めまいはどの年齢層にも広くみられ、診察に訪れる方も多い症状です。
めまいには大きく分けると2種類があります。
夜中や早朝に起き上がろうとして急にぐるぐると体や天井が回ってくる「ぐるぐるめまい(回転性めまい)」と、歩いていてもふわふわ・ふらふらと感じる「ふわふわめまい(ふらふらまい)」です(図1)。
ぐるぐるめまいはおう吐を伴い、たいへん怖く感じるものです。一方、ふわふわめまいも頭重感を伴ってなかなか治りにくいために、脳梗塞や脳出血を起こしはしないかとたいへん不安感が強くなります。
ぐるぐるめまい(回転性めまい)
ぐるぐるめまいは、年齢にかかわらず女性に多くみられます。ぐるぐるめまいは回転性めまいとも表現され、起き上がることも横になって頭の向きを変えることも激しいめまいのために困難です。しばしばおう吐を伴います。
ぐるぐるめまい(回転性めまい)の多くは耳の三半規管に原因するめまいですが、まれながら小脳や脳幹部などの脳由来の回転性めまいもみられます。(図2)
耳からのめまい
耳由来の回転性めまいは、健康な人でもぐるぐる体を回してみるとしばらくの間、体が揺れるように感じるめまいと似ています。どちらも耳の三半規管が刺激されるために起こるめまいといえます。
ふつうよく見られる回転性めまいは、疲れや睡眠不足、ストレスが原因で三半規管が過敏になり、体をぐるぐる回さなくても起こってくるめまいといえるでしょう。
耳由来のめまいでも難聴や激しい耳鳴りを伴う場合には、メニエール病や突発性難聴など耳の病気に由来することが多く、ぐるぐるめまい(回転性めまい)に難聴や耳閉感(耳がつまったように感じること)、耳鳴りなどが伴う場合には耳鼻咽喉科の診察が必要になります。
しかし多くの場合には、ぐるぐるめまいだけで他の耳に関する症状がみられないことがほとんどです。これらのめまいの多くは、「良性頭位変換性めまい」といわれるもので、自然に良くなっていくめまいです。
脳からのめまい
めまいが起こると多くの人が、脳梗塞や脳出血を心配されて受診されます。しかしこれらの脳疾患(脳梗塞、脳出血、脳腫瘍など)に由来するめまいは、めまいの他に頭痛や神経症状(顔面神経麻痺や手足の運動麻痺など)を伴っていることが多く、また数日で軽快することはなく、長期間持続するため診断に困ることはほとんどありません。
最近では脳CTや脳MRIを比較的簡単に撮影することができるため、少しでも脳疾患の疑いがあるときには検査で明らかにすることができます。言いかえれば、めまいの他に頭痛や神経症状がみられるときには、即座に検査を行う必要があります。
ふわふわめまい・頭重感
ふらふらとしためまい感や頭重感は同時に生じることが多く、広い範囲の年齢層にわたってみられます。その原因をなかなか明確にすることはできませんが、年齢層によって原因を分けることができそうです。(表1)
(表1) ふらふら・頭重感はどうして起こるの? | |
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1)30~50才位 | 筋肉のこり ⇒ 首筋・後頭部の血流障害 |
2)50才前後 | 更年期障害・ストレス・睡眠不足 ⇒ 自律神経のバランスのくずれ |
3)60才位~ | 高齢者 ⇒ 椎骨脳底動脈循環不全 |
ふわふわまたはふらふらとしためまいは、雲の上を歩くような感じや船酔い(車酔い)したような感じで、まっすぐに歩きにくく、どちらかに寄ってしまうような歩き方になります。
首筋や後頭部の重い感じを伴うために、脳梗塞や脳出血を起こしはしないかと不安感が強くなり受診されます。
1)筋緊張(こり)によるふわふわ感(図3)
30~50歳代までの比較的若い年齢層のふわふわ・頭重感の原因の多くは、肩こりなどの筋肉の緊張が原因ではないかと考えられます。
肩こりが強くなると、首筋や後頭部、頭の筋肉も緊張してきます。筋肉の緊張は血流障害を引き起こし、ふわふわした感じや頭重感を生じやすくなります。
筋肉の血流障害は頭蓋骨の外の血流障害であり、脳そのものの血流障害ではないことに注意すべきです。このために脳梗塞などの原因になることはありません。
2)自律神経障害によるふわふわ感(図4)
さらに更年期前後(50歳前後)になると、自律神経のバランスのくずれから生じるふらふら・頭重感が多くなるようです。
自律神経のバランスのくずれは、ストレスや睡眠不足、更年期障害などから生じることが多く、このめまいはちょうど船酔いに似たふわふわ感を生じてきます。男性にもみられますが、やはり女性に多い印象があります。
実際には肩こりによるめまいと自律神経のバランスのくずれからくるめまいが、さまざまな程度に組み合わさって、「ふわふわ感・頭重感」が起こってくることが多いと思われます。
倒れはしないかという不安感、とくに身近に脳卒中(脳梗塞、脳出血)で倒れた人がいると自分も同じようにならないかという不安感から、よけいにふわふわ感が強くなる人もみられます。このようになると心身症的なアプローチが治療に必要になることもあります。
3)動脈硬化によるふわふわ感
さて年齢がさらに上がり、60~70歳代になるとさらに複雑になってきます。それまでの年代のふわふわ感は比較的女性が多かったのに対して、高齢者のふわふわ感は男性のほうが多くなってきます。高齢者のふわふわ感は、動脈硬化により椎骨・脳底動脈という頸椎から出て脳幹部、小脳に血液を供給する動脈の循環不全が起こりやすくなるからです。
めまいや意識に関係が深い脳は延髄などの脳幹部や小脳といわれる部分で、部位的には首筋から後頭部に位置しています。なんらかの原因でこの部位に血流不全が生じると、一時的に意識を失いかけます。このような感じがふーとするめまいとして感じられることもあり、高齢者では注意すべきです。
中・高年者の立ちくらみ、一時的なふーとするめまい、ふわふわ感は表現の違いはあっても一過性の椎骨・脳底動脈循環不全症が原因のことがあり、常に脳梗塞の予防を頭に置きながら治療を行うべきでしょう。
4)鎖骨下盗血現象
まれなめまいの原因として、左鎖骨下動脈の起始部に動脈硬化性の細くなった部分があると、左腕を伸ばしたり上げたりしたときに、一時的にふーとするめまいを起こすことがあります。
これを鎖骨下盗血現象といい、動脈硬化による血流障害が原因のめまいです。左腕の一定の動作で起こるめまいの時には、鎖骨下盗血現象によるめまいを考えなければなりません。
こんなめまいのときは要注意
実際の診察室でみられるめまいの多くは、一時的な心配のいらないものです。しかし中には(1)耳の病気で起こるもの、(2)脳・頸椎の病気で起こるもの が含まれることがあり注意が必要です。どんなときに病気が疑われるか簡単にまとめてみましょう。
1)耳の病気で起こるめまい
ぐるぐるめまい(回転性めまい)の多くは耳が原因で起こるものですが、めまいの他に耳鳴り、難聴、耳がつまるような感じ(耳閉感)など耳の症状があるときには、突発性難聴やメニエール病などが原因のこともあります。耳鼻咽喉科の受診が必要です。
ぐるぐるめまいだけで他の耳の症状がないときには、しばらく様子をみることができます。おう吐はめまい反射で起こるもので、診断にはそれほど重要ではありません(船酔いでめまいとおう吐が起こるのと同じです)。このような場合、ほとんどは「良性頭位変換性めまい(BPPV)」といわれるめまいで、日がたつと自然に治っていきます。しかし、このめまいは人によってはしばしば繰り返すことがありやっかいです。
ストレスや睡眠不足、疲労が原因で起こることが多いために、これらの誘因を避けるようにしましょう。
2)脳・頸椎の病気で起こるめまい
ぐるぐるめまいでもふわふわめまいの形でも起こることがあります。脳の病気としては、脳梗塞や脳出血、くも膜下出血、脳腫瘍などが考えられますが、それほど頻度の多いものではありません。
激しい頭痛・おう吐・めまいは小脳や脳幹部の出血のことがあります。また、他の神経麻痺(顔面神経麻痺、手足の運動麻痺)を伴う場合には、脳梗塞や脳出血、脳腫瘍などの恐れがあります。
上を向いたり首を曲げたりして起こるめまいは、頸椎の変形が原因のことがあります。これは頸椎の変形があると、首の運動によって血管や神経が一時的に圧迫されるためです。頸椎の変形が原因の時には、程度に差はあっても、どちらかの腕にしびれや筋力の低下がみられることがあります。また、左腕の一定の動作で起こるめまいは左鎖骨下動脈の動脈硬化の疑いがあります。
高齢者の立ちくらみやふわふわめまいは、椎骨・脳底動脈循環不全症という動脈硬化性のめまいの可能性が高くなります。最近は脳MRAによる脳血管の病気の診断が可能になってきました。椎骨・脳底動脈循環不全症がすぐに脳梗塞につながるものではありませんが、血栓の予防をしながら根気よく血流を改善させるための治療を行う必要があります。
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