心臓・血管の話治療抵抗性高血圧2.降圧薬の種類 (2)ACE阻害薬とARB 

思うように下がらない高血圧、手に負えない高血圧「治療抵抗性高血圧」

2.降圧薬の種類

(2)ACE阻害薬とARB

アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)とアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)

ACE阻害薬とARBはレニン-アンジオテンシンという血圧や体液バランスを保つための重要な働きに関係した降圧薬です。カルシウム拮抗薬とともに降圧薬の中心となる薬です。

これらの薬剤の働きをよく知ってもらうために、レニン-アンジオテンシン系について少し詳しく説明する必要があります。

* やや詳しい説明 *

レニンーアンジオテンシン系は血液量の保持と、血圧を上げる働きにより血液の循環を正常に保とうとする調節機構です。腎臓の糸球体に流れ込む動脈の壁には傍糸球体装置と呼ばれる部所があり、血圧を感知して、レニンと呼ばれる物質を分泌します。圧力が低下するとレニンの分泌量は増加し、上昇すれば分泌量は低下します。 (図7)

【図4】アンジオテンシンⅡの生産経路と作用機構
図4アンジオテンシンⅡの生産経路と作用機構

レニンそのものには血圧を上げる作用はありません。レニンは血中のアンジオテンシノーゲンに作用し、アンジオテンシンI(AI)を遊離します。AIは血管内皮細胞膜にあるアンジオテンシン変換酵素(ACE)によりアンジオテンシンⅡ(AⅡ)に変換されます。

AⅡはレニン-アンジオテンシン系の重要な生体内因子で、AⅡがAT1受容体に結合することにより、AⅡは強力な血管収縮作用を発揮して血圧を上昇させます。また、AⅡは副腎にも作用してアルドステロンの生成・分泌を促進させ、血圧を上昇させます。血液循環量が増加したり、血圧が上昇するとレニンの分泌は抑制され、この系の働きが低下します。

AⅡ受容体にはいくつかのタイプがありますが、AT1受容体はAⅡの結合によって強力な血管収縮に伴う血圧上昇や、細胞増殖、線維化など直接臓器障害を起こします。 (図8)

【図8】レニン-アンジオテンシン系抑制薬の作用点
図8レニン-アンジオテンシン系抑制薬の作用点

pointレニンにより活性化されたアンジオテンシンⅡという物質には、強力な血圧上昇作用があるだけではなく、脳・心臓・腎臓・血管などの臓器を直接障害することが明らかになった。

レニン-アンジオテンシン系に関係した薬剤には、アンジオテンシンⅡ受容体阻害薬(ARB)、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)の二種類が代表的なものですが、これに加えてアルドステロン拮抗薬、レニン阻害薬などの薬もあります。これらの薬の特徴は血圧降下だけでなく、動脈硬化からの臓器保護作用が期待できることです。(図9)

【図9】ACE阻害薬とARBとの作用機序
図9ACE阻害薬とARBとの作用機序

アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)

ACE阻害薬はAⅡの産生を押さえて血圧を下げる薬です。また、血糖・尿酸・脂質代謝、あるいは電解質への影響が少なく、むしろよい効果を及ぼします。高血圧のほか、心不全や糖尿病性腎症の治療にも広く使用されるようになりました。

アンジオテンシン変換酵素を介さないAⅡ産生経路も存在するため、ACE阻害薬でAⅡの産生を完全にはブロックできません。ACE阻害薬の副作用として、あまり心配はいらないのですが、のどのいがいが感や空咳がかなりあります。

pointACE阻害薬は副作用として空咳が多いため、次に述べるARBに取って代わられつつあるのが現状である。

*商品名:カプトリル、レニベース、アデカット、タナトリル、コナン、エースコール、コバシル、ゼストリル、ロンゲス など

アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)

とくに日本でよく処方されるのがARBです。多少、作用機序は異なりますが、ACE阻害薬に近い働きで血圧を下げます。心臓の負担を軽くしたり、動脈硬化の予防、糖尿病の発症の抑制効果も期待できることが分かってきました。ACE阻害薬にみられる咳の副作用もなく、安全で使いやすい薬と言えるでしょう。ただ、ほかの降圧薬に比べてかなり割高で、経済的とは言えないかもしれません。

開発の経緯からすれば、ACE阻害薬はARBよりも早くに登場してきた兄貴分の降圧薬です。しかし、ARBは「咳のでないACE阻害薬?」と考えられがちで、最近は多用される傾向にあります。心疾患のある高血圧にはACE阻害薬のほうが効果的だと考える専門家もいます。

pointARBはカルシウム拮抗薬に比べると降圧効果はやや劣るが、単独で使用されるだけでなく、カルシウム拮抗薬に次ぐ2剤目の併用薬として選択されることが多い。臓器保護作用や動脈硬化予防効果が強く期待できる、すぐれた降圧薬である。

商品名:ブロブレス、ディオバン、ニューロタン、オルメテック、ミカルディス、イルベタン、アバプロ

アルドステロン拮抗薬

アルドステロン拮抗薬として古くからアルダクトンが使用されてきましたが、利尿剤の併用薬として使用されることが多く、降圧薬としての位置づけはあいまいでした。さらに性ホルモン受容体にも結合して、女性化乳房、乳房痛、不正性器出血などの副作用が起きやすいことが問題になってきました。

性ホルモン受容体に結合しない選択的アルドステロン拮抗薬が開発され、一連の副作用の軽減が期待されています。この薬の降圧薬としての位置づけも、これから検討されるはずです。

今回のテーマである「なかなか下がらない高血圧」または「治療抵抗性高血圧」の選択薬の一つとして、このアルドステロン拮抗薬がカルシウム拮抗薬、ARB、利尿剤につぐ4剤目の薬剤として海外では推奨されています。このことについては、後で詳しく述べることにします。

pointアルドステロン拮抗薬は「治療抵抗性高血圧」の選択薬として注目されている。

*商品名:アルダクトン、セララ

レニン阻害薬

一番新しい降圧薬で、レニンという腎臓から産生される昇圧に関係した物質をおさえる作用を持ちます。レニンは高血圧にかかわるレニン-アンジオテンシン系(RA系)の基点となる物質です。これが抑制されるとRA系で産生され右アンジオテンシンという昇圧物質が減少し、血圧低下につながります。効果はACE阻害薬やARBに似ており、一日1回の服用で血圧管理が可能です。単独で用いられる他、降圧効果の増強のため他の降圧薬との併用も行われます。食事の影響を受けやすいので、食後と決めたら毎日同じ条件で服用しなければいけません。

pointレニン阻害薬はこれからの薬であるが、降圧効果はややマイルドである。

*商品名:ラジレス

治療抵抗性高血圧:目次へ

※このサイトは、地域医療に携わる町医者としての健康に関する情報の発信をおもな目的としています。

※写真の利用についてのお問い合わせは こちら をご覧ください。

心臓・血管の話

■治療抵抗性高血圧

  1. はじめに
  2. 降圧薬の種類
    1. カルシウム拮抗薬
    2. ACE阻害薬とARB
    3. アルファ遮断薬(α遮断薬),ベータ遮断薬(β遮断薬),アルファベータ遮断薬(αβ遮断薬)
    4. 利尿剤
  3. 高血圧の自覚症状について
  4. 高血圧治療におけるコントロール不良と治療抵抗性の要因降圧薬の種類
  5. 診察室でもっとも多い「なかなか下がらない高血圧」
  6. まず少量の降圧利尿薬の追加
  7. 治療抵抗性の切り札は「アルドステロン拮抗薬」
  8. 慢性腎臓病(CKD)と治療抵抗性高血圧
  9. 血圧の変動性
  10. ベータ遮断薬に期待される役割とは?

誰でも分かる「簡単な心電図の読み方」

分かりやすい動脈硬化

心房細動について


 上に戻る