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女性と心臓・血管の病気

Ⅳ、妊娠と高血圧

妊娠高血圧症候群

Dr.みやけ

妊娠中に起こりやすい体調不良の一つに、妊娠中高血圧症候群があります。

妊娠中の高血圧は危険な兆候であり、重症の場合は常位胎盤早期剥離や、胎児の発育不良・脳の障害がおこることもあるため、妊婦健診でも特に注意を払います。

妊娠に関連する高血圧の分類
1.妊娠高血圧 妊娠20週以降にはじめて高血圧(収縮期140mmHgもしくは拡張期90mmHg以上)が発症し、分娩後12週までに正常に復する場合
2.妊娠高血圧腎症 妊娠20週以降にはじめて高血圧(収縮期140mmHgもしくは拡張期90mmHg以上)が発症し、かつ蛋白尿(基本的には300mg/日以上)を伴うもので分娩後12週までに正常に復する場合
3.子癇 妊娠20週以降にはじめてけいれん発作を起こし、てんかんや二次性けいれんが否定されるもの、けいれん発作の起こった時期により、妊娠子癇、分娩子癇、産褥子癇と称する
4.加重型妊娠高血圧腎症 a)高血圧が妊娠前あるいは妊娠20週までにすでに認められ、妊娠20週以降蛋白尿を伴う場合
b)高血圧と蛋白尿が妊娠前あるいは妊娠20週までに存在し、妊娠20週以降、いずれか、または両症状が増悪する場合
c)蛋白尿のみを呈する腎疾患が妊娠前あるいは妊娠20週までに存在し、妊娠20週以降に高血圧が発症する場合

妊娠高血圧症候群における重症、軽傷の病型分類

血圧: 次のいずれかに該当する場合
・収縮期血圧 140mmHg以上、160mmHg未満の場合
・拡張期血圧 90mmHg以上、110mmHg未満の場合
蛋白尿: 300mg/日以上、2g/日未満

血圧: 次のいずれかに該当する場合
・収縮期血圧 160mmHg以上の場合
・拡張期血圧 110mmHg以上の場合
蛋白尿: 蛋白尿が2g/日以上のときは蛋白尿重症とする。なお、随時尿を用いた試験紙法による尿中蛋白の半定量は24時間蓄尿検体を用いた定量法との相関性が悪いため、蛋白尿の重症度の判定は24時間尿を用いた定量によることを原則とする。随時尿を用いた試験紙法による成績しか得られない場合は、複数回の新鮮尿検体で、連続して3+以上(300mg/dL以上)の陽性と判定されるときに蛋白尿重症とみなす

妊娠高血圧症候群の薬物治療は通常160/110mmHg以上で開始しますが、妊婦あるいは産褥女性に収縮期血圧180以上あるいは拡張期血圧120以上を認めた場合は「高血圧緊急症」と診断し、緊急に降圧治療を開始します(日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン2014」より)。

妊娠中の降圧薬
  第一選択薬 2剤併用
妊娠20週未満 メチルドパ
ヒドララジン
ラベタロール
メチルドパ + ヒドララジン
ラベタロール + ヒドララジン
妊娠20週以上 メチルドパ
ヒドララジン
ラベタロール
ニフェジピン
交感神経抑制薬(メチルドパ、ラベタロール)
+
血管拡張薬(ヒドララジン、徐放性ニフェジピン)

授乳が可能と考えられる降圧薬
  一般名 商品名
Ca拮抗薬 ニフェジピン
ニカルジピン塩酸塩
アムロジピンベシル塩酸
 
ジルチアゼム塩酸塩
アダラート
ペルジピン
ノルバスク
アムロジン
ヘルベッサー
αβ遮断薬 ラベタロール トランデート
β遮断薬 プロプラノロール塩酸塩 インデラル
中枢作動薬 メチルドパ アルドメット
血管拡張薬 ヒドララジン アプレゾリン
ACE阻害薬 カプトプリル
エナラプリルマレイン塩酸
カプトリル
レニベース

妊娠中は降圧薬の種類にも気をつけます。ニフェジピンは、20週以降の妊婦に対しすべての剤形で有益性投与となっていますが、長時間作用型の使用が基本となり、カプセル製剤の舌下は行いません。

妊娠の可能性のある女性と妊婦に対しては、ACE阻害薬、ARBのいずれも原則として投与しません。

産後高血圧

産後高血圧とは、正式には「産後高血圧症候群」と呼び、約10前までは一般的に「妊娠中毒症」と呼ばれていた症状を指します。産後高血圧症候群が起こる原因は、現在のところはっきりとは解明されていないのが現状です。

妊娠中の高血圧の原因はまだはっきりとはわかっていませんが、出産後には自然に落ち着いていきます。ところが出産後12週間を超えても、高血圧が続くことがあります。また妊娠中は正常な血圧値だったのが、産後から高血圧になることもあります。これらの症状は妊娠高血圧症候群とは区別して、「産後高血圧」と呼ばれています。「産後高血圧」の多くの例では、半年から一年後には血圧はほぼ正常に回復していきます。

産後高血圧の原因

「産後高血圧」の原因として、以下のようなものが考えられます。

妊娠中高血圧の回復が遅れている

妊娠中高血圧の症状が重かった場合、産後も回復が遅れ、高血圧の状態が続くことがあります。

過労やストレスによる自律神経の失調

育児の疲れや睡眠不足やストレスから自律神経が乱れ、高血圧を引き起こすことがあります。

本態性高血圧症

もともと高血圧の要因があったのが、出産を機に症状となって現れることがあります。過労やストレスのほかに、遺伝、アルコールや塩分の過剰摂取、肥満などの生活習慣にもかかわりがあります。

二次性高血圧症

まれに、他の病気が高血圧を引き起こしていることがあります。原因となっている病気の治療により完治する確率が高いため、正確な診断が重要です。原因となる病気には、腎臓の疾患や、副腎のホルモン分泌の異常、甲状腺機能異常、高カルシウム血症など、様々なものがあります。

産後高血圧の治療

重度な高血圧の場合は、降圧剤で血圧を下げる治療を行います。母乳をあげている間は、赤ちゃんへの影響を避けるため、限られた降圧剤しか使用しません。

軽度から中等度の産後高血圧では、塩分制限や睡眠を十分に取る、過労を避けるなどの生活習慣の改善が重要になります。降圧薬を使用しないで様子をみることも多いのですが、多くの例では半年くらいで自然に血圧は正常に回復します。

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