心電図を読むときに、見逃してはならないポイントは…
1右室に注目:肺塞栓症を見逃さない!
2wideQRS tachycardia(房室解離とは?)
3blocked APC、洞房ブロック、洞停止について
4冠動脈多枝病変を見逃さない
1心電図は右室に注目:肺塞栓症を見逃さない!
狭心症や心筋梗塞、心筋症、心筋炎、左室肥大などの疾患は、左室に起こることが多く、心電図では左室胸部誘導に特徴的な変化が現れます。
心電図に慣れてくると、これらの変化を見逃すことはまずないでしょう。
これに対して、肺塞栓症では右室圧の上昇や右室拡張などの変化が起こるため、右室側に心電図変化が起こりやすくなります。
右室の心電図変化は見逃されやすく、左室の次は右室変化がないか注目します。
両側下腿のむくみを主訴に受診された34歳女性、肺塞栓症の心電図です(発症して約7日?)。
じっと観察して、いつもの心電図とどこか違うと気がつきますか?
この心電図は、次のような肺塞栓症の典型的な変化をすべて持っている貴重なものです。
この心電図を頭にたたき込みましょう。
右室負荷の心電図変化
- V1~V4のT波の平坦化および陰性化
- Ⅰ・aVL(側壁誘導)の深いS波
- Ⅱ・Ⅲ・aVf(下壁誘導)の高いR波
- 右脚ブロック
- V1のR波増高をみたら肺高血圧症を考える
(ECG軸)
右室負荷を起こす肺塞栓症では、電気軸が右側に偏位します。
この図から、2. Ⅰ・aVL(側壁誘導)の深いS波、3. Ⅱ・Ⅲ・aVf(下壁誘導)の高いR波の変化は容易に理解できます。
鑑別診断
- 肺塞栓症
- 肺高血圧症
- 不整脈原性右室心筋症
解説
肺塞栓症に高頻度で認められる心電図所見は、頻脈やV1-4など広範囲に認められる陰性T波や平坦T波です。これらは急激な右室拡張や右室圧に伴う変化と考えられています。
陰性T波は発症24時間以内に現れ、2~3日で最も深くなりその後徐々に回復するとされ、肺塞栓の経過中最も長期にわたって見られます。
その他の心電図所見は、①右軸偏位、右脚ブロック、②Ⅱ・Ⅲ・aVfの高いR波とⅠ・aVLの深いS波、③S1Q3T3(感度は10~30%にすぎず、発症数日で消失すると言われます)。
急性肺塞栓症は近年増加傾向にあります。
未治療の場合は死亡率が高く、適切な治療で死亡率は大きく改善するため早期診断が重要です。
しかし、臨床症状が多彩で理学所見や検査に特異的なものがないため、非特異的所見から本症を疑う臨床的センスが求められます。
心電図変化がなくても、肺塞栓症は疑うことから始まる!
労作時息切れや失神を疑う症状の鑑別では、心電図変化がなくても肺塞栓症も考慮します。
広範型(massive)でない肺動脈血栓塞栓症では、労作時息切れに加え、起立時の眼前暗黒感を自覚することがあります。
失神しそうになり、自宅で転倒を繰り返し、いわゆる presyncope を生じます。肺塞栓症では、失神やショックバイタルを示すmassiveな肺塞栓症以外にも、失神に似た「めまい」の症状が10%前後の頻度で存在します。
失神を主訴に緊急外来を受診した患者群において、全体の17.3%が肺塞栓症と診断されたという報告があります。
頻脈や頻呼吸がなく、心電図や心エコーで明らかな異常所見を認めなくても、長時間続く労作時息切れや失神を疑う症状の鑑別には肺塞栓症を加えます。
妊娠は肺塞栓症の最大のリスクの一つと考えられます。
妊婦で原因不明のめまいや失神をみたら、肺塞栓症の可能性も考えます。
その他の検査所見
○心エコー
- 右房・右室の拡張
- 右室の変形
- 高度の三尖弁閉鎖不全の所見
○胸部レントゲン写真
- 左第2弓の突出
○血液検査
- D-ダイマー、トロポニンT、BNP
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