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心房細動について

3.心房細動の治療上の問題点

Dr.みやけ

心房細動は、日常の診療でしばしば遭遇する不整脈で珍しくはありません。

心房細動は原因がはっきりとしている場合(甲状腺機能亢進症や心臓弁膜症、心筋症など)、ある程度原因が推測できる場合(高血圧症、冠動脈硬化症など)もあれば、原因がよく分からないで起こる場合もしばしばみられます。心房細動の原因や治療については後の章に譲ることにして、ここでは心房細動が持つ問題点について述べることにします。

原因となる疾患がある場合(心臓弁膜症、冠動脈硬化症、心筋症、甲状腺機能亢進症など)には原因疾患の治療が必要になります。しかしほとんどの例では心房細動がそのまま持続することが多く、原因疾患とともに心房細動そのものの治療も必要となります。

心房細動の治療上で注意すべき点は、次の3点です

  1. 心房細動は日中の活動時には、頻脈傾向になりやすいこと
  2. 心房細動は夜間の睡眠時などには、脈が極端に遅くなることがあること
  3. 左心房内に血栓が形成され、脳にとんでいき脳梗塞を起こすことがあること(脳塞栓といいます)です(血栓塞栓症)。

頻脈性心房細動が悪い理由-心不全を起こしやすくなること

心臓の大切な役割は、血液(動脈血)を全身に送り出し、脳や手足の末梢、腎臓や肝臓などの内臓に血液を供給すること、つまりポンプ機能、です。心房細動では心拍数が早くなるにつれて、心臓のポンプ機能が空回りするようになり、血液を体のすみずみにまで送り出すことができなくなります。

一番分かりやすい例は、心房細動の人では手首の脈拍が弱く、脈拍を数えるのが困難になります。心拍数が多くなるほど脈拍は弱く触れにくくなります。心拍数が少なく適切であれば、脈波は強く触れ数えやすくなります。

頻脈性心房細動では、心臓のポンプ機能が低下するため血液を十分に送り出すことができなくなります。そうすると血液が肺にたまるようになります。これを肺うっ血といい心不全の状態になります。肺うっ血(心不全)を起こすと、階段や坂道、急いで歩くときなどに息切れを感じるようになります。さらに肺うっ血(心不全)が強くなると、足や顔に浮腫を生じるようになります。また夜間に床についてしばらくすると、息苦しさのために起きあがり座ってしまうようになります。(図1、2)

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図1階段で息切れ

図2心不全

したがって、頻脈性心房細動では、心不全を予防し心臓の効率を高める目的で、心拍数を適正なレベル(ふつうは70/分前後)に安定させる必要があります。

心房細動は徐脈になることがある

外来では心房細動は頻脈にばかり注意が向きますが、夜間睡眠時や安静時には脈が遅くなることがあるため、徐脈にも注意が必要です。(症例1-1.2.3)、(症例2-1.2.3)、(症例3-1.2)

心房細動は、一時的に2~3秒間心拍が停止してしまうことがよくみられます。
このくらいの心停止が夜間睡眠時に起これば問題はありませんが、日中に5~6秒以上の心停止が起こるとフーとしたり一瞬意識を失いたいへん危険です。

さらに日中の頻脈を押さえる薬剤が、安静時や夜間の心拍数を少なくすることにもつながります。
心拍数が少なくなり、数秒間心停止が起こるようになると、2つの危険性が高まります。
第一には数秒間以上の心停止が続くと脳への血流が止まるため、一時的に意識消失を起こす危険性があること、第二には徐脈や心停止が高度になると、心房内の血液の流れが遅くなります。
こうなると左心房内に血栓が形成されやすくなり、脳塞栓の危険性が高まります。

症例1(78才 男性)

心房細動の心電図 症例1-1徐脈と頻脈を示す心房細動

心房細動の心電図 症例1-2頻脈性心房細動<130/分>

心房細動の心電図 症例1-3心房細動時の洞停止 4.6秒

症例2(65才 男性)

心房細動の心電図 症例2-1心房細動(最大心拍数 140/分、ペースメーカー植え込み前)

心房細動の心電図 症例2-2心房細動時の洞停止 3.4秒

頻脈と徐脈の混在した心房細動の心電図 症例2-3頻脈と徐脈の混在した心房細動

症例3(63才 男性)

心房細動から洞調律移行時の洞停止の心電図 症例3-1心房細動から洞調律移行時の洞停止 9.4秒

ペースメーカー後の心電図 症例3-2ペースメーカー後の心電図

心房細動では脳塞栓(左心房内できた血栓が脳に飛んで脳梗塞を起こすこと)を起こすことがある(血栓塞栓症)

心房細動では左房に余分な力が加わるため、左房が拡張しやすくなります(心房の壁は心室に比べてたいへん薄くぺらぺらとしています)。左房の拡張と徐脈のために血液がよどむと血栓が左心房内に形成されやすくなります。

ちょうど、料理でメリケン粉を溶かすときに勢いよくかき混ぜるとメリケン粉は溶けていきますが、ゆっくりとかき混ぜると粒々(血栓に相当します)ができてくるのと同じです。(図3)血栓の予防のためには、血液がある程度の速さで流れ続ける必要があります。

図3メリケン粉をかき混ぜる

血栓は左心房内に徐々に形成され、心エコーで血栓の大きな塊がみえることがあります。しかしこのような大きな血栓はリウマチ性心臓弁膜症の場合に起こりやすく、多くの場合は心エコーでは観察が困難な小さなものです。

左心房内の血栓は心房細動の心拍数が遅くなったときに形成されやすいため、徐脈性心房細動や一過性心房細動で心房細動から正常の洞調律に回復する瞬間((症例3-1)にみられるように、洞停止が長く続く場合)に形成されやすくなります。

心房細動では、一日を通して心拍数が60~70/分に安定しているのが理想的ですが、今まで症例1から症例3で説明したように、心拍数が早くなったり遅くなったりしがちです。血栓が形成されやすい心房細動は、(1)頻脈と徐脈の心拍数の差が大きい場合、(2)一過性心房細動(一時的に心房細動を示して、また正常の洞調律に回復するもの)で、頻回に心房細動をくり返す場合 と推測されます。

心房細動の多くの例では、早い時期から血栓塞栓症の予防治療(ワーファリンや抗血小板薬)が行われる傾向にあります。

まとめ

心房細動の治療の目標は、

  1. 正常な洞調律に回復させる、
  2. 心不全の予防のために心拍数を70/分前後にコントロールする、
  3. 血栓塞栓症の予防に努める、
  4. 頻脈に注意するだけでなく、除脈にも気をつける必要がある ことになります。

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■心房細動について

  1. 心房細動の心電図
  2. 心房細動と心拍数
  3. 心房細動の治療上の問題点
  4. 慢性心房細動と一過性心房細動
  5. 心房細動の原因
  6. 心房細動と血栓塞栓症
  7. ワーファリンによる血栓塞栓症の予防
  8. レートコントロールか?リズムコントロールか?

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