食物アレルギーを起こす原因食物の種類は年齢とともに変わっていきます。
4~6歳児までは、1位鶏卵、2位乳製品、3位小麦が三大原因食物です。これらの食品の占める割合は、0歳の87.8%を最高に年齢とともに少しずつ減少し、4~6歳児では57.9%となります。
一方で7~19歳ではソバ、エビ、小麦の順に多く(この三つで全体の37.6%)、20歳以上では魚類、エビ、ソバの順になります(この三つで全体の42.7%)。
鶏卵や乳製品は乳児期から幼児早期に非常に多い原因食物ですが、それ以降は耐性の獲得により急激に減少していきます。一方では、甲殻類、魚類、ピーナッツ、ソバ、果物などは年齢とともに増加していきます。その誘因としては、口にする食材が多様化していくためではないかと考えられます。
小麦は乳幼児期に発症する例が最も多く、それ以降は耐性化も進んでいきますが、学童や成人で運動が関係した新規の発症例も有り、他の原因食物と異なりユニークなタイプといえます。
成人になると乳幼児期の鶏卵や牛乳のような圧倒的な割合を占めるものはありませんが、いろいろな食物に対してアレルギーが起こるようになります。学童期から多くなる食物依存性運動誘発アナフィラキシー(小麦や甲殻類など)や口腔アレルギー症候群(果物や野菜など)が、原因食物が多様化する原因の一つと考えられます。
食事療法のポイント
1.原因食品を食材として用いない:栄養面への配慮と調理上の工夫
原因食品を食材として用いないで調理することは、食物アレルギーの治療として最も基本的かつ合理的な治療です。食物アレルギーの小児や家族のQOL(生活の質)の低下を招くことがないようにすることが大切です。
食品除去をする場合には栄養面の配慮が大切です。現在の日本の食事事情では、正しい抗原診断に基づく必要最小限の食品除去を行う限りにおいて、タンパク質摂取という点からは栄養面の問題が生じる恐れはありません。栄養面で注意すべきものとして、もともと日本人の摂取量が少ないカルシウムがあげられます。牛乳アレルギーの子は牛乳アレルゲン除去調整粉乳(いわゆるアレルギー用ミルク)による代替を行います。
食品除去を行うときにもう一つの問題は、除去食品の持つ調理特性の補いです。たとええば、卵アレルギーの場合には、泡立てた卵白の変わりに重曹やベーキングパウダーを用い、あく取りには卵白を用いずにていねいにあくを取り除くなどの工夫が必要となります。
2.調理の工夫で低アレルゲン化させる
食品によっては加熱調理による抗原性の低下が可能です。卵は加熱することにより全体として抗原性が低下します。とくにオボアルブミンは加熱により凝固しやすいため、症状を起こしにくくなります。オボアルブミンにのみ強く反応するタイプの卵アレルギーの場合には、卵を含むお菓子や食品でアレルギー症状があっても、固ゆで卵1個摂取可能な場合があります。一方、加熱しても固まらないオボムコイドに強く反応するタイプの卵アレルギーでは、少量の固ゆで卵によってもアレルギー症状を起こすことがありますので注意が必要です。
牛乳の主要成分であるカゼインは、加熱によっても全く抗原性に変化はなく、小麦もあまり影響を受けません。
3.低アレルゲン化食品の利用
牛乳中の主要抗原であるカゼインは容易に加水分解されます。このことを利用して作られたのがカゼイン加水分解乳で、ミルクアレルギーの子では乳児用調整粉乳または牛乳の代替品として用いられています。乳清由来のタンパク質を使用した牛乳アレルゲン除去調整粉乳やアミノ酸乳もあります。
しょうゆ中の小麦タンパク質は醸造過程で分解され、少なくともグリアジンは検出感度以下になっています。臨床的にも摂取による症状の誘発は認められないことから、小麦アレルギーでもふつうのしょうゆを使うことができます。
代表的な食物アレルゲンの特徴
次に、代表的な食物アレルゲンの特徴を述べることにします。これらの特徴を知っておくと、乳幼児では食物除去のさいに役立ちます。学童や大人では、交差反応に関連した食物に対しても注意を払うことができます。
鶏卵
- 複数の動物性・植物性タンパク質をとることで、栄養面での代替は容易です。
- 乳児期の発症の鶏卵アレルギーの多くは耐性を獲得する可能性が大です。
- 優れた調理特性を有しているため、いろいろな加工食品に使われています。
家庭では卵を使用せずに調理することが可能です。衣やつなぎに鶏卵がよく使われますが、使用しないで調理することが可能です。給食では鶏卵を使用しない工夫や馬鈴薯デンプンによる代替が可能です。鶏卵は加工食品やあく取りに用いられることがあります。 - 加熱により抗原性が低下します。調理条件や調理方法により、主要アレルゲンであるオボアルブミンとオボムコイドの抗原性の低下パターンが異なるので注意が必要です。オボムコイドの抗原性は加熱してもほぼ同じなので注意が必要です。
- 鶏卵アレルギーなど食物アレルギー児に使ってはいけない薬物があります。とくに消炎酵素薬である塩化リゾチームは、市販のかぜ薬などにもよく入っているので注意が必要です。
牛乳
- タンパク質として栄養面の代替は容易ですが、カルシウム源としての代替が必要です。
- 牛乳アレルゲン除去調整粉乳は分子量を小さくすることにより、生体内で抗原性を示さないようにしたもので、加水分解乳とアミノ酸乳があります。
- カゼインは加熱による低アレルゲン化が全く起こらないので、調理時の混入に注意します。
小麦
- 乳児期の小麦アレルギーは比較的早く耐性を獲得することが多いのですが、幼児期以降や大人の小麦アレルギーでは耐性獲得はむつかしいです。
- 小麦特異的IgE抗体価が低くてもアナフィラキシーを起こす例があり注意が必要です。
- 食物依存性運動誘発性アナフィラキシーの原因抗原として小麦が多くみられます。
- 加熱による低アレルゲン化はほとんど起こらないので、調理時の混入には注意が必要です。
- うどんが食べられてもパンは食べられないことがあるので注意が必要です。
- しょうゆの原材料としての小麦では、ふつうアレルギー症状は出現しません。
- 小麦粉の吸入による感作もあり、パン職人などの職業病の側面もあります。
- 小麦と他の穀物(大麦、ライ麦など)の交差抗原によるアレルギー誘発の危険性は約20%程度です。
大豆
- 大豆アレルギーのおもな症状は乳児期の湿疹ですが、耐性獲得が期待できることが多いです。幼児期以降では即時型反応やアナフィラキシー、口腔アレルギー症状が起こることがあります。
- 大豆CAPラスト検査、皮膚テストは偽陽性が多いので注意が必要です。確定診断には、食物負荷試験が必要です。
- 大豆アレルゲンは多種類あるため、人により食べることができる食品が異なります。消化や吸収の影響を強く受けます。豆乳でアレルギー症状を起こしてもとうふは食べることができる例があります。納豆による遅発型のアナフィラキシーの例もあります。
- 一般に大豆アレルギーがあっても、他の豆類は食べられることが多くあります。また、大豆アレルギーでも発酵により低アレルゲン化される可能性があり、しょうゆはほとんどの例で安全にとることができます。
コメ
- 即時型反応を起こす例はまれですが、存在します。
- 吸入抗原として米ゆかによる呼吸器症状や接触による皮膚炎の悪化例もあります。
- コメ特異的IgE抗体がImmunoCAPクラス6でも無症状の例が多くあります。
甲殻類
- エビとカニ、軟体動物(タコ、イカなど)、貝類には共通してトロポミオシン(筋性タンパクの一種)が含まれています。加熱処理や酸処理に対して抗原性はほとんど変化しません。検査上は交差抗原性が認められるものが多いのですが、実際には食べられることも多いので確認が必要です。
- エビアレルギーの人の2/3はカニアレルギーもあるので甲殻類全般の除去が必要になることが多くなります。しかし、エビアレルギーの人の中で、軟体類・貝類アレルギーに反応するのは約20%前後であるため、甲殻類アレルギーと軟体類・貝類アレルギーとは分けて考えたほうがよいでしょう。
- エビはシュウマイやかき揚げなどにも含まれていることがあります。
肉類
- 除去が必要なことはまれで、明らかにアレルギー症状の原因となっている場合にのみ除去します。
- 牛肉中のウシ血清アルブミン(BSA)と反応するアレルギー児も、よく加熱した牛肉を食べることができます。
- 一般に、鶏卵のアレルギーがあっても鶏肉の制限はほとんど必要なく、牛乳アレルギーがあっても、牛肉の制限はほとんど必要ありません。
そば
- 日本人に多く、アナフィラキシー反応を起こしやすい食品です。いちど発症すると耐性を獲得することは困難です。わが国でそばアレルギーが多いのは消費量が多いためと考えられます。
- 小麦やコメなどの他の穀物との臨床的な交差反応はありません。
- 主要アレルゲンは、水溶性で耐熱性を持っています。そばをゆでる蒸気や同じ釜でゆでたうどんにもアレルギー反応を起こすことがあります。吸入抗原としても働き、そば粉やそば殻枕の粉塵を吸入して反応することがあります。ボウロやクレープなどのお菓子にもそば粉が使われていることがあります。
ピーナッツ
- 欧米ではアナフィラキシーを起こす代表的な食物ですが、近年日本でも急増しています。
- ピーナツの殻にも抗原性があり、吸入抗原としても働きます。
- ローストすると抗原性が増します。アメリカではローストして食べることが多いため、ピーナツアレルギーが多いのではないかと推測されています。
- ピーナッツやピーナッツオイルがカレーのルウやスナック菓子、店頭販売のサラダやサンドイッチなどにも使用されていることがあるので、十分に注意が必要です。
- ピーナッツアレルギーでは、ピーナッツオイルを含むローションを皮膚に塗ることも禁止です。
- ピーナッツは豆類、ナッツ類と交差抗原性を持っています。ナッツアレルギーは一般的に症状が重いといわれています。ピーナッツアレルギーがある場合に、他の豆類やナッツ類が食べられるかは、症例ごとに異なり注意深い対応が必要です。
ごま
- すりごまや練りごまでも症状が起こります。
- ふりかけ中のごまのように、そのまま便中に排せつされる場合には、ふつうは症状を起こしません。
- ごま油も食べられることが多いので、負荷試験などにより確認する必要があります。
魚類、魚卵
- 魚類アレルギーは欧米(北欧を除く)に比べるとわが国では多くみられます。これは乳児期から積極的に魚を食べることによる消費量の違いからくると考えられます。
- 魚類アレルギーの症状としては、乳児期のアトピー性皮膚炎と即時型の症状があります。乳幼児期の発症例では年齢とともに少しずつ緩解していく例も多くありますが、学童や大人の発症では緩解していく例は少ないようです。
- すべての魚に反応する場合も、一部の魚だけに反応する場合もあります。
- サバ、アジなどの魚はアミノ酸の一つヒスチジンを多く含みます。保存状態が悪く、鮮度が落ちていると感染している細菌の作用によりヒスチジンからヒスタミンが作られます。じんま疹や発赤などのヒスタミン中毒を起こして、魚アレルギーと間違えることがあります。新鮮なものを購入し、家庭における再冷凍は避けましょう。また、寄生虫によるアレルギー(アニサキス)を誤って魚アレルギーと診断されることがあります。
- かつおぶしなどによるだしはほとんどの魚アレルギー児に使用することができます。魚アレルギー患者の一部は、缶詰の魚肉は食べることができます。
- 魚卵と鶏卵との交差抗原性はありません。イクラによる即時型反応が目立つようになりました。
野菜・果物
- 果物によるアレルギーで多くみられるのは、口の中がはれたり痒くなったりする口腔アレルギー症候群(OAS)です。
- アレルギーの報告の多いものには、キウイフルーツ、りんご、もも、メロン、ぶどう、バナナなどがあります。キウイフルーツ、バナナ、ももはアナフィラキシーを起こした食物抗原の上位に入っています。
- 加熱や消化により抗原が失活しやすいので、調理したものは食べることができる場合が多くあります。りんごアレルギーの場合でも、焼きりんごやアップルパイは食べられる場合が多くあります。
- バナナやももなど熱や消化酵素に安定な抗原を有するものでは、加熱してもアレルゲン性が失われないので注意が必要です。
- 交差抗原性を介して花粉、ラテックス(天然ゴム、ゴム手袋)、多種の野菜や果物に反応することがあります。
- 山芋の皮付近にあるシュウ酸カルシウムの針状の結晶が皮膚を刺激して、口のまわりや手に刺さってかゆみを起こすことがありますので、山芋アレルギーと区別して診断する必要があります。山芋は生または加熱調理して食べるだけでなく、和菓子にも用いられているので、どこまで除去が必要であるかは個別に検討が必要です。
- 果物や野菜の中には自然な形で、あるいは添加物として薬理活性をもつ物質が含まれていることがあります。これらの物質は、免疫反応を介さないでアレルギーに類似した反応を引き起こすため、仮性アレルゲンといいます。
一般に果物のアレルゲンは不安定なものが多いため、診断にはプリックテストが役立ちます(皮膚テストの一つであるプリックテストですが、果物を針で刺し、その後すぐに皮膚を刺します)。
血液検査の特異的IgE抗体の検査は簡便ですが、一般に果物アレルギーでは検出が困難です。
- 1.ラテックス(天然ゴム)と果物アレルギーについて教えてください。
- 2.果物・野菜アレルギーと花粉症の関係について教えてください。
- 3.果物・野菜による口腔内アレルギー症候群(OAS)について教えてください。
- 4.果物・野菜アレルギーの一般的な経過について教えてください。
- 5.仮性アレルゲンと食物アレルギーとはどうしたら区別できますか?。
- 6.食物アレルギーの小児に使ってはいけない薬について教えてください。
- 7.食物依存性運動誘発性アナフィラキシーはどうして起こるのですか?
- 8.食物の低アレルゲン化について教えてください。
- 9.アレルギー物質の食品表示を読むときの注意を教えてください。
- 10.食品除去の解除を考える目安について教えてください。
- 11.最後になりましたが、おとなの食物アレルギーの展望について。
参考文献:
- 独立行政法人環境再生保全機構「ぜん息予防のための よくわかる食物アレルギーの基礎知識」
- 「食物アレルギー」 監修斉藤博久、編集海老澤元宏、診断と治療社
※このサイトは、地域医療に携わる町医者としての健康に関する情報の発信をおもな目的としています。
※写真の利用についてのお問い合わせは こちら をご覧ください。