町医者の診療メモ > めまい:脳からみためまいを中心に7 

町医者の診療メモ Dr.みやけの20年の経験で培われた一種の「診察のコツ」をまとめます。

めまい:脳からみためまいを中心に 7

<< 6.危険なめまい、危険でないめまい

7、頭痛や耳鳴を伴わない回転性めまい

頭痛や耳鳴を伴う回転性めまいはある程度型通りに診断できますが、回転性めまい単独の場合はどうしたらよいでしょうか。一般には、神経症状を伴わないめまいは内耳疾患である と言われますがそうとは限りません。

回転性めまいが単独で起こった場合、まず誘発因子があるものとないものに分けます。つまり、めまいが次の動作で誘発されるかどうかを調べます。誘発される動作としては、

  1. 頭を動かしたとき
  2. 首を強く曲げたとき
  3. 左上肢を動かしたとき

の三つです。

(1)頭を動かしたとき

頭位変換による悪性・良性の鑑別

まずめまいが頭を動かしたとき(頭位変換時)に起こるのかどうかを確認します。頭を動かしたときに起こるものは2種類あり、良性のものと悪性のものです。良性のほうは良性発作性頭位変換性めまいです。悪性のほうは悪性持続性頭位性めまいです。

良性発作性頭位変換性めまいは図1にみる通りです。

良性発作性頭位変換性めまいと時間経過図1良性発作性頭位変換性めまいと時間経過

この回転性めまいは眼振を伴い、頭を動かしたときにしかめまいは起こりません。めまいは頭を動かしたときだけに誘発されますが、じっとしていれば30秒以内に止まります。それから二度、三度と頭位変換を繰り返すと、だんだん起こらなくなります(疲労現象、減衰現象)。

大切なことは、めまいが30秒以内におさまるということと、頭位変換を繰り返すとめまいが弱くなるという慣れがあるということです。

【症例】34歳 女性
床から急に起き上がろうとした時、激しい回転性めまいが発生したが、じっとしていたら20秒くらいで治まった。しかしその後寝返りを打ったり、急に寝たり起きたりすると、激しい回転性めまいが起こる。耳鳴・難聴・神経症状なし。

これが典型的な良性発作性頭位変換性めまいの病歴です。起きたときか、動いたときかにめまいが起こりますが、頭を動かしたときだけかとどうかということが大切です。

一般の人がメニエール病ではないかと考えているのは、ほとんどがこの良性発作性頭位変換性めまいです。

悪性持続性頭位性めまいによるめまいと眼振

これは頭の位置をある一定のポジションにするとめまいと眼振が起こります。そのポジションをとる限りめまいは続きますが、その位置をはずすと止まります。

たとえば右を下にすると起こってきて、右を下にしているといつまでも続きますが、左を下にすると止まります。しかし、右を下にするとまた起こります。何回繰り返しても同じで、良性発作性頭位変換性めまいと違って疲労現象がなく再現性があります。

実際にはめまいや眼振が起こるのはいやなので、そんなことはしません。たいていは頭の位置を変えると治るということを経験的に覚えてしまいます。そうすると、良性発作性頭位変換性めまいと区別しにくくなります。良性発作性頭位変換性めまいでは、頭の位置を変えなくてもじっとしていればめまいが止まります。

悪性持続性頭位性めまいの原因としては、ほとんどが小脳と脳幹の正中部の出血か、梗塞か腫瘍です。

(2)首を強く曲げたとき

首を曲げたときにめまいを起こしやすいのは、

  • 洗髪などで、仰向けに椅子に座って首を強く後屈したとき
  • 高い棚の物を取ろうとするとき、洗濯物を干すためなどで無理をして上を向いたとき
  • 振り向こうとして首を横に強く回したとき

などです。

めまいや意識と関係の深い脳幹部に血液を供給しているのは、椎骨-脳底動脈です。椎骨動脈は頸椎の横突孔内を下から上に走行します(図2)。

椎骨動脈の走行図2椎骨動脈の走行

頸椎の中を走行するため、首を後ろに大きく曲げる姿勢を取ると、椎骨動脈が圧迫されます。その結果、一時的に脳幹部への血流障害を起こし、めまい(眼振)や意識障害の原因になります。

首を後屈させる姿勢を長時間取り続けると、場合によっては動脈内に血栓を生ずることもあり、首を動かすなどして血流が回復した時に、脳へと血栓が飛んで、最悪の場合、脳梗塞を起こすこともあります。

レントゲン写真を撮ると頚椎の変形が原因で椎骨動脈を圧迫していることが分かることがあります(頚椎症)。神経根が出てくる椎間孔のところで圧迫されると、上肢にしびれを起こし、ひどくなると筋力が低下します(頸椎症性神経根症)。

(3)左上肢の運動によって起こるめまい

【症例】58歳 男性
19○○年12月、葬式より帰宅、コタツに入ったら突然10秒間景色が揺れ動いて見えた。
脳外科で脳CTを撮るも異常は指摘されなかった。
翌年1月2日、車を運転中、突然2時間回転性めまい(家族は両眼とも左へ動かないのに気付く)。

左の上肢の運動によって誘発される回転性めまいです。12月は寒い季節です。葬式から帰ってくれば当然身体は冷えきっています。そこで寒くてしようがないので、家へ帰ってコタツに入った。コタツに手を突っ込んで手が暖まったら、めまいが起こったというわけです。

その後、1年間にわたってめまいがときどき起こりました。そして、ある日これも1月の寒い日、車を運転中に突然激しいめまいを起こして運転不能になりました。

めまい発作のほとんどが運転中に起こるため、「めまいが起こったのは右折のときか、左折のときか」を確かめると、「常に右折するときにしか起こらない、左折では起こらない」ということが分かりました。右折するときには左手が大きく動き、この左手の動きとともにめまいが起こることが推測できました。

鎖骨下動脈盗血症候群

脳へ行く動脈としては、左右の椎骨動脈と頸動脈があります。そのうち左右の椎骨動脈は頸椎の横突孔を通り、脳幹部の付近で一本になり脳底動脈となります。脳幹部に血液を流しているのは椎骨-脳底動脈で、めまいや意識と深い関係があります。

鎖骨下動脈盗血症候群の血液の流れ図3鎖骨下動脈盗血症候群の血液の流れ

左側の椎骨動脈は右側に比べて、大動脈と鎖骨下動脈の起始部近くに位置しているため、動脈硬化や大動脈炎などにより入り口の狭窄を起こしやすいことが知られています。左手を暖めたり左手を動かすと左上肢の血液量が増えますが、狭窄のために左鎖骨下動脈からの血液供給が間に合わないため、左椎骨動脈から血液を盗むことになります。(図3)

本来、脳幹部に行くべき血液を引き抜いてしまうわけで、脳幹部は循環不全になりめまいを起こしますが、ひどくなると意識消失を起こします。

>>次ページで、誘発されない回転性めまいについて解説します。

めまい:脳からみためまいを中心に:目次へ

※このサイトは、地域医療に携わる町医者としての健康に関する情報の発信をおもな目的としています。

※写真の利用についてのお問い合わせは こちら をご覧ください。

町医者の診療メモ

町医者の診療メモ:はじめに

(よく見られる症状と診察のポイント)発熱

(よく見られる症状と診察のポイント)頭痛

内科から見た肩こり

めまい:脳からみためまいを中心に

  1. めまいへのアプローチ
  2. 眼前暗黒感
  3. 起立性のめまいとシェロングテスト
  4. めまいと脳循環調節機構
  5. 回転性のめまい
  6. 危険なめまい、危険でないめまい
  7. 頭痛や耳鳴を伴わない回転性めまい
  8. 誘発されない回転性めまい
  9. 中枢性のめまいはなぜ起こるか?
  10. 高齢者のめまい感

関節痛・筋肉痛と内科の病気

血液検査からみた診断へのアプローチ

急な胸の痛み(胸痛発作)

いろいろある鎮痛薬

胸部レントゲン写真から考える肺疾患


 上に戻る