心筋梗塞や脳梗塞などの動脈硬化性疾患は、ガンと並んで我が国の死因のもっとも大きな割合を示しています。
ここでは私たちの健康にきわめて関係の深い動脈硬化という血管病変が、どうして起こってくるのか少し詳しく解説していきます。
正常な血管組織
正常の血管は、内膜・中膜・外膜からなる3層構造を示し、血管内腔側は1層に並んだ内皮細胞に被われています。(図1)
中膜は血管の収縮・弛緩を調節する平滑筋細胞がおもな構成成分です。内皮細胞は血液と常に接していて、血液のいろいろな成分や物質の取り込み、止血・血栓、血管の収縮・弛緩などに重要な調節的な役割を示しています。内膜と中膜の境には内弾性板、中膜と外膜の境には外弾性板があります。
心臓を栄養する動脈-冠動脈-と脳動脈は血管の構造に違いがあります。(図2)
冠動脈では内弾性板のところどころに穴があいており、非連続性です。この非連続性が冠動脈では中膜の平滑筋細胞が遊走して、内膜に侵入しやすくしています。
一方、脳動脈では内弾性板に穴はなく連続性につながっていて、脳血流関門(脳血管では脳を守るため、血液と血管の間の物質の交通は制限されています)に関係しています。中膜は冠動脈では著明に発達し、血管の活発な収縮・弛緩に深く関係しているのに対して、脳動脈では比較的層が薄くなっています。外膜は冠動脈では発達しているのに対して、脳動脈では外弾性板とともにほとんどみられません。
さてこれからは心臓の冠動脈にしぼって話を進めていくことにします。(図3) 正常な冠動脈では幼少期からびまん性内膜肥厚が認められます。このびまん性内膜肥厚は、中膜の平滑筋細胞が内膜に遊走してさらにそこで増殖をきたして形成されます。
このように中膜の平滑筋細胞は、いろいろな環境や年齢的な要因により性質を変えて、収縮型平滑筋から増殖型平滑筋となり内膜に遊走し、増殖する能力を有しています。この能力が動脈硬化にも深く関係しています。しかし正常なびまん性内膜肥厚に連続して、動脈硬化が発症するものではないと考えられています。
動脈硬化-粥状硬化硬化とは
血管でみられる動脈硬化には、おもに粥状(じゅくじょう)硬化と細小動脈硬化があります。粥状硬化は大~中型血管で起こりやすく心筋梗塞や動脈瘤と関係が深く、細小動脈硬化は細い血管で起こり脳梗塞や腎動脈硬化と深い関係があります。(図4)
血液中の白血球は、好中球、好酸球、好塩基球、単球、リンパ球の5種類に分類されます。このうち単球は組織に移行してマクロファージと呼ばれますが、この細胞は異物に対して活発な貪食能を示します。異物を細胞内に取り込んだ後に破壊・殺菌作用を示すだけでなく、異物を貪食・処理してリンパ球にバトンタッチすることにより免疫機能を促進するという役割を持っています。 (図5)
粥状硬化に基本的な細胞現象は、1)中膜の平滑筋細胞の内膜への遊走と増殖、2)単球の内膜への浸潤とマクロファージへの分化、それに続くマクロファージ内へのコレステロール蓄積(泡沫化)です。 動脈硬化の部位では内膜の一部分が肥厚して盛り上がった病巣を作ってきます。この内膜の斑状肥厚性病変をプラークといいます。
プラークとは
動脈硬化巣に存在する内膜の斑状肥厚性病変をプラークといいます。こうした肥厚性病変は、大動脈のような太い動脈では内腔の狭窄を生じることはありませんが、冠動脈のような中型動脈では内腔の狭窄を起こし、狭心症や心筋梗塞の発症に直接関係してきます。 (図6)
動脈硬化性の疾患の予防原則は、言うまでもなく動脈硬化病変を起こさせないことです。しかし、糖尿病、高血圧、高脂血症などを長い間患ってきた中高年者では、すでに動脈硬化病変が形成されている可能性が高いと考えられます。
最近の研究から狭心症や心筋梗塞など虚血性心疾患の発症には、このプラークの破裂とそれに続く冠動脈内血栓の形成がもっとも大きな基盤になっていることが分かってきました。したがって、実際にはプラークをいかに安定化させるかが重要な課題になってきます。
プラークの破裂しやすさを規定する因子としては、1)脂質コアーの大きさ、2)繊維性皮膜の厚さ、3)繊維性皮膜の物理的ストレス(高血圧による張力や血流によるずり応力)、4)病変部の炎症反応 などが挙げられます。
プラークの安定化の上で重要なのは、脂質成分の減少と繊維化の促進で、最終的には狭心症や心筋梗塞の予防につながるものと考えられます。
参考文献:
1)松澤佑次監修.プラークの予防、安定化を目指して.日医雑誌 vol.121 no.7 PY1-4.
2)寺本民生ら監修.わかりやすい動脈硬化.ライフサイエンス出版.2002.
※このサイトは、地域医療に携わる町医者としての健康に関する情報の発信をおもな目的としています。
※写真の利用についてのお問い合わせは こちら をご覧ください。