しつこい咳が続く感染症の百日咳。
かつては子どもの病気と思われていましたが、流行形態も変化し、患者の2/3が16歳以上という調査結果もあります。
おとなの百日咳の症状と診断
百日咳は患者の咳などのしぶきに含まれる菌を吸入することで感染し、1週間から10日の潜伏期間を経て発症します。最初はかぜのような症状で、次第にけいれん性の咳が起こるようになります。
息を吸い込むときに「ヒュー」という音が出たり、夜間に咳の発作が起きたりするのが特徴です。しかし、大人の場合には咳が長引きますが、子どものような特徴的な症状は少なく、診断が困難です。
最近、小児科からの百日咳の報告は増加傾向にありますが、大人の流行が中心となり、その影響で免疫を持たない乳幼児の患者が増えている可能性が高いと考えられています。
百日咳は早春から夏に多くみられますが、秋にも多いという報告もあり、季節性はあまりはっきりしていません。したがって、冬にも発症します。年長児や思春期、成人の百日咳の増加の原因としては、ワクチン接種後の抗体価の低下が上げられています。
接種後3~5年で抗体価の減少が始まり、10~12年で予防効果が失われるとされています。したがって、抗体価の低下する年齢では、百日咳にかかる危険性が高くなります。
さらに、ワクチン接種者が百日咳に感染した場合、症状が典型的でなく、そのため診断に苦慮し適切な治療がなされないことが多くあります。
大人の百日咳は、子どものような特徴は少なく、かぜとの鑑別が困難です。血液検査でも子どものようなリンパ球の増加もみられません。抗体価の測定が大切ですが、結果が出るまでに時間がかかります。
百日咳の診断では、ペア血清で抗体価の大きな変動があれば診断が可能ですが、2週間から4週間の間隔で2回検査をして比較する必要があります。1回だけの採血で抗体価を測定した場合は、絶対ではありませんが160倍以上の抗体価の上昇があれば、症状とあわせて百日咳の疑いが強いと判断できます。
咳が長く続くという以外に特徴的な症状の少ない大人の百日咳ですが、家族内や職場内で咳をしている人の割合が、かぜに比べて多かったという報告があります。したがって、咳をしている家族や職場の同僚がいれば、百日咳の可能性も考えて検査や治療を受ける必要があります。
成人の百日咳では、一般的に咳が4週間を超えて続いている場合もあり、このような場合では百日咳菌は消失しているため抗菌薬の効果は期待できません。しかし、臨床的にはこの長く続く咳は、マクロライド系の抗菌薬の投与で軽快することが多いようですが、機序についてははっきりしていません。
大人の百日咳は治療により軽快し、重症化することはありません。しかし診断が遅れると、乳幼児の感染源となり、ワクチン未接種の乳児に感染した場合には重篤になりやすいため、大人では速やかな診断が重要になってきますが、絶対的な診断方法がないのが現状です。
大人の百日咳の感染を予防するために、ワクチンによる抗体価が低下する時期に再度追加ワクチンを打つことが感染予防に役立つと考えられます。
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