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町医者の診療メモ Dr.みやけの20年の経験で培われた一種の「診察のコツ」をまとめます。

めまい:脳からみためまいを中心に 4、5

<< 1.めまいへのアプローチ

4、めまいと脳循環調節機構

脳には血流が不足しないように、血流を一定に保つための脳循環自動調節というメカニズムがあります。縦軸に脳血流、横軸に平均動脈血圧をとると普通の人間では、平均動脈血圧が60から150の間をいかに変動しても、脳血流は変わらないという働きが脳にはあります。 (図1)

脳循環自動調節機構図1脳循環自動調節機構

血圧150/80の人の平均動脈血圧は103ですが、この人がたとえば交通事故などで出血しても、平均動脈血圧が70に下がるまで脳血流は何とか保たれています。70以下に下がるとスッと脳の血流がなくなって死んでしまいます。

血圧低下で起こる高齢者の脳梗塞

ところが高齢者はそうはいかないのです。血圧が高い高齢者では、脳血流の自動調節が高血圧のほうに移動している可能性があります。普通の人は確かに平均動脈血圧が60まで下がっても、かろうじて脳血流は保たれ危険は回避できます。

しかし高血圧の高齢者では、100や120に下がると脳循環不全を起こす可能性があるので、血圧が高いからとむやみに下げると脳梗塞を起こすことになりかねません。

脳卒中の高齢者が担ぎ込まれて、血圧が220くらいあると慌てて血圧を下げることがありますが、血圧が下がり過ぎると脳梗塞を起こしてしまいます。高血圧の高齢者の血圧をどこまで下げていいかというのは大変難しい問題で、循環器の専門家が今後答えを出していく必要があります。

高齢者の中には血圧の自動調節がなくなってほとんど一直線の人がいます。こういう型の人では血圧を少しでも下げるとそれだけ脳血流が下がるため、こういう高齢者の血圧は慎重に対応する必要があります。

血圧の高い高齢者をみたときには、下げればいいというものではなく、減塩食やもっとマイルドな治療をまずやって、自然に下がるのを待つほうがよい場合があります。

また高血圧で治療中の高齢者がめまいを訴えてきたときに、降圧薬の影響も考えなければなりません。血圧の高い高齢者の血圧をちょっと下げただけだと思われるかもしれませんが、血圧自動調節のない高齢者の場合、それでもどんどん脳血流が下がるのです。

5、回転性めまい

回転性めまいは日常でよく起こるめまいです。

回転性めまいとは何かというと、Behrmanの定義(1958年)では、「自分の身体が空間に対し、もしくは空間が自分に対して回転している感覚」を回転性めまいと定義しています。要するに、景色がぐるぐる回る、あるいは自分がぐるぐる回るとき、回転性めまいと呼びます。身体をぐるぐる回して急に止まると天井や周囲がしばらくぐるぐると回りますが、これも回転性めまいの一つです。

めまいは身体のバランス(平衡感覚)と深い関係があります。身体のバランス(平衡感覚)を保つ仕組みを簡単に考えてみましょう。

めまいと耳と脳の関係

1)内耳

耳(内耳 (図2))には音を聞く働きだけでなく(蝸牛の働き)、身体のバランスを保つ重要な働きがあります(三半規管と前庭の働き)。

内耳図2内耳

身体のバランスを保つための情報は、内耳の三半規管→前庭→前庭神経を通って脳幹(脊髄の上位にある脳の一部)から小脳に伝わります。 (図3)

音の知覚経路図3音の知覚経路

2)小脳

身体のバランス(平衡感覚)を保つためには、内耳の働きだけではなく、視覚、上下肢、自律神経からの情報も大切です。小脳ではそれらの情報を統合して、身体のバランス(平衡感覚)を保ちます。

脳
図4

視覚がめまいに関係している例として、船酔いや車酔いを考えてみましょう。車に乗ったときに足元の風景の流れを見つめているとき、小舟に乗って足元の波の動きをみつめていると、しだいに気分が悪くなりめまいを起こしそうになります。そんなときには無意識に遠くを見ると楽になります。

自律神経がめまいに関与している例としては、徹夜仕事をして早朝に帰宅しようとして歩いているときに、疲れが原因でふわふわとめまいを感じるのがそうでしょうか。

視覚や上下肢、自律神経からの情報は内耳からの情報といっしょに小脳に伝えられます。小脳はこうした身体の各部からもたらされた情報を統合して、身体のバランス(平衡感覚)を保つ最終的な役割を持っています。

小脳機能が障害されたときのおもな症状は、運動失調と呼ばれるものです。運動失調は一言でいうと、ひどくアルコールに酔ったときの症状に似ています。アルコールにひどく酔って千鳥足、舌も回らない、手も思い通りに動かない まさにこれが小脳症状です。めまいは小脳の一部が障害されたときに起こりやすくなります(前庭小脳)。

目からの情報は、めまいと深い関係があります。回転性めまいでは眼球を左右または上下方向に動かしたときに、眼球の揺れすなわち眼振が起こります。

眼振

なぜ回転性めまいでは、景色がぐるぐる回るように感じるのでしょうか?

眼球が回っているから景色がぐるぐる回るように感じるのです。景色がぐるぐる回っているのではなく、景色が回っているように感じるということは、それと反対の方向に眼球が回っていることです。それを眼振といいます。回転性めまいが起こったということは、その時点で眼振が起こっていたことを意味します。

眼振とは、一定の方向(水平、垂直、回旋など)に、一方の方向に速く(急速相)、反対の方向に遅く(緩徐相)、眼球かリズミカルに運動することをいい、急速相の方向を眼振の方向と定義しています。景色の回転方向と眼振の方向は一致します。

したがって、回転性めまいの診断は、眼振をいかに捕らえるかということになります。眼振の検査は一般の内科医には難しいものです。めまい専門の神経耳科医に詳しく調べてもらいます。

回転性めまいを起こしたとき、激しくおう吐を伴う回転性めまいは内耳性が多いと教科書には書いてあります。神経症状を伴っていれば脳幹障害による回転性めまい、頭痛があれば小脳出血による回転性めまいとも教科書には書いてあります。しかし回転性めまいのごく早期には、このような神経症状が出そろうことは少ないので注意が必要です。

回転性めまい:悪性と良性の区別(図5)

回転性めまい:悪性と良性の区別
図5回転性めまい:悪性と良性の区別

そうするとどうしたらいいのでしょうか。回転性のめまいが起こったら、まず生命に危険のあるめまいかどうかを区別します。

危険なめまいとは脳卒中、脳腫瘍などによる回転性めまいで、このような生命に危険なめまいは脳神経外科や神経内科にすぐに紹介します。

それとは逆に、良性発作性頭位変換めまいやメニエール病などでは、めまいを起こすと死ぬほど苦しいけれども、生命に危険が及ぶことはありません。

>>次ページで、危険なめまい、危険でないめまいについて解説します。

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町医者の診療メモ

町医者の診療メモ:はじめに

(よく見られる症状と診察のポイント)発熱

(よく見られる症状と診察のポイント)頭痛

内科から見た肩こり

めまい:脳からみためまいを中心に

  1. めまいへのアプローチ
  2. 眼前暗黒感
  3. 起立性のめまいとシェロングテスト
  4. めまいと脳循環調節機構
  5. 回転性のめまい
  6. 危険なめまい、危険でないめまい
  7. 頭痛や耳鳴を伴わない回転性めまい
  8. 誘発されない回転性めまい
  9. 中枢性のめまいはなぜ起こるか?
  10. 高齢者のめまい感

関節痛・筋肉痛と内科の病気

血液検査からみた診断へのアプローチ

急な胸の痛み(胸痛発作)

いろいろある鎮痛薬

胸部レントゲン写真から考える肺疾患


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