠動脈症候群の多くの例では、血栓症と血栓融解(血管の再開通)が同時に起こるため、血流が途絶えたりまた流れ始めたりすることになります。(図4)
最初の血流閉塞は血小板凝集によるものです。その後、脆弱な血小板血栓が強固なものになるためにはフィブリンが必要です。血液中の凝固機能の活性化の結果、フィブリンが血小板血栓にまとわりつくと強固な永続的な血栓が形成されることになります。
参考文献:
1)松澤佑次監修.プラークの予防、安定化を目指して.日医雑誌 vol.121 no.7 PY1-4.
2)寺本民生ら監修.わかりやすい動脈硬化.ライフサイエンス出版.2002.
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