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総合内科のアプローチ ~臨床研修医のために~ 臨床研修医のみなさんへ、Drみやけの診断の「虎の巻」をお教えします。

腕神経叢

Dr.みやけ

総論は「総合内科の第一歩は末梢神経を理解する」に述べていますので、始めにご覧ください。

腕神経叢
図1腕神経叢

腕神経叢は、首の部分の脊髄から出て来る第5頸神経から第1胸神経から形成されます。これらの神経根が脊柱管を出て、鎖骨と第1肋骨の間を通り腋の下に到達するまでの間に神経線維を複雑に入れ替えて、最終的に上肢へ行く正中・尺骨・橈骨・筋皮神経になります。

腕神経叢は外側・後側・内側神経束に分かれます。外側神経束から筋皮神経が伸びていきます。
筋皮神経は皮膚感覚が主ですが、上腕筋、上腕二頭筋、烏口腕筋にも分布し肩や肘の屈曲に関係します。
内側神経束からは尺骨神経が伸びていき、上肢の内側を走ります。後側神経束は橈骨神経と腋窩神経の2本に分枝して、上腕骨の周りをらせん状に走ります。
独特の走行をするのが正中神経です。正中神経は外側神経束と内側神経束からの神経が、1本に合流した神経です。腕神経叢はC5~Th1から形成されるため、正中神経障害ではC5~Th1に関連した神経障害を示します。

悪性腫瘍や神経原性腫瘍に合併した腕神経叢や末梢神経障害

内科的に注意すべきは、悪性腫瘍や神経原性腫瘍に合併した腕神経叢や末梢神経障害です。
悪性腫瘍と関連したキーワードに、胸郭出口症候群、腋窩腫瘍、Pancoast腫瘍の3つを挙げました。

胸郭出口症候群

胸郭出口症候群
図2胸郭出口症候群

「胸郭出口症候群」|日本整形外科学会 症状・病気をしらべる (joa.or.jp)

胸郭出口症候群は腕神経叢や鎖骨下動静脈が肩関節の構造物によって圧迫され、上肢の疼痛や筋力低下を来たす疾患です。絞扼部位により、次の3つに分類されます。診断のためのテスト名を挙げておきます。

  1. 前斜角筋と中斜角筋の間で絞扼される斜角筋症候群:Moleyテスト、Adsonテスト
  2. 鎖骨と第一肋骨の間で圧迫される肋鎖症候群:Edenテスト
  3. 小胸筋と烏口突起停止部後方で圧迫される小胸筋症候群:Roosテスト、Wrightテスト

斜角筋症候群は、なで肩の女性や頸肋がある患者に多く、Moleyテスト陽性になります。
小胸筋症候群では吊革につかまる、仰臥位で本を読むなどにより腕の疼痛を生じ、Roosテスト陽性となります。Roosテストは上肢跛行とも呼ばれ、上肢に及ぶ血管炎などでも陽性となります。

胸郭出口症候群は整形外科の疾患です。しかし、乳癌再発の症状が第1肋骨転移から始まった自験例があります。この場合、胸郭出口症候群に類似した末梢神経症状を呈するため注意を要します。

腋窩腫瘍

腋窩腫瘍としては、潜在性乳癌または異所性乳癌、他臓器腫瘍のリンパ節転移、皮膚付属器由来の腫瘍などを鑑別します。末梢神経障害の他、静脈圧迫により上肢浮腫を生じることがあります。

*潜在性乳癌は乳癌の腋窩リンパ節転移を認めますが、乳房自体に異常所見を認めないものです。異所性乳癌は副乳と迷入乳腺から発生した乳癌で、全乳癌の0.2~0.6%であり、その80%以上が腋窩に発生します。

Pancoast腫瘍

肺尖部に発生した肺癌が伸展部位により様々な症状を引き起こします。腕神経叢や神経根に伸展すると、肩をはじめ前胸部や上肢の痛みなどの症状がみられます。交感神経に及ぶとHorner症候群を起こすことがあります。

Horner症候群に関与した交感神経の知識は本HPに詳しく述べています。

一方、肺尖部の肺癌が上大静脈に伸展すると、上大静脈症候群を生じます。頭頸部の浮腫の他、呼吸困難感や頭部の充満感を認め、睡眠や前屈姿勢で悪化します。
症状は進行性に悪化しますが、側副血行路が発達するとそれらの症状はいったん軽快する傾向があるため、良性の経過と誤判断しないように注意します。

内科で診る機会が多い上肢の末梢神経障害

上肢の末梢神経障害としてのキーワードは、鷲手/かぎ爪指変形(尺骨神経障害)、下垂手/下垂指(橈骨神経障害)、猿手/祈祷手(正中神経障害)などです。
内科で診る機会が多いのは橈骨神経障害、正中神経障害(とくに手根管症候群)、尺骨神経障害による肘部管症候群などです。

正中神経・橈骨神経・尺骨神経
図3正中神経・橈骨神経・尺骨神経

橈骨神経障害

橈骨神経が上腕の中央部で障害される(高位)と下垂手(drop hand)になり、肘関節の屈側で障害される(低位)と下垂指(drop finger)になります。腕枕で長時間寝てしまった場合などに起きやすく、手首~指の運動麻痺、(第1~4指の手背部の)しびれなどの症状が出ます。
橈骨神経の分枝である後骨間神経は運動神経であり、その障害は下垂指を生じますが、しびれなど感覚障害は起こりません。

正中神経障害

正中神経障害は前腕中央部をはさみ、高位麻痺と低位麻痺に分かれます。低位麻痺では猿手、母指対立不能、手掌の橈側、母指・示指・中指・環指の橈側半分の感覚障害を呈します。高位麻痺では低位麻痺の症状に加えて、前腕回内不能や祈祷手を呈します。

前骨間神経は正中神経の分枝です。高位麻痺でも前骨間神経単独の障害では感覚障害は示さず、涙のしずくサイン(tear drop sign)を生じます。感覚障害を伴えば、正中神経障害を考えます。

手根管症候群は50歳以上で、特に女性に多く発生します。女性ホルモンの変化による滑膜浮腫の関与などが考えられています。しばしば遭遇するコモンな病気で、特徴的な症状とTinel徴候などから診断は比較的容易です。
むしろ内科的に重要なのは基礎疾患であり、血液透析を除けば糖尿病、関節リウマチ、アミロイドーシス、甲状腺機能低下症などがないか注意します。

尺骨神経障害

ギヨン管症候群と肘部管症候群
図4ギヨン管症候群と肘部管症候群

肘部管症候群ギヨン管症候群はいずれも尺骨神経障害により生じますが、障害部位と頻度に違いがあります。頻度から考えると肘部管症候群は一般的であり、ギヨン管症候群はまれです(手をついて書いたり、マウスを使う時に机やテーブルと当たる所がギヨン管です)。
指先のしびれが小指と薬指の小指側半分なら、いずれかの可能性が大です。手掌と手背のしびれ(尺側)を伴うかどうか、およびTinel徴候の部位の違いにより両者を区別できます。

手の腱鞘炎:ドケルバン病と弾撥指(ばね指)

ドルゲバン症候群
図5ドルゲバン症候群

母指(親指)を広げると手首(手関節)の母指側の部分に腱が張って皮下に2本の線が浮かび上がります。
ドケルバン病はその母指側の線である短母指伸筋腱と長母指外転筋が手首の背側にある手背第一コンパートメントを通るところに生じる腱鞘炎です。腱鞘の部分で腱の動きがスムーズでなくなり、手首の母指側が痛み、腫れます。母指を広げたり、動かしたりするとこの場所に強い疼痛が走ります。

弾撥指は手指屈筋腱の靱帯性腱鞘とその中を走行する滑膜性腱鞘がMP関節掌側直上で摩擦性刺激により炎症を起こす疾患です。手作業に従事する更年期以降の女性に多く、利き手の母指、環指、中指の順に好発し、多指を侵すこともあります。
症状は手指のこわばり、弾撥現象(指のひっかかり感)、拘縮の順に伸展します。弾撥指と手根管症候群は合併しやすいとされています。

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