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7,発熱の4日のルールは、肺炎以外にもいろいろな病気を見つける上で重要
熱を出す疾患はかぜばかりではありません。「この熱はかぜと違って何かおかしい」と気がつくのに、早ければ早いに越したことはありません。しかし初めて診察したときに、かぜと他の疾患の区別をするには実際は容易ではありません。
初めはかぜと考えてスタートしたとしても、経過と症状の変化をみながら、速やかに判断を変え検査計画を変更するのが現実的かつ実用的です。
ただし、この判断までに時間がかかると、気がついたときにはこじれていたという結果になります。「発熱の4日のルール」は、熱が続くときに肺炎以外の熱が出る病気に気がつくための重要なルールです。丸々3日は様子をみたとしても、4日以上熱が続くときには肺炎以外にもいろいろな病気を疑う必要があります。
熱が続いて下がらないときは、患者自身もおかしいと感じて不安な気持ちになります。患者の直感や子どもでは親の「何かいつもと違う」という直感が病気を見つけるための重要なサインであることがあります。
熱があるとき見逃してはならない肺炎以外の重要な病気は数多くあります。このような病気では熱以外の症状が加わることがあります。こうした症状が診断の手がかりになります。
後医は名医?それとも迷医?
「後医は名医」という医師仲間でささやかれる、あまりありがたくない言葉があります。これは後から診察をする医師の方が、始めに診察する医師よりも正しく診察できる確率が高いという意味です。その結果、後から診察するチャンスを得た医師の評価は上がり、始めに診察のできなかった医師の評価は下がることになります。
どうしてこのようなことが起こるかというと、診察は経過をみながら診断をすることが多いからです。したがって、「様子をみましょう」という言葉が多くなります。様子をみるとは言い換えると、症状がもう少しそろうまで待ちましょうという意味、さらに言い換えるともう少し悪くなるまで待ちましょうという意味でもあります。
発熱の場合も、このかぜがこじれるかどうか? また熱の原因が本当にかぜなのかどうかを初めから判断することは困難です。発熱の経過をみながら判断することになります。しかし、この判断に時間がかかると手遅れになりかねません。
丸々3日間は様子をみて4日以上熱が続けばおかしいと考える、これが経験によって得られた「発熱の4日のルール」なのです。この場合の3日とは、熱が出てから3日という意味で、診察を受けてから3日という意味ではありません。熱が出ても自宅で様子を見る人は少なくありません。熱が下がらないと不安になり、診察に来られます。この場合、熱が出てから4日以上たっていれば、初診日であっても検査を進めていく必要があります。
初めは診断が困難と思われても日にちがたつと症状がそろい、診断に至る可能性が高くなります。しかし、病気の種類によっては診断が困難な場合も少なくありません。医師によって診断技術にそれほど大きな差があるとは思えず、前医と同じように診断に迷うことになります。このような場合には、専門医に紹介します。
8,尿検査は発熱の原因を調べる貴重な検査
発熱と尿白血球の増加
発熱の原因は様々です。とくに女性の場合には尿路感染症が原因のことがあります。膀胱炎では熱が出ることはまれですが、急性腎盂炎では高熱が出ることがよくあります。
尿検査で白血球が増加してときは腎盂炎を疑います。尿所見に白血球増加などの異常がみられたときは、顕微鏡で尿を観察することが大切です(尿沈渣)。顕微鏡で確認することで、白血球の増加の程度を目で見て確認することができます。
腎盂炎では右または左の腰の部分をげんこつで軽くたたくと、患部側に痛みを生じます。急性腎盂炎では高熱を伴うのがふつうですが、まれに熱がなく腰の鈍い痛みだけを生じることがあります。
若い女性で比較的多いのですが、尿沈渣で白血球や細菌を認めることから診断が可能です。このように尿所見で異常があれば、尿沈渣を調べる手間を惜しまないようにすべきです。
発熱と尿ビリルビン、ウロビリノーゲンの増加
急性肝炎の初期症状では発熱があり、かぜの症状とよく似ています。この場合も尿検査では肝機能異常を示すビリルビンやウロビリノーゲンが異常を示すため、肝炎や黄だんの存在を容易に疑うことができます。
尿タンパク
尿タンパクは重要です。発熱や脱水症では尿が濃縮されるため、健康な人でも尿タンパクが陽性になりがちです。しかし、尿タンパクの存在から、いろいろな腎炎や骨髄腫、膠原病、ネフローゼ症候群などを疑う手がかりになることもあります。
尿潜血
膀胱炎では尿中に赤血球が増加します。また尿管結石でも尿中の赤血球増加が決め手になります。しかし、いずれの場合も高熱は伴いません。
尿中の赤血球が増加する病気としては、子どもではIgA腎症が重要です。急性糸球体腎炎、初期慢性腎炎、尿路上皮ガンなど重大な疾患が発見されることもあります。血尿単独よりもタンパク尿を伴っているとき、腎疾患の存在する可能性が高くなります。中・高年者の血尿単独は悪性腫瘍の有無を調べる必要があります。
尿検査では、脱水症や食事がとれているかどうかもある程度判断できます。発熱時には食事もとりにくく脱水気味になります。そのため尿は濃縮されるため、尿検査ではケトンやウロビリノーゲンが陽性になるなどさまざまな所見が現れます。これらの変化は一時的なもので、水分や食事がとれるようになると改善します。
9,発熱時の頸部リンパ節腫大は重要なサイン
頸部リンパ節腫大は重要な病気につながるサインで、頸部リンパ節腫大の有無はとくに大切です。リンパ節が腫れているとき、大きさ、硬さ、移動性があるかどうか、痛みがあるかどうかなどに注意します。痛みがあるときはリンパ節に炎症を起こしていることが疑われます。短期間にリンパ節腫大の数が多くなる場合には、重大な病気が隠れている場合があります。
かぜが原因で扁桃炎を起こすと頸部リンパ節がいくつも腫れてきます。口内炎や口唇近くにできる単純ヘルペスなどでもリンパ節は腫れてきます。ピアスの穴から細菌感染を起こすと周囲のリンパ節が腫れます。
これらでは、リンパ節腫大は1cmくらいまででそれほど大きくはありませんし、数も多くありません。熱もなく、偶然に見つけたあごの近くに1~2個の小さなリンパ節の腫れはまず心配ありません。
高熱とともに頸部のリンパ節の大きな腫れを認めたときにまず初めに疑うべき病気は、子どもでは川崎病、10~30歳台ではEBウィルス感染症と亜急性壊死性リンパ節炎などです。
頸部リンパ節腫大は扁桃炎などでも起こり珍しくはありませんが、これらの病気ではリンパ節はかなり大きく腫れることが多く(ふつうは2~3㎝以上)、高熱も続きます。他の人からも容易に分かるほどです。
川崎病では病初期から大きな頸部リンパ節腫大を認めることがあり、早期発見に重要な所見ではないかと考えています。
風疹でも小紅斑とともに耳介後部にリンパ節腫大を認めるのが特徴です。子どもでは触ると分かりやすいのですが、大人では毛髪の中に隠れていることや、大きさもそれほど大きくないためはっきりしないことがあります。
子どもの首筋に沿ってリンパ節腫大が起こると、痛みのために首が回りにくくなることがあります。20歳台前後の若い人でも同様のことが起こることがあります。アデノウィルスなどのかぜのウィルスが原因ですが、ふつうは数日でよくなります。子どもでは炎症性斜頸の原因の一つです。EVウィルス感染症や風疹は血液検査で抗体を調べることにより診断は可能ですが、一般的なウィルス感染症が疑われるときは経過観察だけ行います。
こうした一般的な病気が考えられないとき、さらに悪性リンパ腫や血液疾患、膠原病、成人スティル病、いろいろな感染症(HIV感染症、猫ひっかき病、ツツガムシ病、結核など)なども考慮しながら検査計画を立てます。検査の中でリンパ節生検は診断に重要な検査です。これらの病気の検査や診断、治療は簡単ではないため、専門医に紹介します。
専門医に紹介するためにも、リンパ節腫大が感染症のため起こっているか、血液関連疾患か、膠原病が原因か、予想を立てる必要があります。
リンパ節の腫れが痛みを伴っている場合は、炎症を起こしていると考えられ、まず感染症を考えます。からだに発疹がある場合も感染症の可能性が高くなります。膠原病は多彩な症状に加えて、血液検査から疑います。血液関連疾患やリンパ節結核はリンパ節生検や血液検査、骨髄検査などから診断が可能となります。
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