13, 発熱皮膚の変化(発疹や紅斑)
熱のあるときに皮膚に変化が出るとき、診断の大きな手がかりになります。代表的な病気は、風疹、麻疹(はしか)、伝染性紅斑(りんご病)、溶連菌感染症、水痘(みずぼうそう)、川崎病などです。これらの病気の皮膚変化はそれぞれ特徴があります。
忘れてはならないのは薬剤の副作用です。診断が遅れると重症な場合、後遺症を残すことがあります。最近は薬といっしょに薬剤の情報を提供することが多くなりました。少しでもおかしいと感じたときにはすぐに連絡することができるように、注意書きと連絡先を記述しておく慎重さが求められます。
皮膚変化には紅斑と呼ばれるものがあります。紅斑は皮膚の毛細血管の拡張が原因で起こります。紅斑は皮膚を指で圧迫すると消失し、圧迫を止めると速やかに出現します。小さな紅斑と点状出血の違いですが、点状出血では指で圧迫しても、小さな発赤は消えません。さらに指で湿疹を軽くなででみます。ざらざらしているか、もりあがっているか(丘疹)を確かめます。
- 紅斑が全身に広がっている場合:
麻疹、突発性発疹、ツツガムシ病、日本紅斑熱、成人発症スティル病、川崎病、薬疹など - 全身に紅色丘疹が多発している場合:
風疹、溶連菌感染症、水痘、ジアノッティ症候群、薬疹など - 発疹とともに高熱を伴う場合(大人):
EBウィルス感染症、成人発症の水痘、風疹、ツツガムシ病、日本紅斑熱、成人発症スティル病、重症な薬剤による副作用など
乳幼児期に発症しやすいのは、麻疹、風疹、水痘、突発性発疹、ジアノッティ症候群、川崎病などです。子どもでは夏かぜの時期に、発熱と小さな発疹があり診断が困難な場合があります。夏かぜでは子どもでは、発熱と原因をはっきりと説明することができない小さな発疹を伴うことがあります。便宜上、夏かぜ発疹症と呼ぶことがあるようですが、数日で消失します。
発熱と発疹について
一般の外来で診る機会が多いのは、風疹、溶連菌感染症、伝染性紅斑(りんごほっぺ病)の3つです。麻疹を診る機会は10年前までは珍しくありませんでしたが、最近はほとんどなくなりました。
成人の伝染性紅斑には、手足の小紅斑に加えて、手足の関節痛やむくみを伴いやすいことです。高熱は伴うことは少ないのですが、ときには伴います。成人の伝染性紅斑は子どもと接する機会の多い母親の間では珍しくありません。これを知っておかないと、膠原病などの難病を疑われることになります。
*成人のりんご病(伝染性紅斑)について詳しくは本サイトをご覧ください
14, 不明熱とは
不明熱という言葉があります。この定義は時代とともに次第に変わってきました。古典的には、(1)3週間以上持続する発熱、(2)38.3度以上、(3)1週間以上の入院による精査でも診断がつかない という3項目によって定義されました。
古典的不明熱のカテゴリーに入る疾患は多岐にわたりますが、大きく3つのカテゴリー(感染症、腫瘍、膠原病)で概ね6~7割がカバーされます。中でも、感染症では結核と感染性心内膜炎、腫瘍では悪性リンパ腫、膠原病では成人スティル病と側頭動脈炎の占める割合が高くなります。
つまりこの5つの疾患を鑑別できると、不明熱の3割程度はカバーできていることになります。ただし、いずれも診断には、除外診断を含む検査など、時間がかかる疾患であることが難点です。
一般の診療所で簡単にできる検査としては、胸部レントゲン検査(結核?)、抗菌薬使用前の血液培養2セット(感染性心内膜炎?肝膿瘍?)、血沈(側頭動脈炎?)とフェリチン(成人スティル病?)がそれぞれヒントになります。そのほかに、甲状腺機能亢進症(亜急性甲状腺炎を含む)は、TSHとFree T4(またはFree T3)を調べることで鑑別できます。
2003年にカナダトロント大学から提唱された古典的不明熱を診断するための手順です。このアプローチでは、3週間以上発熱が続く人を対象として、どのような検査を組んでいくのかの順番を示しています。
1番目のステップ: | 必要のない薬剤を中止して3日間観察する。よく処方される代表的な薬剤として、抗菌薬と解熱剤(サリチル酸系製剤)があります。不明熱ではこれらの薬剤を積極的に中止することが必要 |
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2番目のステップ: | 腹部CTもしくはシンチグラフィーで局在診断から生検を行い、膿瘍や腫瘍を除外 |
3番目のステップ: | 感染性心膜炎を疑い、Duke診断基準を用いて除外 |
4番目のステップ: | 下肢のドップラーエコーを行い、深部静脈血栓症を除外 |
5番目のステップ: | 50歳以上に限り、側頭動脈生検を行い、側頭動脈炎を除外 |
6番目のステップ: | 状態が悪化している患者に限り、肝生検を行う |
こうしたアプローチを実践するにはおもに入院になり、外来で実際にできるのは、
(1)中止できる薬剤を中止する、
(2)できるだけ抗菌薬を使わず、血液培養2セットを採取する、
(3)(可能な環境であれば)造影CTを行う といったところと思われます。
古典的不明熱ではどのような感染症を考慮すべきでしょうか?
結核、感染性心内膜炎、膿瘍が大部分を占めていますが、そのほかでは、尿路感染症、肝胆道感染症がしばしば含まれていることに注意すべきです。
こうしてみると感染症が原因の不明熱では、血液培養(菌血症の存在から感染性心内膜炎や膿瘍の存在を疑う)、尿培養、心エコー(感染性心内膜炎では大動脈弁や僧房弁に変化が見られ、また血液の逆流症が見られることあり)、胸部~骨盤の造影CT(おもに膿瘍の存在)により大半が診断可能であることがわかります。
臨床症状のはっきりしない不明熱が疑われる場合、血管内感染症、尿路感染症、肝胆道感染症の3つを考えることが実際的です。血管内感染症には、感染性心内膜炎、カテーテル関連敗血症、感染性動脈瘤、感染性動脈内膜炎、化膿性血栓性静脈炎などが含まれます。
これらはすべて血液培養陽性が診断の糸口になります。これは、膠原病で特異的な症状が乏しいときに血管炎を考慮するのと同じで、血管が感染源になっているときには症状が多彩な反面、一般的に特異的な症状が出にくい特徴があります。
尿路感染症はふつう排尿時痛や背部痛、戦慄や悪心などの症状が多いとされますが、とくに子どもや高齢者などでは症状が乏しいことが比較的多くあります。また、高熱のため意識障害を起こしたり、腹痛といった一見尿路と関係のない症状が出ることもあります。
尿培養を検査するタイミングを逃したり、抗菌薬の投与、尿路閉塞などのため、尿培養が偽陰性になることがあります。
肝胆道系も被膜や血管にしか感覚神経がないため痛みを感じにくく、病変があってもないように見える臓器です。黄だんがあればすぐに分かるものの、細菌が関与する肝膿瘍でも必ずしも痛みを伴わず、発熱だけが目立つことがあります。肝膿瘍は正常肝機能でも起こりえるし、ものすごく小さいとCTにも写らないことがあります。肝胆道感染症は、特異的な症状が乏しいときには考えるべき疾患と言えます。
古典的不明熱の原因疾患には挙がっていませんが、肝臓の小さい膿瘍といえばpylephlebitisという門脈に化膿性血栓性静脈炎を来すものがあります。これは憩室炎や虫垂炎などの際に、門脈に炎症が波及し、門脈血栓を伴う微少な膿瘍を作るものです。肝膿瘍の原因でもっとも多いのは胆管炎からの波及したものです。胆管炎の診断のために胆汁を培養するのは困難なので、血液培養が診断の手がかりになります。多くの肝膿瘍ではCTで分かるようになってきているため、不明熱と呼ばれなくなりつつあります。
古典的不明熱の原因疾患において、膠原病の頻度が増えています。全身性エリテマトーデス(SLE)に加えて、血管炎症候群、成人スティル病、リウマチ性多発筋痛症が大部分を占めています(血管炎症候群:側頭動脈炎、汎血管炎/大動脈炎、結節性多発動脈炎、過敏性血管炎、ウエゲナー肉下腫など)。
SLEといえば若い女性の病気というイメージがありますが、頻度は多くないもののあらゆる年齢層、性別で起こりうる病気です。50歳以上で発症するSLEは、皮膚所見や腎障害に乏しいという特徴があり、漿膜炎や肺病変で発症することがあります。
高熱があってもCRPがあまり上昇しない、リンパ球減少などに注意しないと見落とすことがあります。不明熱で膠原病を疑うときには、ANA(抗核抗体)の測定が重要です。
古典的不明熱の原因疾患として膠原病の中でもっとも多いのは、側頭動脈炎とこれに合併することのあるリウマチ性多発筋痛症です。
側頭動脈炎は、(1)50歳以上、(2)頭痛、(3)側頭動脈異常、(4)血沈>50mm/1時間、(5)側頭動脈生検異常 のうち3つ以上を満たすと診断に至ります。それ以外にも、食欲不振、体重減少、寝汗などの症状が起こることもあり、持続性の乾いた咳という珍しい症状で見つかることもあります。
欧米に比べて日本は少ないという報告もありますが、実際には未診断になっている可能性も指摘されています。
成人スティル病はまれな疾患ですが、診断は複雑です。特徴は50歳以下に多いことで、側頭動脈炎やリウマチ性多発筋痛症が50歳以上に多いのと対照的です。
山口診断による基準では、大症状として(1)関節痛、(2)39度以上の発熱、(3)皮疹(発熱時に出るサーモンピンク疹が有名)、(4)白血球1万/μL以上、小症状として(1)咽頭痛、(2)リンパ節腫脹か脾腫、(3)肝機能異常(トランスアミラーゼ異常を伴わずALPだけが上昇することがポイント)、(4)リウマチ因子およびANA陰性、があり、大症状2つ以上を含む計5つ以上を満たした上で、感染症、がん、他の膠原病の除外が必要となります。
また血液検査で、フェリチンの上昇も有名で、とくにフェリチンが5000μg/Lを超える疾患は限られていますが、その中の一つが成人スティル病です。
*フェリチンは肝細胞障害、感染、炎症、組織壊死、腫瘍などがあると高値になります。
結核について
結核の診断がむつかしいのは、結核菌の存在する証明がむつかしいことです。一般的に、結核=肺結核というイメージがありますが、結核には肺外結核もあります。結核菌の培養には数週間~数か月かかることがあります。肺外結核も疑いながら、病変(リンパ節、胸水、腹水、髄液など)から検体を採取する必要があります。
結核はほかの感染症と異なり、抗結核薬を使用しないと改善しません。結核を疑わずにニューキノロン系抗菌薬の投与を続ける習慣が一部にありますが、こういう事情が結核の診断を困難にする一因となっています。
肺結核の診断に胸部レントゲンは重要です。しかし、胸部レントゲンの変化が明らかでない場合もあります。咳が続くとき、高齢者、化学療法(抗がん剤治療など)を現在受けている人や受けたことがある人、糖尿病のある人などでは肺結核のリスクが高いと考えられ、たとえレントゲン検査で異常がみられなくても、喀痰検査を行うことが勧められます。
また最近は非定型抗酸菌症も増加しています。非定型抗酸菌症は肺結核と異なり、他の人に感染することはほとんどありませんが、抗結核薬などの治療が奏功しにくいという難点があります。非定型抗酸菌症の診断のためには、喀痰の培養・同定検査が必要です。
参考文献:
1、日本医事新報No.4626 2012.12.22「不明熱のここを診る:第3回古典的不明熱とは?」
2、日本医事新報 No.4631 2013.1.26. 「不明熱のここを診る:第4回感染症で考える不明熱とは?」
3、日本医事新報 No.4635.2013.2.23.「不明熱のここを診る:第5回膠原病で考える不明熱とは?」
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