Q11:最後になりましたが、おとなの食物アレルギーの展望について。
A11:世界的なアレルギー疾患全体の有病率増加と同じく、多くの地域で食物アレルギーの有病率も増加しています。
食物アレルギーといえば、小児、とくに乳幼児期に発症する鶏卵、乳製品、小麦などのアレルギーを思い起こすことが多いと思われますが、成人になっても発症する食物アレルギーも決してまれではありません。しかも、乳児期に発症する食物アレルギーと成人になって発症してくるアレルギーとは、原因食品、病態が大きく異なっています。
成人の食物アレルギーの原因食物はどのようなものが多いのでしょうか?
もっとも頻度が高いのが果物・野菜(リンゴ、サクランボ、大豆、メロンなど)で、全体の約30%で、次に重要なのが小麦で約20%と報告されています。一方、小児の原因アレルゲンとして重要な鶏卵や乳製品は成人ではきわめてまれであったと報告されています。
成人において果物・野菜アレルギーが多い原因としては、成人の花粉症の有病率の高さが関係していると考えられています。
一般に、食物アレルギーの発症機序としては、原因の食物を反復して経口摂取しているうちにそれに対する抗体を有するようになり、食物アレルギーに発展していくという理解をされていることが多いと思われます。しかし、成人の果物・野菜アレルギーは必ずしもそれを経口摂取することによって発症しているわけではない、ということが重要です。
成人の果物・野菜アレルギーの原因は、花粉症の原因アレルゲンときわめて構造が類似したアレルゲンが果物・野菜の中にも存在することにあります。
すなわち、花粉のアレルゲンで花粉症を発症した患者の一部が、同時に果物・野菜の中の類似のアレルゲンにも交差反応するようになり、食物アレルギーを発症することになり、これを花粉・食物アレルギー症候群(詳しくはA2をご覧下さい)といいます。
このように成人では、食物アレルギーの原因が、経口摂取する食物自体でなく、皮膚、眼球結膜、鼻粘膜に接触する他のアレルゲンであるということが珍しくありません。ラテックス手袋による接触性じんま疹に果物アレルギーが合併することも、ラテックス・果物アレルギー症候群(詳しくはA1をご覧下さい)としてよく知られています。
一方、近年の天然素材ブームに伴い、工業的に加工された食物由来の添加物が、化粧品、ヘアケア製品、石鹸などの日用品に頻繁に用いられるようになってきました。
しかしながら、前述のような成人食物アレルギーにおける、皮膚や粘膜を介した感作(アレルギーの準備状態)ルートを考えると、必然的に、このような食物由来の成分に日常的に暴露され続けることにより、それらに対して感作が成立して、その後食物アレルギーを発症してしまうのではないかという懸念が生じてきます。
このように、予期せぬ皮膚や粘膜を介したアレルギー感作ルートによって成人食物アレルギーが発症していることはまれでなく、このような病態がアレルギー疾患の流行にかかわっている可能性が指摘されています。
このような予期しない感作ルートを適切に同定し、その対策を講じることがきわめて重要と考えられます。
参考文献:
1)日本医事新報 No4580 2012.2.4
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