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総合内科のアプローチ ~臨床研修医のために~ 臨床研修医のみなさんへ、Drみやけの診断の「虎の巻」をお教えします。

電解質から分かること

Dr.みやけ

電解質異常と酸塩基平衡の知識は救急医療ではたいへん重要です。

酸塩基状態を知るためには血液ガス分析が必要ですが、一般診療所で動脈血ガス分析を行うことは困難です。また、一般診療所では動脈血ガス分析を必要とする重症患者を診る機会はほとんどなく、動脈血ガス分析はそれほど有用な検査ではないと言えるでしょう。

呼吸性代謝異常として、呼吸性アルカローシスは過換気症候群で診ることはありますが、呼吸性アシドーシスは救急医療の場では重要であっても、一般診療所で診る機会は多くありません。
一方、代謝性の異常は電解質異常とも関係していて、一般診療所でも重要です。

静脈血から分かる代謝性異常

1.静脈血 HCO3

動脈血と静脈血の血液ガス分析の違いです。

動脈血と静脈血の血液ガス分析の違い
  pH PO2 PCO2 HCO3 BE
動脈血 7.40 95Torr 40Torr 24mEq/L 0mEq/L
静脈血 7.37 40Torr 48Torr 26mEq/L 2.0mEq/L

静脈血HCO3濃度は動脈血とほとんど変わりなく、HCO3減少が基本である代謝性アシドーシスでは静脈血でも十分に評価が可能です。ただし、その場ですぐ分かるわけではなく、検査センターに依頼しなければ結果は分かりません。

2.血清Na-Clは通常36前後

血清Na - Cl = HCO3 + アニオンギャップAG という関係にあります。

血清Na - Cl > 36 なら代謝性アルカローシス
血清Na - Cl = 36 なら正常 または AG増大型代謝性アシドーシス
血清Na - Cl < 36 なら高Cl性代謝性アシドーシス

であることが分かっています。

詳しくは 酸塩基診断 代謝性異常の鑑別(http://square.umin.ac.jp/seedbook/AB2.html) をご覧ください

HCO3-は通常の採血には含まれませんが、血清Na-Clに注目することで、潜在している代謝性異常に気づく契機になります。

通常、低K血症は代謝性アルカローシスを併発しますが、尿細管アシドーシスなどによる低K血症では代謝性アシドーシスを来す病態もあります。このように、電解質異常と「血清Na-Cl」に注目することにより、より正確に病態に近づくことができます。

高Ca血症は代謝性アルカローシスを来すことがあることに注意します。この場合も、「血清Na-Cl>36」が手がかりになる可能性があります。

すなわち、血清Na - Cl > 36(代謝性アルカローシス)では、低K血症や高Ca血症に注意します。

血清Ca値の異常から分かること

血清Ca値の異常は、総合内科的に重要な疾患が多く含まれます。高Ca血症と低Ca血症を来す疾患や病態をまとめてみました。

高Ca血症と低Ca血症を来す疾患や病態
図2高Ca血症と低Ca血症を来す疾患や病態

1.血清Caの補正

血清Caの約40%はAlbなどの蛋白と結合し、約10%はリン酸、クエン酸、炭酸イオンと結合し、約50%がCaイオンとして存在しています。生体ではイオン化Caが重要であり、PTH、カルシトリオール(1.25(OH)2D3)の骨、腸管、腎臓への作用により調節されています。

血清Caは、通常の検査ではアルブミンAlbと結合している非イオン化Caも測定した総Ca値が検査値として報告されます。そのため総Ca値は血清Albを考慮して評価する必要があり、血清Albが低いときには(血清Alb≦4.0)、次の式で計算される補正血清Ca値を用いて血清Ca濃度を評価します。

補正総Ca値=実測Ca値+(4-Alb値)(ただし、血清Alb≦4.0)

2.低Ca血症と血清Mg値の関係

高度の低Mg血症(通常1.2mg/dL未満)では低Ca血症を示す傾向があります。その機序は、骨のPTHに対する反応性の低下やPTH分泌低下によるとされます。Caや活性型ビタミンDを投与しても、低Mg血症が改善されない限り低Ca血症は改善しません。

高Mg血症では腎尿細管に存在するCa感知受容体に結合することによりPTH分泌が抑制され、まれに低Ca血症を来すと言われます。

詳しくは 日腎会誌2008 カルシウム,マグネシウム代謝の考え方(https://jsn.or.jp/journal/document/50_2/091-096.pdf) をご覧ください

低Mg血症でも高Mg血症でも、PTH分泌低下を生じて低Ca血症を来す可能性があります。
このことは低Ca血症によるテタニーをみた場合、副甲状腺機能低下症によるPTH分泌低下を疑うとともに、血清Mg値が正常範囲にあるか確認する必要があります。

3.サイアザイド利尿薬と尿中Ca排泄低下

サイアザイド利尿薬は腎臓での再吸収亢進により、軽度の高Ca血症を来します。このことは、サイアザイド利尿薬使用時のミルク・アルカリ症候群の発生にも関係します。
中止しても高Ca血症が続く場合には、他の原因を検索する必要があります。ループ利尿薬は尿中Ca排泄を促進させます。

4.血清Ca値異常の症状

血清Ca値異常を示す疾患には、重要な疾患が多く含まれています(図2)。これらの疾患に気がつく第一歩は、血清Ca値異常に伴う症状です。電解質異常の中でも高Ca血症や低Ca血症に伴う症状は特徴的です。

●高Ca血症・・・筋力低下、消化器症状(食欲低下、吐き気など)、口渇・多飲・多尿、精神症状(イライラなど)

高カルシウム血症は腎障害を伴うことがほとんどです。腎障害発生の機序は、輸入細動脈の収縮による腎血流量の減少や、腎性尿崩症などが挙げられます。腎性尿崩症では尿細管障害により尿濃縮ができず、希釈尿が大量に生成されます。その結果、ロ渇・多飲が発生します。

高カルシウム血症の原因疾患で多いのは、原発性副甲状腺機能亢進症、癌に関連するPTHrP (副甲状腺ホルモン関連ペプチド)生産腫瘍、骨転移などです。
高カルシウム血症では通常、尿中のカルシウム排泄も増えますが、 家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症(FHH )は尿の中にカルシウムが排出できない病気なので、 唯一尿中のカルシウム排泄が減少します。
FHHは基本的に治療の必要がない疾患と考えられており、 FHHの除外は臨床上重要です。そのために、1日蓄尿によるFECa(fractional excretion of Ca)の測定を行います。高カルシウム血症があり、FECaが0.01未満であればFHHの可能性が高く、0.01以上であれば尿中へのカルシウム排泄が多いことを示します。

FHHではPTHが抑制されませんが、高カルシウム血症でPTHが抑制されない疾患は、この他に副甲状腺機能亢進症とリチウム中毒です。血中力ルシウム値が高いにもかかわらず、 PTHが基準範囲内の場合はPTHの自律的分泌があると考える必要があります。

●低Ca血症・・・テタニーに伴う、クボステック徴候・トルーソー徴候、手足の筋クランプ、喉頭痙攣、口唇・手足のしびれ などです。

5.ミルク・アルカリ症候群とは

現代のミルク・アルカリ症候群は、骨粗鬆症治療のため活性型ビタミンDとCa製剤を内服している時に、便秘薬の酸化Mg製剤やサイアザイド利尿薬を併用すると起こりやすくなります。

Mg過剰によりPTH分泌低下が起こり、それにより腎尿細管のHCO3再吸収が促進されアルカローシスとなります。その結果、Ca吸収が増加して高Ca血症になります。サイアザイド利尿薬も尿中Ca排泄低下を起こして、血清Ca値上昇を起こす可能性があります。
高Ca血症は腎輸入細動脈を収縮しGFRを低下させ、さらに多尿による循環血液量低下が起こり、急性腎不全を引き起こします。

電解質異常の症状についてのまとめ

電解質異常の症状についてのまとめ
図3電解質異常の症状についてのまとめ

これらの電解質異常の症状に共通しているのは、消化器症状、倦怠感、筋力低下・脱力 です。

すでに述べましたが、血清Mg異常は低Ca血症を起こす可能性があり、共通した症状はテタニーです。低K性ミオパティは周期性四肢麻痺に類似します。遺伝性周期性四肢麻痺は20歳までに発症します。20歳以降の周期性四肢麻痺は、甲状腺機能亢進症によるものがほとんどです。

高Ca血症を起こす疾患には、重要な疾患が多く含まれることに注意します。低Zn血症についてですが、赤血球破壊によりZn流出が起こり得ることに注意しながら、血液結果をみる必要があります。

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