総合内科のアプローチ ~臨床研修医のために~血管炎を見逃さない【総論】 

総合内科のアプローチ ~臨床研修医のために~ 臨床研修医のみなさんへ、Drみやけの診断の「虎の巻」をお教えします。

血管炎を見逃さない【総論】

Dr.みやけ

血管炎は多臓器障害を伴いますが、多臓器障害を伴いやすい全身性疾患を列記してみると次のようになります。

全身症状・多臓器障害を伴いやすい診断困難な疾患

  1. ANCA関連血管炎
  2. 膠原病、ベーチェット病
  3. サルコイドーシス、アミロイドーシス
  4. IgG4関連疾患
  5. 悪性リンパ腫などの血液疾患、多中心性キャッスルマン病
  6. 好酸球増多症候群
  7. 炎症性腸疾患
  8. 梅毒、(粟粒)結核、HIVなどの感染症
  9. 再発性多発軟骨炎、Cogan症候群
  10. 副腎皮質機能低下症、PTH亢進症
  11. 高Ca血症、低K血症など電解質異常
  12. 骨髄腫、悪性腫瘍(随伴症候群) など

これらの疾患の中で膠原病(および膠原病関連疾患)とANCA関連血管炎は、最もポピュラーな全身性疾患です。膠原病では関節リウマチ、ついで皮膚筋炎は日常診療の中でしばしば遭遇する疾患です。血管炎も稀ならず遭遇します。

個人的には、「多臓器障害を伴いやすい全身性疾患」では、膠原病よりもまず血管炎を疑う必要があると常々感じています。

血管炎を疑うべき徴候

血管炎を疑うべき徴候
●全身
症状
発熱、体重減少、全身倦怠感
●身体
所見
赤目や視力障害、関節痛、下肢紫斑などの皮膚変化、レイノー現象など
●検査
所見
尿所見(顕微鏡的血尿や蛋白尿)、炎症反応(CRPと血沈亢進)
腎機能障害や好酸球増多、MPO-ANCA、PR3-ANCA
●現
病歴
気管支喘息やアレルギー性鼻炎などのアレルギー性疾患
難治性の上気道炎症状(鼻閉、副鼻腔炎など)や鼻出血、
難治性滲出性中耳炎など

●全身症状として発熱や体重減少が見られます。
発熱は38~39℃ の高熱が続くため、体重減少を伴ってくることが多いです。その他の全身症状として、脱力感,全身倦怠感などの症状を訴えることも多いですが、全身症状だけから血管炎を想起することは困難です。
60歳以降の新規発症の頭痛では巨細胞性動脈炎GCAも想起すべきですが、発熱と頭痛で発症すると病初期には髄膜炎と区別が困難です(自験例)。

●身体所見では、赤目や視力障害、関節痛、下肢紫斑などの皮膚変化、レイノー現象、末梢神経障害 などに注意します。

*赤目は結膜充血と毛様充血を区別します。実際は簡単ではありませんが、眼瞼結膜の充血を認めると結膜充血の可能性が高くなります。視力障害を訴える場合には、ぶどう膜炎や強膜炎を考えて眼科受診を勧めます。

●検査所見としてはまず尿所見、とくに顕微鏡的血尿や蛋白尿に注意します。
血液検査では炎症反応亢進を認めるため、CRPと血沈は重要です。原因の明らかでない腎機能障害や好酸球増多を認めた場合には血管炎も疑い、MPO-ANCA、PR3-ANCAを積極的に調べます。

*血沈の検査の機会は少なくなりましたが、1時間値のカットオフ値を次のように考えると病的意義が高まります。男性:年齢÷2(mm)、女性(年齢+10)÷2(mm)

●現病歴も大切です。気管支喘息やアレルギー性鼻炎などのアレルギー性疾患、原因の明らかでない難治性の上気道炎症状(鼻閉、副鼻腔炎など)や鼻出血、難治性浸出性中耳炎の場合にも血管炎を鑑別の一つに加えます。

●局所症状としては中・小血管炎は「中・小血管の炎症」という性質上、皮膚変化や肺病変、腎機能障害、神経障害など多臓器障害を伴いやすいのが特徴です。しかしこれらの多臓器障害の症状は同時期に出現するのではなく、時間を異にしながら比較的短期間に出現する特徴があります。
各疾患の診断基準は完成された病像をみているため、経過をみないと診断に至らないことがしばしばあります。症状の多彩さ、特に神経障害という点からは血管炎の方が膠原病よりも目立つ印象があります。

血管炎と膠原病の症状は類似する点も多いため、血管炎の特徴を膠原病と対比しながら簡単に述べることにします。

血管炎を疑うべき局所症状

1.血管炎と関節痛/関節炎

血管炎では特に小血管炎において関節痛や筋肉痛などの筋・関節症状がよく見られますが、関節炎の所見を呈することは比較的少ないです。関節リウマチRAでは手指の朝のこわばりが非常に高度で 1 時間以上持続するのが特徴ですが、血管炎ではさほど強いこわばりは認めません。

IgA血管炎(ヘノッホ-シェーライン紫斑病HSP)では関節痛や関節炎が半数以上に見られますが、25% では紫斑に先行して関節症状が出現します。小児のHSPでは 78% に関節症状が見られます。関節炎は主として足趾・足関節・膝など下肢の関節に起こります。
自験例では強い腹痛で始まり、1~3日後に下肢痛のため歩行が困難となりました。それから1~3日して、下肢に浸潤のある紫斑を生じました。このように症状が短期間に変化するため、腹痛後数日後に初めて診断がつくことがあります。

顕微鏡的多発血管炎MPAの 56~76% で関節痛/関節炎や筋肉痛を生じます。多発血管炎性肉芽腫症GPAでも関節や筋肉を 48~79% で認めます。結節性多発動脈炎PANでは関節痛や筋痛を 50% に認めます。関節痛は膝・足関節・肘・手関節に起こります。

巨細胞炎GCAでは滑膜炎を時に(5~29%)認めます。多くは関節痛や軽度の腫れのみですが、時に圧痕性浮腫を伴う対称性滑膜炎を生じます。
GCAはリウマチ性多発筋痛症PMR様症状を起こすことがあります。逆にPMR様症状をみた場合には、PMRとともにGCA、多発性骨髄腫、悪性腫瘍随伴症候群などを鑑別する必要があります。
PMR様症状が持続すると、高齢発症のRAと鑑別が困難なことがあります。RAと関係の深いキーワードとして、高齢発症RA、RS3PE症候群、リウマチ性多発筋痛症を挙げることができます。

2.血管炎と消化器症状

腹痛発作が皮膚症状に先行するのは IgA血管炎HSPの 10~20% とされています。HPSに伴う腹痛は血管炎を主体とした限局的な腸管虚血による炎症と考えられます。

腹痛のみからHSPを想起することは困難ですが、遅れて関節痛や紫斑が起こった場合にはHSPを考慮することが必要です。血管炎関連の腹痛としてはループス腸炎やHSPが多く、SLE を否定することが診断の一助となる可能性があります。

3.血管炎と皮膚病変

血管炎の皮膚病変は多彩ですが、紫斑、リベド血管症(網状皮斑)、紅斑などが病初期に見られる代表的な変化です。血液を含んだ水ぶくれである血疱などを伴う場合にも血管炎が疑われます。膠原病の一つ皮膚筋炎に言及すると、ヘリオトロープ疹などの紅斑性皮疹などが重要な徴候と考えています。

紫斑 

血管炎の最も特徴的な皮疹は紫斑です。上気道炎に続いて浸潤を触れる紫斑が両下肢に中心に認められた場合、小児の疾患であるIgA血管炎(ヘノッホ-シェーライン紫斑病HSP)を疑います。
触知される紫斑は稀であり、真皮上層の血管壁にフィブリノイド変性を伴う血管炎によるものです。小児では溶連菌感染症と関連性が指摘されていますが、高齢者を含む成人発症例も約10%あります。

蛍光抗体法では血管壁周囲にIgA沈着を認めます。IgA血管炎の紫斑は血管壁の炎症によるもの、浸潤を触れることがこの疾患の特徴です。好酸球性多発血管炎性肉芽腫症EGPAでも、好酸球浸潤を伴う細小血管の肉芽腫またはフィブリノイド壊死性血管炎により、同様の紫斑を認めることがあります。

リベド血管症(網状皮斑) 

リベドは真皮下層から皮下脂肪組織に走行する血管の循環不良によって生じます。小血管の循環不良によってそれ以下の末梢血管が拡張し、拡張した血管走行が皮膚表面から網目状、樹枝状に広がる赤紫色〜茶褐色の斑として観察されます。

網目の1ヶ所を「環」に見立て、環が閉じないものをレース状リベド、環が閉じるものを網目状リベドと呼びます。レース状リベドは罹患血管が動脈系で、血管炎などの基礎疾患が原因のことが多いです。
一方、網目状リベドは罹患血管が静脈系で、注意すべき基礎疾患を伴わないことが多いです(温熱性紅斑、ひだこ)。

血管炎を疑った場合にはANCAの測定が重要となります。血中MPO-ANCAが陽性ならEGPA(チャーグ-ストラウス症候群)や顕微鏡的多発血管炎MPA、PR3-ANCAが陽性なら多発血管炎性肉芽腫症GPA(Wegener肉芽腫症)が鑑別に挙がります。

爪周囲の出血点

爪周囲(爪上皮または爪郭部)の出血点(nailfold bleeding)は、強皮症、皮膚筋炎、SLEなどの膠原病疾患で観察される身体所見の一つです。
真皮網状層の毛細血管により皮膚血流は供給され、上皮の折り返し部分にあたる近位爪郭部は毛細血管ループが間擦しやすいため、毛細血管異常の評価部位に適しています。したがって、小血管炎(ANCA関連血管炎など)でも爪周囲の点状出血を認めることがあります。

レイノー現象を訴える患者では爪の生え際をよく観察します。爪上皮出血点は注意深く観察しないと見逃します。爪上皮出血点は強皮症、混合性結合組織病患者の70~80%に認めます。第4指に最も多く見つかります。健常人でも3%に認めるとされています。
2本以上の指に爪上皮出血点が認められたときには、強皮症、混合性結合組織病に対する感度60%、特異度99%とされています。

感染性心内膜炎では眼球結膜・眼底(Roth斑)・頬粘膜・口蓋の点状出血、爪甲点状出血、手掌・足底の斑点(Janeway lesion)などの血栓症が起こります。

4.レイノー現象

レイノー現象は膠原病や血管炎を疑う重要な徴候です。振動病やタイピストなどの職業性のものを除くと、膠原病関連のレイノー現象では、強皮症(80%)、皮膚筋炎ついでSLEや関節リウマチの順に多くみられます。
血管関連のレイノー現象では、ANCA関連血管炎、PN、クリオグロブリン血症、バージャー病などの他、閉塞性動脈硬化症でもみられることがあります。

5.尿異常や腎機能異常

尿所見は膠原病や血管炎を疑う重要な検査です。顕微鏡的多発血管炎およびANCA関連腎炎を疑った場合、eGFR・BUN・血清クレアチニン・ANCA測定はできるだけ早期に行います。
ANCA関連腎炎は軽症であれば、蛋白尿や顕微鏡的血尿のみで腎機能は正常です。しかし、多くのケースでは急速進行性腎炎症候群(rapidly progressive glomerulonephritis : RPGN)と呼ばれる疾患を来します。 尿所見異常と進行性のeGFR低下を見逃さないことで、その早期診断は可能です。
血尿に関しては、肉眼的血尿は少なく、ほとんどは顕微鏡的血尿です。蛋白尿は軽度~中等度が多く、ネフローゼ症候群を生じることはまれです。

尿異常では特に顕微鏡的血尿に気をつけます。顕微鏡的微小血管炎MPAでは血尿により気がつくことがしばしばあります。
腎機能異常(血清クレアチニン上昇)は病初期には必ずしも明確ではなく、倦怠感や発熱、体重減少などの全身症状が先行することが多いため注意を要します。
MPAなどのANCA関連血管炎や抗GBM抗体関連疾患では急速進行性糸球体腎炎RPGNを呈して、数週間から数か月で急速に腎不全に移行することが多いので早期診断が極めて重要です。

6.血管炎に伴う神経障害(特にEGPAでは下肢しびれ)

血管炎性ニューロパティーは多発性単神経炎(multiple mononeuropathy)の形をとり、腓骨神経(下垂足)、尺骨神経(鷲手)、橈骨神経(下垂手)、正中神経(猿手)など複数の主要神経幹が左右非対象に障害されます。頸椎疾患・腰椎疾患などと誤診されやすいので注意します。

典型的な臨床像は、

  1. 左右差を有し
  2. 四肢遠位部(下肢優位)に障害のアクセントのある
  3. 強い痛みを伴う感覚>運動型の
  4. 亜急性に進行する多発性単神経炎 です。

症状は左右対称に起こることはなく、最初に右の下垂足が起こり、次の日には左手の下垂手、というような進行形態をとるのが典型例です。血管炎の中で、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症EGPAでは下肢の感覚障害が特徴的に出現します。
障害される神経は細かい分枝ではなく、右の腓骨神経、左の橈骨神経、左の深腓骨神経といったように、根前のある神経幹の支配領域の感覚障害・運動障害です。
感覚障害を伴わない多発性単神経炎では、血管炎以外の疾患(たとえば、多巣性運動ニューロパチー)をまず念頭に浮かべるべきです。ANCA陰性で炎症が末梢神経に限局する非全身性血管炎性ニューロパチーと呼ばれる病型も存在しますが、基本的には血管炎は全身疾患です。

7.血管炎と肺病変

ANCA関連血管炎の肺病変は疾患ごとに特徴的があります。MPAの肺病変としては肺胞出血と間質性肺炎がみられます。
肉芽腫性血管炎の名が付いているGPAとEGPAには結節性病変がみられ、GPAでは壊死性血管炎を反映して壊死を伴う肉芽腫、EGPAではアレルギー性疾患を反映して好酸球性気管支・細気管支炎や好酸球性肺炎がみられます。これらの疾患の中で、GPAは病初期から特徴的な胸部X線所見を示します。

ANCA関連血管炎性中耳炎とANCA関連肥厚性硬膜炎

ANCA関連血管炎性中耳炎:

ANCAによる壊死性血管炎で微少血管が障害される成人発症の自己免疫疾患です。 原因は十分解明されていませんが、ANCAが風邪などの上気道感染の後に炎症によって産生されたサイトカインとともに好中球を活性化し、各種の有害因子を放出し血管炎や肉芽腫を起こすと考えられています。

難聴や耳漏を伴う難治性(浸出性)中耳炎が先行し、経過中に顔面神経麻痺や肥厚性硬膜炎などの続発症を合併することが特徴とされています。疾患の中心となる中耳炎は、早期では中耳炎による伝音性難聴を呈しますが、その後血管炎による内耳障害を来します。

MPO-ANCA陽性は60%、PR3-ANCA陽性が20%とされますが、両ANCA陰性例が20%に認められ、診断に苦慮する場合があります。肥厚性硬膜炎は頭痛を主症状として約15%に合併し、経過中に25%となりその割合は増加します。肥厚性硬膜炎の部位は、中耳炎罹患側の中頭蓋窩から側頭葉表面を中心に片側大脳表面、あるいは小脳テントに沿って認める場合が多いです。

肥厚性硬膜炎:

肥厚性硬膜炎は脳や脊髄の硬膜が慢性炎症により肥厚し、各種の脳神経麻痺や小脳失調、脊髄症状などの神経症状を来します。一方、髄膜炎は軟膜主体の炎症で(くも膜にも炎症が及ぶことがあります)ある点が異なります。

我が国の有病率は人口10万人あたり0.95の稀な疾患です。従来は結核や梅毒などの感染症が原因のことが多かったのですが、近年は特発性、あるいはサルコイドーシスやANCA関連疾患、関節リウマチ、IgG4関連疾患など自己免疫疾患に関連したものが増えています。

脳の肥厚性硬膜炎の症状として頭痛が最も多いですが、髄膜刺激症状と伴うことは稀です。他に視力障害、複視、難聴などの脳神経症状や小脳失調症を認めることが多いです。肥厚性硬膜炎は脳硬膜だけでなく、背部痛やしびれを主訴として脊髄硬膜にも病変を認めることがあります。
続発性の肥厚性硬膜炎の場合には、発熱、中耳炎、乳突洞炎、副鼻腔炎など背景疾患に対応する全身の臓器症状を認めることがあります。

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