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総合内科のアプローチ ~臨床研修医のために~ 臨床研修医のみなさんへ、Drみやけの診断の「虎の巻」をお教えします。

総合内科の第一歩は末梢神経を理解する【総論】

Dr.みやけ

総合内科の第一歩は神経の仕組みを理解することです。

いろいろな症状を神経支配と結びつけることで、病態により一層理論的にアプローチできるからです。

中でも末梢神経支配を理解することが重要です。
脊髄神経根の分布は皮膚分節(デルマトーム)として図示され、脊髄神経根は末梢神経となり分布します。皮膚分節を知っておくことは重要ですが、総合内科的には皮膚分節と同様に末梢神経の分布の理解がたいへん重要と考えています。
末梢神経のすべてを理解するのは困難ですが、総合内科的に重要な末梢神経と関連した神経叢は次の通りです(ここでは脳神経については割愛します)。

まず、始めに「腕神経叢、腰神経叢、仙骨神経叢、陰部神経叢」の脊椎神経支配について概略しますが、臨床的に大切なやや詳しい説明は「各論」で述べることにします。
その後、「膀胱の神経支配」について簡単に説明します。

次いで述べる「関連痛」の知識は総合内科的な思考過程にたいへん重要です。「絞扼性神経障害」は整形外科の領域になりますが、内科の実臨床でも遭遇する機会が多く、基本的な知識を持っているとたいへん役に立ちます。
「足底部のしびれや痛み」は整形外科と関係が深いのですが、基本的な知識を持っていると内科の診察の際に有用です。さらに「末梢性ニューロパチー」と続きます。

1.腕神経叢

腕神経叢
図1腕神経叢

腕神経叢は、首の部分の脊髄から出て来る第5頸神経から第1胸神経から形成されます。
これらの神経根が脊柱管を出て、鎖骨と第1肋骨の間を通り腋の下に到達するまでの間に神経線維を複雑に入れ替えて、最終的に上肢へ行く正中・尺骨・橈骨・筋皮神経になります。

【臨床的に重要なポイント】

  • 正中神経、尺骨神経、橈骨神経の走行およびそれらの神経障害
  • 胸郭出口症候群およびPancoast腫瘍、悪性腫瘍の腋窩(リンパ節など)・肋骨転移など
  • 絞扼性神経障害としては、手根管症候群、肘部管症候群、前・後骨間神経

次に「2.腰神経叢」と「3.仙骨神経叢」について述べますが、概略は次の図の通りです。

腰仙骨神経叢
図2腰仙骨神経叢

2.腰神経叢

腰仙骨神経叢⇒腰神経叢
図3-1腰仙骨神経叢⇒腰神経叢

腰神経叢は第12胸神経~第4腰神経の前枝から構成されており、その枝は腹部から大腿前面に分布します。枝は皮枝と筋枝に分かれます。

【臨床的に重要なポイント】

  • 閉鎖神経による神経障害(閉鎖孔ヘルニア、妊娠・乗馬による外傷、骨盤内腫瘍・血腫、下腹部・婦人科の外科手術後 など)
  • 絞扼性神経障害として外側大腿皮神経、大腿神経 など

3.仙骨神経叢

腰仙骨神経叢⇒仙骨神経叢
図3-2腰仙骨神経叢⇒仙骨神経叢

腹部から下肢に分布する脊髄神経は、腰神経叢と仙骨神経叢とを形成します。
仙骨神経叢は第4腰神経~第3仙骨神経の前枝から構成されており、その枝は腰部~大腿後面と下肢~足部に分布します。陰部神経・下殿神経・坐骨神経・上殿神経は仙骨神経叢です。

【臨床的に重要なポイント】

  • 座骨神経から総腓骨神経および脛骨神経におよぶ走行
  • 絞扼性神経障害としては梨状筋症候群、上殿皮神経 など

4.陰部神経叢

腰仙骨神経叢⇒陰部神経叢
図3-3腰仙骨神経叢⇒陰部神経叢

陰部神経叢は脊髄神経から分岐し、腰神経叢や仙骨神経叢と相互に連結しているためこれらを合わせて腰仙骨神経叢に含まれます。陰部神経叢は第2~4仙骨神経の前枝から構成されており尾骨に向かって斜めに下ります。

男性では、S2からS4由来の陰部神経は陰嚢の下部・後面に分布し、L1とL2由来の腸骨鼠径神経および陰部大腿神経はそれぞれ陰茎根部と陰嚢上部、精巣挙筋と精巣鞘膜に分布するという複雑な神経支配となっています。
ときに陰嚢、鼠径部および会陰部に神経痛を発症することがあり、これらの知識は病態の理解に重要です。

【膀胱の神経支配】

膀胱の神経支配
図4膀胱の神経支配

蓄尿時には下腹神経(交感神経)の働きで排尿筋が弛緩し、内尿道括約筋が収縮します。
排尿時には骨盤神経(副交感神経)の働きで排尿筋が収縮し、内尿道括約筋は弛緩します。
外尿道括約筋は体性神経支配の随意筋なので、一時的に排尿を停止することができます。

【臨床的に重要なポイント】

  • 特発性慢性睾丸痛、特発性直腸肛門痛、慢性骨盤痛症候群などの痛みに関与
  • 脊髄病変による排尿障害 など

5.関連痛

関連痛の知識は末梢神経の分布と密接にリンクしています。関連痛は身体のある部位が原因で起こる痛みを、原因となる部位から離れた部位に感じる痛みのことです。
関連痛は内臓などに障害があった場合に、そこからの痛み情報が末梢神経を伝わって脊髄に入力される際に、同じレベルの脊髄に入力している皮膚デルマトームの領域に痛みを感じます。
つまり、同じレベルの脊髄に入力する末梢神経には、内臓由来の情報と皮膚由来の情報が入力されていますが、一般的に皮膚由来の痛覚神経のほうが多いため、脊髄に入力してきた痛み情報が脳に伝達される際に、内臓ではなく皮膚からのものであるという脳の誤認識によって引き起こされます。

この仕組みは電源タップに似ています。脊髄後角で第一次ニューロンから第二次ニューロンにシナプスが切り替わりますが、これは電源タップの差し込み口に似ています。
電源タップから伸びる電源コードは第二次ニューロンに相当します。内臓神経と体神経からの神経の差し込み口が(同じ脊髄後角レベルで)隣接していると、脳レベルで混線してしまい誤認識されると考えることができます。

放散痛というのは、末梢神経などの圧迫によって末梢神経に沿って広がる痛みのことを、我々は放散痛と呼んでいます。放散痛は誤認識というよりは、神経そのものが感じている痛みです。腰部脊柱管狭窄症により神経の圧迫などがあった場合、臀部から足先に響くように痛みが広がるのが放散痛です。

詳しくは下記をクリックの上、本HPをご覧ください。

6.絞扼性神経障害

絞扼性神経障害は整形外科が専門科になりますが、内科外来で相談を受ける機会は多く、基本的な知識を持っているだけでたいへん役に立ちます。

代表的な絞扼性神経障害は、足根管症候群、手根管症候群、肘部管症候群、尺骨神経管症候群(ギヨン管症候群)胸郭出口症候群などですが、その他にもACNES(LACNES 他)など数多くあります。詳細は別に述べることにします。

7.足底部のしびれや痛み

足底の末梢神経分布
図5足底の末梢神経分布

末梢神経支配として後脛骨神経は足根管内でまず内側踵骨枝を分枝し、それから外側・内側足底神経に分かれ足底部や足趾にしびれや痛みを生じます(足根管症候群)。
足根管は足関節内果後下方の屈筋支帯下のトンネルです。足底部の感覚神経としては、外側・内側足底神経および内側踵骨枝の他、腓腹神経が関与します。

神経根レベル(皮膚デルマトーム)では足背の感覚はL5が、足底の感覚はS1が関与します。

【臨床的に重要なポイント】

  • S1のLCS(馬尾型) ・肢端紅痛症 ・足根管症候群 ・足底筋膜炎 ・モートン病 ・腓骨神経障害 ・糖尿病性ニューロパチー 

8.末梢性ニューロパチー

詳しくは下記をクリックの上、本HPをご覧ください。

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