神経調節性失神は心臓や血管、脳などに特別な病気はなく、他の原因疾患も明らかでない良性の失神発作の総称です。
神経調節性失神には次のような失神発作があります。
- 血管迷走神経性失神
- 状況失神:
排尿、咳嗽、嚥下、食後、採血時などの特定の状況で発症する - 情動失神:
恐怖、疼痛、驚愕など情動ストレスにより起こる - 頸動脈洞症候群:
頸動脈を圧迫すると起こる
若い女性に最も一般的に起こるのは、次に述べる血管迷走神経性失神です。起こりやすい場面としては、朝の混み合った電車の中で立っているときに気分が悪くなり、がまんしているとフーと意識を失うものです。
血管迷走神経性失神
血管迷走神経性失神は長時間の起立が誘因となることが多く、朝礼や集会で起こる失神の大部分がこの失神であると考えられます。血管迷走神経性失神はまた痛み、不眠・疲労・恐怖などの精神的・肉体的ストレス、さらには人混みの中や閉鎖空間などの環境要因が誘因となって発症し、自律神経調節の関与が発症にかかわり、脱水など循環血液量の減少が発作を助長します。
前駆症状として、吐き気、冷汗、眼前暗黒感を伴うことが多く、失神発作は、日中、特に午前中に発生することが多く、失神の持続時間は比較的短く(1分以内)、転倒による外傷以外には特に後遺症を残さず、生命予後は良好です。失神発作時の状況から血管迷走神経性失神を疑うことができますが、この失神の診断と治療効果の判定などにはチルト試験が有力な方法です。
*チルト試験について詳しくは次のサイトをご覧下さい
http://kompas.hosp.keio.ac.jp/contents/000432.html
失神発作の頻度、重症度などに応じて生活指導、増悪因子の是正、薬物治療、非薬物治療を組み合わせます。失神の起こる病態をよく理解してもらい、増悪因子(脱水、長時間の立位、アルコール多飲などをなるべく避けるようにし、めまい、吐き気、眼前暗黒感などの失神前駆症状が出現したら速やかに座位か横になるようにします。
チルト試験により血管迷走神経性失神と診断され病態についての理解が深まると、精神的ストレスが減少し、失神を回避する行動をとることが可能となります。これにより無投薬でも失神の再発を減らすことができます。弾性ストッキングにより下肢の血液貯留を抑制することや、高ナトリウム食摂取により循環血液量を増加させることが有効なことがあります。
失神の回避方法
失神の前兆を自覚した場合には、その場でしゃがみこんだり横になったりすることが最も効果的です。それ以外に、
- 立ったまま足を動かす
- 足を交差させて組ませる
- お腹を曲げてしゃがみ込ませる
- 両腕を組み引っぱりあう
などの体位あるいは等尺性運動によって数秒から1 分以内に血圧を上昇させ、失神発作を回避あるいは遅らせ、転倒による事故を予防することができる場合があります。
血管迷走神経性失神の生命予後は良好であると考えられていますが、失神の再発が問題です。チルト試験施行前の失神発作の回数が多く罹病期間が長い程再発の頻度が高いですが、一度チルト試験で失神が誘発されても、その後の経過中失神発作が再発せず自然治癒する例も多いと考えられ、治療を要する重症例を鑑別することが重要と考えられます。
参考文献: https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsma/71/6/71_530/_pdf
※このサイトは、地域医療に携わる町医者としての健康に関する情報の発信をおもな目的としています。
※写真の利用についてのお問い合わせは こちら をご覧ください。