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それぞれの慢性頭痛の特徴 I)片頭痛とは(2)

片頭痛の薬物治療

片頭痛は国際頭痛学会の分類では6つのサブタイプに分類されますが、大きくは前兆のあるものとないものに分類されます。前兆は頭痛に先行するかまたは随伴する脳局所症状を呈するものです。日常の診療でよく見かけるものは、「前兆のない片頭痛」と閃輝暗点(せんきあんてん)などの視覚性前兆を伴う「典型的前兆に片頭痛を伴うもの」です。

脈打つような拍動性の痛みから持続性へ

片頭痛では特徴的な時間経過を示すことが多くみられます。特に「典型的前兆に片頭痛を伴うもの」では予兆期、前兆期、頭痛期、頭痛消退期および回復期と呼ばれる時間経過をとります。

予兆は片頭痛発作の前に起こるさまざまな体調の変化を示すもので、あくび、過睡眠、疲労感、集中困難、思考緩慢、頚部のこりなどがあります。片頭痛発作の数時間から1日または2日前に出現することが多いようです。

前兆は予兆と異なり、脳の一過性の局所巣症状と定義されます。前兆は「通常5~20分にわたり徐々に進展し、かつ持続時間が60分未満の可逆性局在神経症状」とされます。頭痛の起こる直前または発作中に出現します。前兆の主なものとしては、視覚症状、感覚症状、言語症状および運動症状があります。「典型的前兆に片頭痛を伴うもの」では前兆として、視覚症状、感覚症状、言語症状のみを示します。前兆として運動症状が出現する症例は、片麻痺性片頭痛と診断します。閃輝暗点は片頭痛における視覚性前兆であり、多くの症例で認められます。通常はこの前兆が終了するころから片頭痛発作が出現します。

片頭痛における頭痛は片側のこめかみから眼周囲が多いとされます。痛み方は脈打つような「ズキズキ」する感じと表現されることが多いです。ひどくなると頭全体に広がり、拍動性の痛みから持続性の痛みとなります。頭痛の程度としては「日常生活がとても続けられない」程の強さで、ひどいと寝込んでしまうこともあります。片頭痛発作中は悪心や嘔吐を伴うほかに光過敏および音過敏を認めることも多くあります。また「階段の昇降など日常的な動作により頭痛が増悪する」というのも片頭痛の重要な特徴です。大部分の患者では頭痛は徐々に消失します。片頭痛発作が終了しても、気分の変化、筋力低下、疲労感、食欲低下などを訴える症例も多く、この時期を後兆期と呼ぶこともあります。

片頭痛発作はこのような時間経過を示しますが、その診断には問診が重要となります。問診を進めるにあたっては、頭痛の部位や性状、持続時間、発作頻度および随伴症状の有無などを確認するのが効率的です。また、二次性頭痛を除外することも重要です。そのため、神経学的診察や血液検査および頭部CTやMRIなどの画像検査を行います。

トリプタンは起きてすぐに服用すると効果(図1)

(図1)発作の経過と治療薬の効果
(図1)発作の経過と治療薬の効果

片頭痛の薬物療法は急性期治療と予防療法に分類されます。

急性期治療は片頭痛発作を確実に速やかに消失させ、片頭痛患者の機能を回復させることを目的に行われるものです。片頭痛急性期治療薬として、アセトアミノフェン、非ステロイド系消炎鎮痛薬(NSAIDs)、エルゴタミン製剤、トリプタンおよび制吐薬が挙げられます。軽度~中等度の頭痛にはアスピリンやナプロキセンなどのNSAIDsの使用、中等度~重度の頭痛、または軽度~中等度の頭痛でも過去にNSAIDsで効果が認められなかった症例ではトリプタンが推奨されており、いずれの場合も制吐薬の併用で効果の増強が認められています。

*「慢性頭痛の診療ガイドライン2013」を以下では「ガイドライン」と表します。

1)アセトアミノフエン

軽度~中等度の片頭痛発作に対しては効果を示しますが、NSAIDsに比べて効果が少ないことから、ドンペリドンなどの制吐薬との併用投与が勤められています。ガイドラインではグレードA(行うよう強く勧められる)にランクされています。

2)非ステロイド系消炎鎮痛薬(NSAIDs)

軽度~中等度の片頭痛に対し、痛みおよび随伴症状を有意に改善させることから、ガイドラインでは、軽度~中等度の片頭痛の第一選択薬とされ、グレードAにランクされています。なおトリプタンと同様に発作の早期に服用しないと効果があまり認められていません。

3)工ルゴタミン製剤

ガイドラインによれば、トリプタンの使用で片頭痛発作が一時的に改善しても24~72時間以内に再度頭痛再燃が見られる患者には使用価値があるとされて推奨のグレードとしてグレードB(行うよう勧められる)にランクされています。また妊娠中・授乳中の使用は禁忌です。

4)制吐薬

片頭痛の随伴症状である悪心・嘔吐に効果があり、投与経路も経口・静注・筋注・座薬など選択肢が多く、副作用も少ないことから積極的な併用がガイドラインでは勧められています。

5)トリプタン

トリプタンはガイドラインにおいて、片頭痛発作急性期の有効な治療薬としてグレードAに位置付けられています。わが国での処方可能なトリプタンはスマトリプタン、ゾルミトリプタン、エレトリプタン、リザトリプタンおよびナラトリプタンの5種類です。トリプタンは服用のタイミングが重要で前兆期に服用しても効果がなく、頭痛が起き始めた時に使用すると効果があります。また、頭痛がかなり強くなってから服用しても効果はありません。このため服用のタイミングをきちんと患者に指導することが大切です。なお「片麻痺性片頭痛」および「脳底型片頭痛」などの片頭痛ではトリプタンは禁忌となっています。

  1. スマトリプタン(商品名 イミグラン)
    半減期が約2時間と短いため、服用後2時間で効果が不十分な時はさらにもう1錠(50mg)の追加が可能となります。経口による吸収率が低いため、皮下注射薬のキット(自己注射可能)および点鼻薬も開発されています。
  2. ゾルミトリプタン(商品名 ゾーミッグ)
    スマトリプタンに比べて経口投与による吸収率が上昇し脂溶性も改善されています。経口薬に加え口腔内速溶錠(商品名 ゾーミッグRM錠2.5mg)も開発されています。効果出現時間はスマトリプタンよりやや遅いが、効果の持続時間は長いとされます。
  3. 工レトリプタン(商品名 レルパックス)
    最高血漿中濃度到達時間(Tmax)が1~1.2時間と速やかで半減期も3.2~3.9時間と長いため、即効性とトリプタン内服後の再発率の低下が期待される薬剤です。
  4. リザトリプタン(商品名 マクサルト)
    頭痛発作期におけるトリプタンのTmaxは頭痛発作間欠期に比べ長いのに対し、リザトリプタンは頭痛発作期および間欠期ともに1時間と変わらないことが特徴の一つとされています。
  5. ナラトリプタン(商品名 アマージ)
    半減期が約5時間と長く、血中濃度の持続性のあることから、トリプタン内服2時間後くらいに片頭痛発作の再発を認める症例にも有効と考えられています。しかしTmaxが約2.7時間と即効性に欠ける点があります。

予防療法

片頭痛予防療法は、急性期治療だけでは、片頭痛による生活上の支障を十分に改善できない場合に行われます。片頭痛の予防療法に使用される薬剤として、カルシウム拮抗薬(ロメリジン)、β遮断薬(プロプラノロール)、抗うつ薬(アミトリプチリン)、抗てんかん薬(パルプロ酸、ガバペンチン、トピラマート)などがあります。

なお、日本での片頭痛予防薬として保険適応になっているのは、ロメリジン、パルプロ酸、プロプラノロール、ジヒドロエルゴタミンであり、ベラパミル、アミトリプチリンは2013年3月の時点で適応外使用となっています。

  1. カルシウム拮抗薬
    「ガイドライン」においてロメリジン10mg/日の使用はグレードBにランクされています。
  2. β遮断薬 
    プロプラノロール20mg/日から開始し、20~60mg/日の用量で経過観察を行う治療法が「ガイドライン」でグレードAに位置付けられています。
  3. 抗てんかん薬 
    片頭痛患者における大脳皮質神経細胞の過剰興奮性を抑制することで、片頭痛予防効果を示すのではないかと考えられています。「ガイドライン」ではパルプロ酸400mg/日の内服はグレードAに位置付けられています。このほかトピラマートも片頭痛予防効果を有することが知られています。
  4. 抗うつ薬 
    三環系抗うつ薬であるアミトリプチリンは片頭痛発作予防効果を持ちます。「ガイドライン」ではアミトリプチリン(10~60mg/日)がグレードAに位置付けられています。
  5. その他 
    アンジオテンシン変換酵素阻害薬であるリシノプリルおよびアンジオテンシンⅡ受容体遮断薬であるカンデサルタンは片頭痛の予防に有効との報告があり、「ガイドライン」ではグレードBに位置付けられています。

慢性化すると難治性で確立した治療がない

「片頭痛の慢性化」とは簡単に説明すれば、「1カ月に15日またはそれ以上頭痛を認める」ことであり、しばしば片頭痛の「変容」とも呼ばれます。片頭痛はその時間経過により、自然消失するタイプ、発作の頻度および程度が安定し変化を認めないタイプおよび増悪するタイプの三つに分類されます。これらの中で慢性化は「増悪するタイプ」に属するものです。

変容性片頭痛は、慢性連日性頭痛という概念に含まれるものです。慢性連日性頭痛は3ヶ月を超えて1日4時日以上の頭痛が月15日以上(1年間に180日以上)出現する頭痛で、①変容性片頭痛、②慢性緊張型頭痛、③持続性片側頭痛、④新規発症持続性連日性頭痛の四つに分類されている。

この中で、片頭痛の慢性化に関係する変容性片頭痛は10~20代に発症した前兆のない片頭痛において、発作頻度の増加に伴い、片頭痛の特徴とされる光・音過敏や悪心・嘔吐などが減少し、拍動性の要素はあるがその他は緊張型頭痛に類似した性質の頭痛が頻回に認められるようになったものを示します。しかし、片頭痛が変化した詳細な過程を述べられる患者に限ることや、薬物乱用による変化との区別がつきにくいなどの理由から、変容性片頭痛との診断名はつけられず慢性片頭痛とされます。

慢性片頭痛は非常に難治性であり、確立された治療はありません。片頭痛が慢性化する詳細な機序については明らかにされていませんが、慢性化を促進する因子として頭痛発作回数の増加、薬物乱用、カフェイン乱用、肥満およびいびきなどが挙げられています。このため、片頭痛の治療にあたり、予防薬を併用し、鎮痛薬やトリプタンの頻用を避けながら、片頭痛発作回数の増加をコントロールしていくことを心がけることが大切です。

参考文献
1.Medical  ASAHI  2013 December「特集 頭痛診療のフロンティア」 P19 -21  
2.医学書院「慢性頭痛の診療ガイドライン2013」監修:日本神経学会・日本頭痛学会
編集:慢性頭痛の診療ガイドライン作成委員会

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