診察のポイント
(1) リンパ節腫大や皮膚変化などの症状によって検査計画は異なります
(2) 「かぜの熱はふつうは3日まで」という経験に基づいて、4日以上の熱では検査が必要というルール
(3) 熱の程度は目安で人により異なります。咳は肺炎の重要な症状ですが、ここでは咳の有無は問いません
(4) 自己免疫疾患、悪性腫瘍に関する検査などを、必要に応じて行うことがあります
(5) 血液検査だけでなく、超音波・CT・髄液検査なども考慮します
1,発熱の4日のルール
発熱の4日のルールは
かぜがこじれて起こる肺炎を見逃さないためのルール
1)かぜなどの熱は、丸々3日以内に解熱するのがふつうなので4日以上熱が続くときには肺炎を疑う
2)発熱して4日後には、胸部レントゲン撮影を考慮する
3)咳の有無は肺炎を疑う大切な症状だが、咳が少ない肺炎も存在する
4)胸部レントゲンで異常がないときは、血液検査や超音波検査などで熱の原因を詳しく調べる
発熱はもっとも一般的な症状の一つですが、何度以上を熱と考えたらよいのでしょうか?統一された基準はありませんが、経験的にはほぼ37.5度以上を発熱と考えてよいのではないかと思います。
一日中37.5度以上の熱が続けば「熱がある」と気がつきますが、日中は平熱でも夜になると37.8度くらい熱が出る、しかし翌朝になると熱は下がってくる こうした熱もりっぱな発熱です。咳がよく出て、夜になると38度近い熱が出てくるのは、こじれやすいパターンです。
かぜをひいて熱が下がらないとき、こじれて肺炎を起こしているのではないか、他に原因があるのではないかと心配になります。それに熱が出る原因はかぜばかりではありません。急性肝炎や血液疾患、膠原病、髄膜炎、心内膜炎、子どもでは川崎病など重要な病気が隠れている場合があります。それらを見つけるのによい方法が、「発熱の4日のルール」です。
「発熱の4日のルール」は、熱と咳が続くときには肺炎を見つける診察のコツの一つです。肺炎はありふれた病気です。決して高齢者だけに多いのではなく、子どもや10歳台、20~40歳台までの若い年齢層にふつうにみられる病気です。ふだん健康な人は多少かぜをひいても無理をしやすく、こじれて肺炎を起こしやすくなります。かぜで熱が出ても3日以内に下がるのがふつうです。4日以上にわたって熱と咳が続くときには、肺炎を起こしていないかどうか、胸部レントゲン写真で確認する必要があります。たとえ咳が多くなくても胸部レントゲンで肺炎があった例は数多くあります。
平熱とは何度くらいでしょうか?
体温が低い、35.5度くらいしかないと心配される人が多くいます。日本人は体温を脇の下で測るのが習慣ですが、欧米では口の中で体温を測ります。脇の下は個人差が大きく、人によってさまざまです。
脇の下で低くても、口の中で体温を測れば、ふだん健康な人であれば36.5度前後を示すはずです。脇の下で測定した体温は個人差が大きいため、ふだんから体温計で測定して自分の平熱を知っておく必要があります。
欧米人の平熱は37度前後と言われます。どおりで冬の寒い日でも、室内ではTシャツ1枚で過ごせるはずですね。
2,4日以上の熱では、胸部レントゲンで肺炎を確認、血液検査を考慮
このときの熱とは何度くらいを指すのでしょうか?
一定の決まりはありませんが、37.5度を目安に考えてはどうでしょうか?大切なのは熱の出方です。一日中、38度前後の熱が続けば誰でもおかしいと気づくはずです。日中は平熱か微熱程度で、夜になると37.8度くらいの熱が続くとき、とくに咳が多いときにはこじれやすいパターンです。またマイコプラズマ感染症かもしれません。
それでは肺炎など他の病気を心配するあまり、熱が出てから1日から2日くらいですぐに血液検査や胸部レントゲンを撮影する必要があるのでしょうか?肺炎は突然起こるのではなく徐々にこじれて起こるものなので、熱が出てすぐに胸部レントゲンを撮影しても異常が出にくいと考えられます。4日程度は待ってから撮影するのが望ましいでしょう。
レントゲン検査で異常がなかった場合はどう考えるべきでしょうか?熱が4日以上続くときには、その原因はかぜや肺炎以外にあるかもしれないので、いろいろな病気の可能性を考えながら血液検査などを行うことになります。
レントゲンで肺炎がみられない場合でも、気管支炎の可能性はあります。気管支炎は炎症が気管支にとどまるため、レントゲンではふつう異常はみられません。咳がひどい場合は気管支炎の可能性も考えなければなりません。マイコプラズマ感染症は、必ず肺炎を起こしてレントゲンに異常を起こすわけでないので注意します。
診察室では聴診器をあてますが、聴診音で肺炎の診断は可能でしょうか?
プチプチ、ゴロゴロという水疱がはじけるような聴診音から肺炎が疑われる場合もありますが、聴診音に異常のないことも多く、聴診音だけで肺炎の診断をすることは困難です。
血液検査で肺炎は診断できるでしょうか?
血液検査では白血球数から増加していれば細菌感染を疑い、減少していればウィルス感染を疑う、CRPが上昇すれば炎症の程度が強いこと、抗体検査からマイコプラズマ感染症やインフルエンザなどの感染症の診断はできます。しかし血液検査の結果から肺炎を疑うことはできますが、レントゲン撮影でないと肺炎の診断はできません。
血液検査は肺炎の治癒の判定には有用です。CRPなどの炎症反応が正常化すれば、肺炎が治癒したと判断できます。
血液検査の有用性は言うまでもありません。とくに「発熱の4日のルール」で胸部レントゲンに異常がなかったときは、熱の原因をさらに詳しく調べるため血液検査が必要になります。血液検査の結果から、当初は予想できなかった病気が候補として上がってくることがあります。
若い人の熱の原因の一つにEBウィルス感染症があります。10歳台後半から20歳台の若い人で、高熱・扁桃炎・頸部リンパ節腫大を認めるとEBウィルス感染症を疑います。一方、血液検査で肝機能障害や異型リンパ球がみられると、逆にEBウィルス感染症の存在に気がつくこともあります。
妊娠中のかぜ薬
妊娠中のかぜ薬のかぜ薬について。胎児が薬の影響を受けやすくなるのは、受精卵が子宮に着床した時からです。その目安は妊娠4週以降、目安としては次の月経予定日の頃からと考えるとよいでしょう。受精すると受精卵は細胞分裂(分割)しながら卵管を移動していきます。この時期はまだかぜ薬などの影響を受けにくい時期です。受精卵が子宮に着床すると妊娠が完成し、活発に細胞分裂を始め、重要な臓器の発生・分化が進みます。妊娠初期(妊娠4週から7週終わりころまで)は薬剤の影響をもっとも受けやすい時期です。
妊娠の可能性が生じたときには、そのときから薬剤を控えるのがよいのではないかと思います。とくに次の月経予定日になっても生理が始まらないとき、そのときは妊娠の可能性も考慮してかぜ薬などの一般的な薬剤の中止を考慮します。とくに妊娠7週の終わり頃までは薬剤の影響をとくに受けやすいため、薬は控えます。妊娠8週以降は時期によってかぜ薬の危険度は異なります。しかし妊娠中を通して、必要な場合を除き安易な気持ちでかぜ薬などを飲むことは、出産まで不安な気持ちで過ごさなければならないことなどを考えると避けた方がよいと思います。
かぜ薬を含む薬剤一般について、妊娠中に絶対に安全な薬といえる確固たるルールがあるわけではありません。内科医と産科医によって妊娠中の安全な薬について考え方が異なると、妊婦は混乱を生じることになります。内科医からかぜ薬を処方されたときには、飲み始める前に産科医に確認するくらいの慎重さがあってもよいのではないでしょうか。
3,熱の出ない肺炎もある!?
かぜや熱の原因を調べる目的以外にもレントゲンは重要です。とくに肺腫瘍や肺結核、心疾患などが疑われるときにもレントゲンは必須の検査です。定期的な検査の目的でレントゲンを撮影したとき、偶然に軽い肺炎の所見を認めることがあります。また、肺炎が治癒した後の所見(これを器質化肺炎とも陳旧性肺炎とも呼びます)を認めることもしばしばあります。
自分では軽いかぜ程度に思っていても、実際には肺炎を起こしていたが自然に治癒したという場合が実際には数多くあります。肺炎に気がつかなかっただけです。熱や咳もなく偶然見つかった肺炎を、わざわざ治療する必要はないと思います。
微熱(目安として37.5度前後)が何日も続くとき、マイコプラズマ感染が原因だったという場合がしばしばあります。マイコプラズマ感染症ではレントゲンにいつも異常があるとは限りません。学童で多くみられますが、子どもから親がマイコプラズマに感染したときも、長引く微熱が初発症状のことがあります。咳はそれほどひどくなくても、微熱が続くときはマイコプラズマ感染症を疑うことは大切です。
*マイコプラズマについては本サイトをご覧ください
結核や肺がんが原因で肺炎に似たレントゲンの所見を示すことがあります。このような、場合、熱は出ないかあっても微熱程度のことが多いです。ガン年齢に達した中高年者のレントゲンの陰影を認めた場合、結核やガンなどが原因ではないか、常に注意します。経過観察を慎重に行い、必要があれば胸部CTを行います。
胸部レントゲンを撮影していると、年齢を経るにつれて病気に関係のない、さまざまな変化が現れるようになります。
一番多いのは、肺の上部(肺尖部)の胸膜肥厚です。これは気がつかずに起こり、自然治癒した古い炎症性変化です。こうした炎症性変化は肺尖部だけでなく、いろいろな部位に起こります。
結核が原因と思われる肺野の炎症性変化や小石灰化も高齢者にはふつうにみられる変化です。
喫煙や職業や環境による変化(じん肺など)もよくみられる変化です。
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