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学童と大人のための食物アレルギーQandA

1.食物アレルギーについて Q10

質問Q10:子どもの時にはなかったのに、大人になってから食物アレルギーが起こることがあるのはどうしてですか?

答えA10:乳幼児の食物アレルギーはアトピー性皮膚炎などのアレルギー症状の原因となりますが、成長につれて自然緩解(アウトグロー)していきます。一方では、いろいろなアレルギー疾患に順番にかかっていくことがあります。これを行進にたとえてアレルギーマーチと呼ぶことがあります(詳しくはQandA7をご覧下さい)。

学童や大人の食物アレルギーが、こうしたアレルギーマーチの結果出現してきたと考えることは可能ですが、実際にはもっと複雑で正確な機序を明らかにすることは困難を伴います。

花粉症があると、ある果物や野菜を食べると、口や唇、のどなどの口腔粘膜やその周辺にイガイガ感などのアレルギーを起こすことが知られていて口腔アレルギー症候群(OAS)と呼ばれます。
これは、花粉症の原因物質と似た物質が特定の果物や野菜に含まれているためです(交叉抗原性)。口腔アレルギー症候群もひどくなると、アナフィラキシーを起こすことがあります。

また、果物や野菜の中にはもともと薬理活性を持つ物質(ヒスタミン、セロトニン、アセチルコリンなど)が含まれているものがあります。こうした食物は免疫反応を介さずにアレルギーに似た反応を起こすことがあります。これを仮性アレルギーといいますが、食物アレルギーと誤解されることがあります。

アメリカなどのようにピーナッツ摂取量の多い国では、ピーナッツアレルギーの問題は深刻です。しかし一方では、ピーナッツの摂取量が多い国と少ない国で見ると、少ない国のほうがかえってピーナッツアレルギーが多いというデータがあります。
つまり、食べた方が食物アレルギーにならず、食べない方がかえって食物アレルギーになってしまうわけです。これは食べると食物アレルギーが起こるという今までの考え方からすれば、180度の大きな転換です。

平成22年から23年にかけて、「美肌効果がある」として通信販売で大ヒットした「茶のしずく石鹸」をめぐり、商品に含まれていた小麦由来成分によるアレルギー被害が拡大して大きな社会問題に発展しました。

このQandAの中で、美肌石鹸の中に含まれた小麦成分に対して、アレルギー体質を獲得した理由が次のように述べられています。

「皮膚および眼や鼻の粘膜は、人間にとって体の内側と外側の境界にあたりますので、細菌やウイルスなどの外敵から、身を守るのに必要な免疫機能が発達しています。ですから、これらの臓器はもともと色々な外的物質に対してアレルギー反応を起こしやすい臓器だということができます。

私たちがアレルギーの元になりやすい成分(これをアレルゲンと呼びます)を含有する石鹸やシャンプー・その他の化粧品を使用すると、アレルゲンが皮膚、および眼や鼻の粘膜などに少量付着します。
このような石鹸、シャンプーなどの化粧品はほぼ毎日使用するわけですので、ごく少量しかアレルゲンが付着しなかったとしても、繰り返し使っていると一部の人がそのアレルゲン成分にアレルギーになってしまうことが考えられます。

このような現象は、もともとアレルギー体質でない人にでも十分に起こりえます。
例えばスギ花粉症の場合でも、今までアレルギーの無かったひとにでも突然発症することがあることは、皆さまもよくご存じであると思います。

2010年12月7日までに販売されていた「茶のしずく」石鹸には、加水分解コムギという小麦由来のタンパク質(製品の箱には“水解小麦末”と表記してありました)が重量比にして0.3%含有されていました。すべてのタンパク質は人間にとってアレルゲンになる可能性がありますが、その中でも小麦のタンパク質はアレルゲン性の強いもののひとつと考えられています。
毎日のように洗顔して、この成分、“加水分解コムギ”が少しずつではありますが目の粘膜、鼻の粘膜、顔の皮膚に付着しからだに侵入し、からだがこの成分を危険なものと判断し、外に出さねばならないと判断したために、この石鹸を使ったひとの一部は、この含有成分“加水分解コムギ”に対してアレルギーになってしまいました。
そして、小麦のアレルギーが眼や鼻の粘膜や顔面の皮膚で最初に成立したものであっても、一度小麦アレルギーになってしまうとアレルギー反応は全身で起こり得ます。結果的に一部の方は、小麦を食べた時にもアレルギー反応を起こすようになってしまいました。

石鹸やシャンプー・その他の化粧品成分に対するアレルギーで、それらを使用した後に、じんましんや皮膚炎になるという現象はこれまでもよくわかっていました。しかしながら、このような石鹸やシャンプー・その他の化粧品成分に対するアレルギーが食物アレルギーに関係するとはよく知られていませんでした。
したがって、今回茶のしずく石鹸の中の加水分解コムギに対するアレルギーにより、小麦アレルギーを発症してしまったという現象は、これまで予想されていなかったと言ってもよいと思います。

今までアレルギー体質がなくても、くり返してアレルゲンにさらされると大人になってからでも、アレルギー体質が獲得される可能性があることが分かります。

一方、大人になってアレルギーが起こってきたようにみえても、実際には乳幼児や学童の頃にも食物アレルギーを持っていた可能性があります。
遺伝的にまた乳幼児期にアレルギー体質を獲得し、アレルギーマーチをくり返しながら、アレルギー体質が続いていくうちに大人になって食物アレルギーが顕在化してきたと考えられる場合です。食生活が大きく変化したことで、高タンパク食が多くなり、過敏体質が増えてきたことも関係していると考えられます。

花粉症を例に考えてみましょう。
スギの花粉症は1964年に初めて報告されて以来、増加の一途をたどってきました。戦後の山林復活事業として全国の山林に大量のスギが植林されました。樹齢25~30年になるころから大量の花粉が飛散するようになりました。最近は日本の林業が不振のため、スギの木が手入れをされずに放置されたことも、花粉量の増加につながりました。

スギ花粉症のひとはアトピーや食物アレルギー、喘息などのアレルギー体質の傾向が強いことが知られています。ハウスダストにアレルギーのある子どもの80%が花粉症を持っているといわれています。逆にアレルギーのない子どもの花粉症は30%以下といわれています。つまり遺伝的な要因が花粉症に大きく関係しています。

さらに環境要因も大切です。
大気汚染や環境ホルモン、食品添加物などはからだの中でスギ花粉に対するIgE抗体を産生する環境因子として重要とされています。また、都市で生活をしているとアスファルトやコンクリートで道路が舗装されていて花粉が飛散しやすいこと、気密性の高い住居ではチリやダニが発生しやすいこと なども関係しています。

いろいろな例を挙げましたが、成長してから起こる食物アレルギーのはっきりとした原因は明らかではありません。
アレルゲンにさらされて感作が起こる過程には、私たちの周囲にはアレルゲンの候補となる物質は多数存在する上に、体質(遺伝的要素)、幼少時のアレルギーの影響、ごく微量の添加物の影響、さまざまな環境要素などが複雑に関係し合っていると考えられるからです。

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学童と大人のための食物アレルギー

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