60~70歳以上の比較的高齢の人が、朝起きた時に突然くびが痛みのため回らなくなったとき、まず第一に頸椎偽痛風を疑います。
老人の急な寝ちがえ ⇒ 頸椎偽痛風を疑う!
女性に多いとされ、ご本人は「寝ちがえ」と考えて受診されることが多いです。老人の急なくびの寝ちがえは、「頸椎偽痛風」を疑うことが大切です。
頸椎偽痛風は比較的まれとされますが、老人の急なくびの寝ちがえ → 頸椎偽痛風を疑う → 整形外科で頸椎CTを撮影する という流れで診察すると、内科診療所でもしばしば遭遇する疾患と言えます。高齢社会の今、くびから肩にかけての痛みの診断に、「頸椎偽痛風」は「リウマチ性多発筋痛症」とともに忘れてはならないものです。
偽痛風とは
偽痛風というのはピロリン酸カルシウムの沈着が引き起こす関節炎で、くび以外にも、膝や足部に起こることが多いとされています。ピロリン酸が組織に沈着すると、急性発症の強い炎症が起こるため、激しい痛み、くびの可動域制限(特に回旋:首を回す運動)、発熱などの症状が出現します。
血液検査を行うと、白血球、CRPの増加、血沈亢進などの炎症所見を認めるのが一般的です。診断はCTで、軸椎(くびの2番めの骨)の歯状突起の周囲に、石灰沈着を証明できればほぼ確定します。CTでは、軸椎歯状突起の王冠をかぶったような特徴的な石灰化がみられることから「Crowned dens症候群」とも呼ばれます。
治療として、消炎鎮痛剤の内服、ステロイドの内服(細菌感染が否定できた場合のみ)、安静といった方法が一般的で、約2週間程度で軽快することが多いとされています。時に再発することが報告されていますが、一般的に予後は良い疾患と考えられています。
偽痛風とよく似た、石灰沈着性頸長筋腱炎
頸椎の環軸に起こる偽痛風とよく似た疾患に、石灰沈着性頸長筋腱炎があります。頸椎偽痛風との違いは、30~60歳代の若い年齢層に起こりやすいことと嚥下困難や嚥下痛を伴う点です。
石灰沈着性頸長筋腱炎の特徴は次の通りです。
- 頸部の頸長筋膜へのカルシウム塩(ハイドロキシアパタイト)の沈着によって生じる結晶誘発性の急性炎症
- 発症前に上気道感染や頭頸部の軽微な外傷の既往がみられることがある
- 30~60歳代に多い
- 後頚部痛、頸部運動制限(とくに回旋)、嚥下困難を3徴とし、発熱も認める
- 後咽頭腔への炎症の波及により、嚥下時痛や咽頭痛も認める
- X線写真、頭部単純CTで第1~2頸椎前面の頸長筋腱付着部に石灰化、第1~4(時に第6)頸椎前面の軟部組織(後咽頭腔)に腫脹、浮腫性変化による低吸収域(造影効果はない)
- 血液検査で白血球上昇、炎症反応上昇を認める
- 予後は良好で、頸部固定による局所の安静、消炎鎮痛薬の内服で1~2週間で改善する。症状が強い場合にはステロイドを使用する
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