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分かりやすい動脈硬化

7.プラークの安定化-内皮細胞由来NO

Dr.みやけ

血管内皮細胞は、内腔と接する血管壁の一番内側に位置する一層の細胞群です。

動物実験で血管内皮を機械的に剥離すると、血管の収縮反応が著明に亢進することが明らかになりました。このように血管内皮細胞からはさまざまの物質が分泌・放出され、血管の拡張・収縮反応だけでなく、血液凝固の抑制、血管の透過性の調節、動脈硬化の進展などいろいろな調節機能を有しています。

近年、血管内皮細胞から生理的に常時産生されている一酸化窒素(NO)が、抗動脈硬化作用や抗炎症作用を有しながら、血管壁の動脈硬化への進展を予防していることが明らかになってきました。

NOはNO合成酵素(NOS)によりL-アルギニンから細胞内で産生されるガスで、血管内皮細胞由来の血管弛緩物質として最初に同定された物質です。酸化ストレスの産物であるスーパーオキサイドラジカルや酸化LDLに含まれるリン脂質の一種がNOを分解し、動脈硬化に対して促進的に作用することが分かってきました。
NOは血管壁における血小板凝集を抑制し、単球の内皮への付着および血管壁内への侵入を抑制する働きがあるといわれています。さらに血管平滑筋細胞の増殖・遊走を阻害する働きを持っていることが報告されています。 (図1)

内皮細胞から産生されるNO活性の改善 図1内皮細胞から産生されるNO活性の改善

高脂血症、高血圧症、糖尿病、喫煙、加齢などの危険因子によって内皮細胞の障害が起こると、内皮NO活性や産生の低下が引き起こされ、血管収縮性の亢進、血小板凝集能・血栓形成の促進、さらに血管構築の異常(狭窄やプラークの不安定化)が起こって来ます。
こうした変化は、虚血性心疾患といわれる狭心症や心筋梗塞を起こしやすくなります。内皮細胞障害は、虚血性心疾患の発生を規定する重要な因子の一つと考えられています。(図2)

動脈硬化の予防と血管内皮細胞 図2動脈硬化の予防と血管内皮細胞

急性冠症候群は不安定狭心症や急性心筋梗塞などの緊急治療を必要とする、心臓の栄養血管-冠動脈-の危険な病態です。急性冠症候群の主な因子は、不安定プラークのびらんや破裂によって起こる冠動脈内血栓です。
血管内皮細胞から産生されるNOはいくつかの経路を介して、急性冠症候群の発生に対して抑制的に作用していることが明らかにされています。

コレステロールの低下、高血圧の是正、禁煙などの危険因子のコントロールは、血管内皮細胞からのNO産生を改善すると考えられます。内皮NO活性を保つことが動脈硬化の抑制ならびにプラークの安定化、冠動脈硬化の進展を予防するものと期待されます。

参考文献:
1)松澤佑次監修.プラークの予防、安定化を目指して.日医雑誌 vol.121 no.7 PY1-4.
2)寺本民生ら監修.わかりやすい動脈硬化.ライフサイエンス出版.2002.

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■分かりやすい動脈硬化

  1. 冠動脈硬化とプラーク
  2. プラーク形成-血管内皮細胞と単球の役割
  3. プラーク形成-血管平滑筋細胞の役割
  4. プラークの性状
  5. プラークの不安定化-プラーク破裂
  6. プラークの不安定化要素-酸化LDL
  7. プラークの安定化-内皮細胞由来NO
  8. プラークの安定化-コレステロール低下療法
  9. プラークの破裂と急性冠動脈症候群
  10. プラークの破裂と血栓形成

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