それでは利尿薬を追加しても、まだ降圧できない治療抵抗性の場合にはどうすればよいのでしょうか?
ガイドライン2009には4剤目の選択薬を明示していませんが、治療抵抗性の場合の主な対応策がまとめられています。ここで注目すべきは、「アルドステロン拮抗薬の追加」です。
アルドステロン拮抗薬は、アルドステロンがその受容体であるミネラルコルチコイド受容体(MR)と結合するのをブロックし、降圧効果を発揮します。英国の高血圧治療ガイドラインでは、治療抵抗性高血圧の第4次薬としてアルドステロン拮抗薬であるスピロノラクトン(商品名アルダクトンA)を推奨しています。
こうした背景には、原発性アルドステロン症だけでなく、本態性高血圧の患者においても、アルドステロン拮抗薬(スピロノラクトン)で降圧効果が見られたとする論文が報告されるようになったことにあります。
* やや詳しい説明 *
原発性アルドステロン症とは?
副腎皮質ステロイドホルモンの一つ、アルドステロンの分泌が過剰になるために起こる病気です。アルドステロンは腎臓に作用し、体のなかにナトリウムと水分を蓄えるために高血圧になります。
また、尿のなかにカリウムを排泄する作用をもつため、このホルモンが過剰になると血液中のカリウムが減り、筋力が低下したりします。もともとまれな病気と思われていましたが、最近、検査法の進歩に伴い、高血圧症の患者さんの1%以上がこの疾患かもしれないといわれています。
また、アルドステロン症と全く同じ症状を示すにもかかわらず、アルドステロンの分泌過剰がない偽性アルドステロン症という病気もあります。これは多くの場合、甘草(かんぞう)を含む漢方薬が原因になっています。
血液検査でみられる低カリウム血症は、原発性アルドステロン症に現れやすい症状の一つで、筋力の低下による四肢の脱力や易疲労感(疲れやすい)などの症状を引き起こします。アルドステロンの分泌過剰を確かめるため、血液中、尿中のホルモンを測定します。
アルドステロンは、腎臓から分泌されるレニンというホルモンによって調節されています。この病気のように、副腎から勝手にアルドステロンが出てくると、レニンはその働きをひかえます。そこで、診断のためには血漿レニン活性が抑制されていることを確認します。
肥満でアルドステロン過剰に
原発性アルドステロン症でなくてもアルドステロンが過剰傾向になり、アルドステロン拮抗薬が奏功する高血圧には、肥満が関与していることが多いと言われています。海外の調査などでメタボリックシンドローム患者の血漿アルドステロン濃度が高値であることが明らかになるなど、肥満とアルドステロン分泌過剰との関与が注目されています。
アルドステロンはレニン・アンジオテンシン系の最終産物で強い昇圧作用を有する物質ですが、この系とは別に、アルドステロン産生の刺激因子が脂肪細胞から直接放出されて、肥満でアルドステロンの分泌が過剰になっているとの説もあります。
しかし、治療抵抗性高血圧のアルドステロンを測定しても必ずしも高値でないことから、専門家は、「アルドステロン濃度が正常であっても、受容体であるミネラルコルチコイド受容体(MR)の作用が活性化されていて、その結果高血圧になっている可能性も考えられる」と指摘しています。
さらに、「高コルチゾール血症や肥満などの要因によってミネラルコルチコイド受容体(MR)の感受性が亢進し、アルドステロンの作用が増強されるのではないか」と推測しています。
* やや詳しい説明 *
アルドステロンが高値を示す病態として原発性アルドステロン症を忘れてはなりません。原発性アルドステロン症ではアルドステロン高値、レニン活性の低下、血清カリウムの低下が重要な所見です。
レニン活性の低下は重要な所見ですが、すでにアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)やサイアザイド系利尿剤が投与されている場合には、レニン活性が上昇するため、原発性アルドステロン症が見逃される可能性があります。
治療抵抗性高血圧で、アルドステロン拮抗薬が著しく降圧効果を示すときには、原発性アルドステロン症ではないかもう一度詳しく調べる必要があります。
「アルドステロン拮抗薬が治療抵抗性高血圧に対する切り札」という専門家の意見は、日本の高血圧専門医の間ではコンセンサスとなりつつあります。
2010年12月現在、日本で使用できるアルドステロン拮抗薬は、スピロノラクトン(商品名アルダクトンA)とエプレレノン(商品名セララ)の二つです。エプレレノンはミネラルコルチコイド受容体(MR)だけを選択的にブロックします。このため、スピロノラクトン投与で見られる、性ホルモン作用の抑制に伴う女性化乳房(男性で乳房が大きくなる現象)などの副作用が少なくなっています。
ただし、どちらもカリウム保持性利尿薬なので、投与の際には高カリウム血症に注意が必要です。とくに、レニン・アンジオテンシン系抑制薬との併用ではカリウムが上がりやすいので注意が必要です。
pointアルドステロン拮抗薬を使用するときには高カリウム血症に注意する。利尿薬を併用していれば、利尿薬のカリウム排泄作用によりカリウム上昇を相殺できるメリットがある。
レニン・アンジオテンシン系抑制薬の効果が不十分の場合には、レニン・アンジオテンシン系抑制薬を中止して、アルドステロン拮抗薬に切り替えることが望ましい。
エプレレノン(商品名セララ)の早期投与も
エプレレノン(商品名セララ)は血清カリウム値が5.0mEq/L以上、微量アルブミン尿またはタンパク尿を伴う糖尿病患者、中等度以上の腎機能障害(クレアチニンクリアランス50mL/分未満)の患者では禁忌となっています。
専門家の中には、糖代謝異常や合併症などを起こし、治療抵抗性になる前の早めの段階から使用すべきとの考えから、第2次薬としてエプレレノン(商品名セララ)を使用するという考え方もあります。使用する際には腎機能に注意し、血清カリウム値を定期的に調べる必要があります。
なお、エプレレノン(商品名セララ)については、大規模試験などのエビデンスがまだ十分に集積されていません。今後、日本人を対象としたエビデンスの集積が急がれますが、最終的には高血圧治療の真の目的である心血管イベント(脳卒中や心臓病)抑制効果についてのエビデンスが重要です。
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