総合内科のアプローチ ~臨床研修医のために~ >心電図読解のポイント 

総合内科のアプローチ ~臨床研修医のために~ 臨床研修医のみなさんへ、Drみやけの診断の「虎の巻」をお教えします。

心電図読解のポイント

ここで述べる「心電図読解のポイント」は、主に若手医師やパラメディカルのための心電図入門です。わずかな時間で心電図の基本が理解できると思います。不整脈はここでは述べません。

心電図は心臓を流れている電気の流れを記録したもので、ふつう12誘導として表示されます。より詳しく電気の流れの異常を調べるためには誘導の数をもっと増やすことができますが、実臨床では複雑になるだけなので12誘導が使用されます。

しかし、ブルガダ心電図の診断のために1肋間上げて胸部誘導を記録したり、左室側壁の病変を調べるために腋窩にまで誘導を広げることは、日常診療ではしばしば行われます。

心電図の12誘導の意味

心電図の12誘導の中で、左半分に記録される6誘導は四肢誘導と呼びます。右半分は胸部誘導と呼びます。

四肢誘導は左右の手足につけた電極により記録されますが、心臓の電気の流れを「上下方向」から見たものです。胸部誘導は胸部につけた6本の電極により記録される誘導で、心臓の電気の流れを「水平方向」から見たものです。

このように、心臓の電気の流れを「水平方向」および「水平方向」から併せて12方向から見ることにより、電気の流れの異常をより正確に判断することができるわけです。

ポイント1.四肢誘導は心臓の電気の流れを上下方向からみた誘導
2.胸部誘導は心臓の電気の流れを水平方向からみた誘導

四肢誘導
図1四肢誘導

さて、四肢誘導について見てみましょう。四肢誘導は左右の手足につけた電極により記録されます。
12誘導心電図では左半分に記録される6本です。四肢誘導は心臓の電気の流れを上下方向から見たものです。6本の記録の中で上3本を「Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ」誘導と呼び、下3本を「aVR、aVL、aVF」誘導と呼びます。
これら6誘導の位置関係は図1に示すとおりですが、この位置関係は心電図を読む上で基本中の基本ですのでぜひ覚えましょう。

四肢誘導の中で、「Ⅱ、Ⅲ、aVF」誘導は心臓を下から見た誘導で、心臓の底面すなわち下壁の異常を知るための誘導です。
「Ⅰ、aVL」誘導は心臓を左から見た誘導で左室側壁の異常を知るための誘導です。
「aVR」誘導は心臓を右上方から見る誘導で、右室や左室内腔を上方から眺めることになるので、右室と左室内腔の異常を知ることができます。

四肢誘導と胸部誘導は病変部位の診断に有用

四肢誘導のポイント1.「Ⅱ、Ⅲ、aVF」誘導は下壁
2.「Ⅰ、aVL」誘導は左室側壁
3.「aVR」誘導は右室と左室内腔

*aVRの左室内腔の病変は広範囲の心筋梗塞の診断にも有用な誘導ですが、主に右室の変化をみるための誘導です。大切なのは上2です。図1からは少し分かりにくいですが、下壁は左室と右室の両方から構成されます。

胸部誘導
図2胸部誘導

次に、胸部誘導について説明します。胸部誘導は心臓の電気の流れを水平方向からみた記録です。
V1およびV2は右室、V3およびV4は左室前壁から中隔、V5およびV6は左室側壁の誘導であることが分かります。
胸部誘導の心室と電極の関係は、心臓の回転によって位置関係が変わります。肺塞栓や肺高血圧症で右室に負荷が加わる右室が拡張するため、V1およびV3に右室の変化がみられるようになります(T波陰性やR波増高など)。

胸部誘導のポイント1.V1およびV2誘導は右室
2.V3およびV4誘導は左室前壁と中隔
3.V5およびV6誘導は左室側壁

*これらはあくまでも相対的な関係で、心臓の回転や病変の性質などにより変化します。

簡単な心電図の読み方

刺激伝導系
図3刺激伝導系

次に、心電図の波形について概説しましょう。心電図の波形は、P波、QRS波(ここでは簡単にR波と表現します)、T波の3つの波の繰り返しです。
P波は心臓のスイッチ(洞房結節)が入って心房を電気が流れるときにできます。R波は心室に電気が流れて心臓が収縮するときに、T波は収縮した心臓が弛緩するときにできます。スイッチが入り⇒収縮⇒弛緩を繰り返すたびに、心電図ではP波⇒R波⇒T波を繰り返します。

波形のポイントスイッチである洞房結節に電気が入り、電気が心房を流れ⇒心室が収縮し⇒収縮した心臓が弛緩するにつれて、P波(スイッチ)⇒R波(収縮)⇒T波(弛緩)が形成される

P波は不整脈診断に重要

すでに述べたように、P波は心臓のスイッチ(洞房結節)が入ったときに形成されるため、P波に注目することは不整脈の診断に極めて重要です。不整脈の説明はやや複雑なので、ここでは行いません。

心電図の波形変化は心疾患の診断に有用

心電図の波形変化
図4心電図の波形変化

R波は心臓が収縮するときにできるため、簡単には心臓が力強く収縮する必要がある時にはR波は高くなります。R波増高と言います。
心臓がより力強く収縮する必要があるのは、心筋が肥大して硬くなったとき(左室肥大や肥大型心筋症など)や心室の内圧が高くなり心室に負荷が加わったときです(左室負荷や右室負荷)。逆にR波が低くなる(R波減高)のは、電流が十分に電極に伝わりにくい時、心嚢水貯留や高度肥満などで起こります。

T波は収縮した心臓が弛緩するときに形成されます。T波は心筋の状態を表す点で極めて重要です。
心筋の病的な状態は、心筋虚血や心筋障害などがありますが、これらの場合T波は下向きになります。これをT波陰性と言います。
T波が尖って高くなることがあります。これをT波増高と言いますが、高カリウム血症(腎不全など)や心筋梗塞の発症直後などでみられます。健常な若者でもみられることがあります。

T波が立ち上がる部分をST部分と言います。ST部分は冠動脈の血流を表しています。冠動脈の血流が不足するとST部分は低下し、ST降下と呼びます。ST降下は労作性狭心症の発作時や慢性的な冠血流の低下(左室肥大や肥大型心筋症など)で起こります。

冠動脈が閉塞するとST部分は上昇し、ST上昇と呼びます。ST上昇は心筋梗塞や冠れん縮性狭心症で起こります。冠れん縮性狭心症では一時的に冠動脈が閉塞するため、ST上昇が起こります。

【心電図波形の読み方】

R波増高、T波陰性、ST降下、ST上昇の4つの波形変化が心疾患の診断に重要:

  1. R波増高は左室肥大や左室(右室)負荷で起こる
  2. T波陰性は心筋虚血や心筋障害で起こる
  3. ST降下は冠動脈狭窄で起こる
  4. ST上昇は冠動脈閉塞で起こる

左室肥大や肥大型心筋症では、左室心筋が肥厚するため心筋が硬くなり(R波増高)、心筋障害を起こします(T波陰性)。さらに肥厚した心筋は慢性的な血流不足に陥ります(ST降下)。その結果、これら3つの変化が同時に起こります。

【心疾患の部位診断】

R波増高、T波陰性、ST降下、ST上昇の4つの波形変化が心疾患の診断に重要ですが、これらの変化がどの部位に起こっているかを、四肢誘導と胸部誘導を組み合わせて判断します。

左室か右室の診断には:

  1. V3からV6の胸部誘導やⅠ、aVLでみられる場合、左室肥大や左室負荷の所見
  2. V1およびV2の胸部誘導や、Ⅱ、Ⅲ、aVFおよび aVRの四肢誘導でみられる場合は、右室負荷の可能性(右室心筋症、肺塞栓、肺高血圧症など)を考える

*慣れてくると左室の病変の診断は比較的容易です。ここで強調したいのは、右室側の病変を見逃さないようにすることです。
右室の病変には不整脈原性右室心筋症、肺塞栓、肺梗塞の他、最近話題の「HF with pEF」なども関与します。また高度の三尖弁閉鎖不全症を有する心不全も稀ならず経験します。治療困難な例が多いです。

【冠動脈と心筋梗塞の部位診断】

冠動脈
図5冠動脈

冠動脈は左冠動脈と右冠動脈の2本ありますが、左冠動脈はさらに前下向枝と回旋枝に分かれます。前下向枝は左室前面を下向きに走り、回旋枝は左室側壁から下壁に向かいます。
右冠動脈は右室から心臓の底面(下壁)に向かいます。

この走行は心筋梗塞の部位診断に重要です:

  1. 右冠動脈は、心電図ではV1およびV2、さらにⅡ、Ⅲ、aVFおよび aVR
  2. 前下向枝は、V3およびV4(実際には、左室前壁梗塞ではV1からV4に及ぶことが多い)
  3. 回旋枝は、V5およびV6、時にⅡ、Ⅲ、aVFにまで及ぶ

すでに述べたように、冠動脈の血流はST部分に注目します。ST降下やST上昇がどの誘導に起こるかで、責任冠動脈病変を推測することが可能です。

総合内科のアプローチ:目次へ

※このサイトは、地域医療に携わる町医者としての健康に関する情報の発信をおもな目的としています。

※写真の利用についてのお問い合わせは こちら をご覧ください。

総合内科のアプローチ


 上に戻る