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咳発作:夜や早朝に咳き込むとき

Dr.みやけ

夜寝る前や夜中、早朝に咳き込んで困ることがあります。のどの奥がいがいがとして急に咳き込むため、喘息発作ではないかと心配になります。

このような咳は気圧が低くなる台風や梅雨の時期などに多くなります。また季節の変わり目や寒暖の気温差が大きいときにも起こりやすくなります。
市販の咳止め薬はあまり効果がありません。自然に治ると思って様子をみても一向に治る気配がありません。

どうしてこのような夜や早朝の咳が治りにくいのでしょうか?
どうしたら良くなるのでしょうか?

咳の分類・・・日本呼吸器学会「咳嗽に関するガイドライン第2版(2012年)」から

ガイドラインによれば、咳は持続期間により3つに分類されます。

  1. 3週間未満の急性咳嗽(がいそう)
  2. 3週間以上8週間未満の遷延性咳嗽
  3. 8週間以上続く慢性咳嗽

急性咳の多くは感冒を含む気道の感染が主体ですが、持続時間が長くなるにつれて感染症の頻度は低下し、慢性咳では感染症以外の原因によるものが多くなります。

次に、喀痰の有無により2つに分けて分類します。

  1. 乾性咳(喀痰を伴わない、コンコンという乾いた咳)
  2. 湿性咳(咳のたびに喀痰を伴うゴロゴロいう、湿った痰がらみの咳)

乾性咳の治療は咳そのものですが、湿性咳では気道過分泌を起こしている原疾患の治療が必要になります。

咳が強いときには、持続期間および痰の有無による組み合わせで考えることが、診断のポイントとして重要です。

急性咳では感染症や感染症後の咳が多いのですが、慢性咳では感染症以外の咳が主体となり、約半数が咳喘息と言われます。遷延性咳では感染症後の咳が一番多いことが報告されています。

慢性咳の中で最近多いのが胃食道逆流症による咳で、他には副鼻腔気管支症候群、アトピー咳、喫煙による咳などがあります。胃食道逆流症では、食道に逆流した胃液が刺激となり、咳喘息と合併したときに慢性咳の原因となると考えられます。

咳喘息は「咳だけ」で、ゼーゼーという喘鳴が少しでもあれば咳喘息ではなく、咳優位型喘息に分類されます。咳喘息をそのまま放置していると、約3~4割が5年以内に喘息に移行すると言われ、早期から吸入ステロイド薬を使用することによって予防が可能です。

咳の診断と治療

激しい咳が4~5日続いて治る気配のないときに、患者さんがまず訪れるのは専門病院よりも内科診療所のほうでしょう。
始めに発熱があったときには、感染症が原因と容易に推測できます。しかし熱がないときは、咳がしばらくすると治る急性咳なのか、長引くことになる遷延性咳や慢性咳なのかを予測するのは容易ではありません。

のど(咽頭)の炎症が原因で起こるふつうのかぜの咳は、日中に多く痰のからんだ(ゴロゴロという)湿性咳で、数日でよくなることがほとんどです。
しかし就寝前や夜間、早朝に多く出る痰の少ない(コンコンという)乾性咳は、のどの奥(喉頭)や気管支の炎症が原因で起こりやすく、長引く咳になりやすいと言えます。

*発熱と咳が4日以上続くときは、「発熱の4日ルール」により肺炎などを疑いながら、胸部レントゲン撮影や血液検査などの詳しい検査が必要です。

熱がなくても咳が1~2週間以上続くときには胸部レントゲン撮影は必要ですし、マイコプラズマ感染症や百日咳、結核や悪性腫瘍などを念頭に検査を行う必要があります。

咳喘息と言われたが!?

咳が少し長引くと、咳喘息と思い込む患者さんが多いようですが実際にそうでしょうか?
ガイドラインによれば、咳喘息は8週間以上咳が続くときに疑うとされています。4週間くらいの咳は多いのですが、8週間以上続く咳はそれほど多くはありません。したがって、咳喘息の診断は慎重にした方がよさそうです。

しかし、実際には8週間未満でも咳がひどく、咳喘息と診断したくなるような患者さんは多くいます。このような咳はふだんどうもないのですが、突然咳き込む「咳発作」を伴います。
しかも咳発作は夜寝る前や早朝に多く一晩中続くこともあり、喘息のようなゼーゼーいう喘鳴は伴いません。もちろん咳発作は日中に起こることもあります。この咳は乾いたコンコンという乾性咳で、感染症を疑わせる湿性咳ではありません。
どうしてこのような咳発作が起こるのでしょうか?

夜の咳と昼の咳

夜の咳と昼の咳

日中よりも就寝前や早朝に咳き込むとき、咳の原因はのど(咽頭)よりももっと奥(喉頭や気管支)にあると考えた方がよさそうです。のど(咽頭)が原因のかぜの咳はどちらかというと日中に多く、数日すると自然に良くなります。

それに対して、喉頭や気管支からの咳は長引きやすく、一週間以上咳き込むのがふつうです。この咳発作に病名を付けるのは難しいですが、気道が過敏になった「気管支過敏」と考えると分かりやすいです。長引く夜や早朝の咳発作は、「気管支過敏」が原因で起こることが多いと考えられます。

「気道過敏による咳発作」の咳とは?

気管支の変化

「気道過敏による咳発作」とはどんな状態でしょうか?
気道過敏と言っても花粉やダニによるアレルギーとは異なります。気道の粘膜が炎症を起こすと、粘膜にわずかな浮腫が起こります。こうなると気道が過敏になり、気温差やほこり、会話などの刺激で咳き込みやすくなります。
気管支喘息はさらに気道が細くなり、ゼーゼーという喘鳴を伴います。「気道過敏による咳発作」では気道粘膜の浮腫だけで、細くなることはありません。

気道があれて炎症を起こすのはどんな時でしょうか?
「気管支が弱い」体質の人、荒れた天気や梅雨、台風などの季節的な気圧の変化(低気圧)、さらにかぜなどの感染症の影響が加わると、気道粘膜が炎症を起こして過敏になり、咳発作を起こしやすくなります。
またかぜが長引いて気道に炎症が及ぶと、ホコリや気温の変化に敏感になり、とくに身体があたたまる就寝前や気温が下がる早朝に咳き込みやすくなります。

8週までの急性咳と遷延性咳では、感染症がおもな原因ですが、このような「気道過敏による咳発作」による咳も多いと考えられます。この状態が8週間以上続くと、一部の人は咳喘息と診断されるようになります。

*マイコプラズマと百日咳の検査

咳の出る感染症の中で、マイコプラズマと百日咳はよく知られています。大人ではこれらの感染症にかかっても熱が出ることはそれほど多くはなく、気がつくことも診断することも困難を伴います。

血液検査ではマイコプラズマ抗体(迅速診断に用いられるPCR法とPA法が中心)を調べますが、一般に抗体価は1週目から上昇しピークは2~3週目でその後は急速に低下します。検査のタイミングによっては陽性に出にくいことがあります。
百日咳はもっと難しく、EIA法で100EU/ml以上はほぼ確実ですが、それ以下ではペア血清(2倍以上で陽性)を調べることとされ、陽性の判定には慎重を要します。

抗体検査の問題点としては

  1. 抗体の存在自体が感染を意味しない(過去の感染でも陽性となる)
  2. 偽陽性・偽陰性がしばしば起こり、判定には慎重を要する
  3. 1回の検査では病期によって抗体価が変動するため、結果の判定がむつかしい
  4. 2週以上の間隔を開けて調べるペア血清は、確実だが時間がかかり治療には役立たない

マイコプラズマ抗原検査

咽頭拭い液を使用したマイコプラズマ抗原検査キットは、採血が不要で簡便です。マイコプラズマの存在そのものを検出するため、今まで広く使用されてきた抗体検査と異なり、判定結果と発症時期について悩まずにすみます。つまり陽性となればマイコプラズマ感染症と診断できますが、陽性に出ないこともあり注意すべきです。

「気道過敏による咳発作」の治療

気道過敏が原因の咳には、のど(咽頭)の炎症が原因で起こる咳の薬(いわゆるかぜ薬)は経験的にほとんど効果がありません。気管支過敏が気道の炎症と考えて、気管支喘息の薬がしばしば使われます。しかし気管支喘息のような気管支の収縮は起こらないため、気管支拡張薬はほとんど効果が期待できません。

気管支喘息では気管支の炎症を抑えるため、ステロイドやロイコトリエン受容体拮抗薬を使います。気道過敏が原因の咳発作の場合も、抗炎症作用を期待してこれらの薬を組み合わせて治療を行います。

経験上、発症後まもない気道過敏による咳発作にセレスタミンが効果的なことがしばしばあります。セレスタミンには抗ヒスタミン剤とステロイド薬が配合されています。つまり気道過敏を改善する作用が考えられます。抗ヒスタミン剤は喀痰を粘調にして出にくくする欠点があり、湿性痰で感染が原因の咳には使用は控えたほうがよいでしょう。

処方例Ⅰ)

  1. セレスタミンを一日2回内服(5日間)します。
    必要に応じて、去痰剤や抗生剤などを追加することがあります。
  2. リン酸コデイン入りシロップを就寝前に適量を内服します。

*セレスタミン内服時の眠気、排尿障害など、またリン酸コデインシロップの便秘に注意します。これらの薬は50歳くらいまでとし、高齢者には控えます。セレスタミンはステロイドが含まれるため長くても7日くらいまでとし、くり返し処方しないように気をつけます。セレスタミンはアレルギー性鼻炎や皮膚疾患のための薬なので、適応に注意します。

  1. これでも咳が改善しないときには、吸入ステロイド薬を併用します。気道過敏による咳発作には、ドライパウダータイプよりもやや旧式のエアゾールタイプ(キュバールなど)の方が効きやすい印象があります。咳喘息が疑われるようになったときには、長時間作用性β2刺激薬を配合したドライパウダータイプが効果的です。

咳喘息が強く疑われるようになると、セレスタミン、プレドニンなど内服ステロイド薬の効果が少なくなります。即効性の薬がなく治療に困ることになりますが、吸入ステロイド薬とロイコトリエン受容体拮抗薬などを組み合わせて、根気よく治療を続けることになります。吸入ステロイド薬は長時間作用性β2刺激薬を配合したアドエアやシンビコートなどをおもに使います。

処方例Ⅱ)

  1. ロイコトリエン受容体拮抗薬のキプレス(シングレア)を就寝前に内服します。
    必要に応じて去痰剤や麦門冬湯などを併用することがあります。
  2. アドエア(またはシンビコート)を定期吸入します。

これらの薬は効果が出るまで時間がかかるので、根気よく薬を続けることが大切です。

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