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総合内科のアプローチ ~臨床研修医のために~ 臨床研修医のみなさんへ、Drみやけの診断の「虎の巻」をお教えします。

1.発熱診断のコツ-その③

1.発熱診断のコツ-その① ステップ1~5
1.発熱診断のコツ-その② ステップ6~8

(表)発熱診察のコツ その③
発熱診断のコツ その③
9 超音波検査をしてみよう:Point of care ultrasound(POCUS)
10 結核を疑う:結核性髄膜炎、粟粒結核を見落とさない
11 心雑音に注意しよう:感染性心内膜炎では?
12 若い女性の原因不明熱:高安動脈炎と膠原病を疑ってみよう
13 見落とされやすい身近な原因:うつ熱、薬剤熱、悪性腫瘍では?

ステップ9:超音波検査を行ってみよう

診療所の診察でできる強みの一つは、簡単にベッドサイドで超音波検査ができることです。Point of care ultrasound(POCUS)と呼ばれる短時間で終える超音波の検査方法は、今や当院では診療の上で不可欠なものとなっています。

この検査方法のメリットの一つは、患者の主訴から的を絞って重点的に検査ができることです。第二のメリットは、スクリーニングの目的で検査を行うと、驚くような意外な所見が得られることが少なからずあることです。

とくに、腹部症状を主訴とする患者には、超音波検査は力を発揮します。腹部膨満感を訴える高齢者では悪性リンパ腫も想定しながら、腹部大動脈周囲のリンパ節腫大に注意する ことも、当院で得られた経験の一つです。
下腹部痛を訴える女性では、高率に卵巣や子宮の変化(腫瘍や嚢胞、機能的変化など)や腹水貯留(ときに腹腔内出血)を見つけ、原因を特定することができます。

腹部CTには劣りますが、腸管の異常を見つけることもできます。原因不明の発熱に関係して、腹部超音波で肝膿瘍が見つかることがあります。また、心臓超音波は感染性心内膜炎の発見に極めて有用です。

ステップ10:結核に気をつけよう

結核性髄膜炎

結核性髄膜炎は急性~慢性などさまざまな経過を取り、頭痛がなく意識変容、意欲低下、認知機能低下のみを主訴とする場合があります。24%で項部強直陰性と報告されており、jolt accentuationも明らかでないことがあります。

髄液からの結核菌の証明が困難なことが多く、胸部X線・CT、頭部造影MRI、髄液検査、ADA、結核菌PCR、IGRA(T-spot、QFT)などを参考に診断します。持続する発熱と頭痛では、ウィルス性髄膜炎や結核性髄膜炎を疑い、腰椎穿刺を考慮します。

粟粒結核

粟粒結核は高齢者やHIV感染など免疫低下患者で発症しやすいが、健常人でも発症することがあり、亜急性に増悪する不明熱患者では積極的に疑うことが重要です。

胸部X線や胸部CTを注意深く観察することが大切ですが、粟粒結核では結核菌が血行またはリンパ行性に全身に広がり、多臓器に結核病変を形成します。
結核の1~2%を占め、血流が豊富なリンパ組織、肝臓、脾臓、骨髄、中枢神経、副腎に播種する頻度が高く、剖検例では眼病変を50%に、前立腺病変を7%に認めた報告があります。

粟粒結核における喀痰の塗抹・培養検査の感度はいずれも約40%と低いため、注意が必要です。IGRAの活動性結核全体に対する感度は90%ですが、粟粒結核では79%にとどまるため、陰性でも除外することはできません。

罹患患者のうち、compromised hostは半数以下で、健常者も発症することや、胸部X線では初期の粟粒結核をとらえにくいことに注意します。

ステップ11:心雑音に注意しよう:感染性心内膜炎では?

感染性心内膜炎では、心雑音は初期には約50~80%の患者で、最終的には90%を超える患者で聴取されます。したがって、発熱患者では常に心雑音に注意します。心臓超音波で弁尖に疣贅を認めると診断は確定しますが、初期には認めにくいこともあります。

感染性心内膜炎の大半は左心系(僧帽弁または大動脈弁)に生じます。右心系(三尖弁または肺動脈弁)は約10~20%ですが、静注薬物乱用者では,右心系心内膜炎の発生率が非常に高いです(約30~70%)。

塞栓症は約20~50%で認められます。塞栓症状は多彩で、爪下出血8%、Janeway斑5%、眼球結膜出血5%、Osler結節3%と報告されています。約35%の患者では中枢神経系への影響がみられ、一過性脳虚血発作、脳卒中、中毒性脳症のほか、中枢神経系の感染性動脈瘤が起こります。

腎塞栓が生じると、側腹部痛やまれに肉眼的血尿がみられます。脾塞栓では左上腹部痛が生じることがあります。鑑別はコレステロール結晶塞栓症で、足趾先端に無痛性の紫斑を認めることがあります(blue toe syndrome)。

感染性心内膜炎が疑われる場合は,24時間以内に3回の血液培養(各20mL)を異なる静脈で行うべきで、ほとんどの患者が持続的な菌血症を呈するため、悪寒または発熱の発生中に血液培養を行う必要はない とされます。

感染性大動脈瘤は大動脈壁が感染により、破綻して拡張した状態であり、動脈硬化、感染性心内膜炎、免疫低下(糖尿病、アルコール多飲など)がリスクになります。死亡率は内科治療のみでは90%で、死因の大半は動脈瘤破裂です。

ステップ12:若い女性の不明熱:高安動脈炎と膠原病を疑ってみよう

高安動脈炎は若年女性に好発する大血管炎で、病初期には発熱や血管痛などの炎症症状を示すことが多くありますが、手がかりに乏しいこともあります。
しかし、血管狭窄や動脈瘤などの不可逆的変化を未然に防ぐためには早期診断が重要です。若年女性の不明熱症例では、血管痛を示唆する病歴や身体所見を見逃さないようにします。

頸動脈に炎症を来した場合、頸部痛を示し両側の頸動脈に沿って圧痛を認めます。進行して血管の狭窄を起こすと、上肢の跛行(しびれ)、脈拍や血圧の左右差(鎖骨下動脈)、めまい、失神(総頸動脈、椎骨動脈)などを認めます。

腰背部痛は血管性病変を示唆する病歴としてピットフォールになりやすいですが、高安動脈炎の診断基準においても臨床症状の一つに挙げられています。腹部触診で腹部大動脈に沿って圧痛がないか注意します。

高安動脈炎や巨細胞性動脈炎では、まれに頑固な咳嗽を起こすことがあります。機序は明らかではありませんが、血管壁に接した咳反射球心路(迷走神経)への炎症の波及と考えられ、病変部位としては肺動脈、上行咽頭動脈、迷走神経心臓枝に接する大動脈弓部とその分枝血管起始部の炎症 などが挙げられます。

本症はとくにアジア人に多く、大半は若年女性に発症しますが、高齢発症例も存在します(約1%)。発熱、全身倦怠感、食欲不振など非特異的全身症状から発症し、失神、めまい、上肢のしびれ、血圧の左右差を起こすようになります。

ステップ13:見落とされやすい身近な原因:うつ熱、薬剤熱、悪性腫瘍では?

身近なところに発熱の原因が潜んでいることがあります。

うつ熱は高温環境や激しい運動により放散以上に体熱が産生され、その結果高体温を来す状態です。高温・多湿・無風という環境下では、放熱機構の効率が悪化しうつ熱を招きやすく、高齢者では体温調節機能が低下するとともに、行動性体温調節(意識的に環境を整える)能力も低下するために、体温異常を来しやすいといわれます。

高齢者の熱中症の機序として、①発症日の暑さ指数28℃以上、②自宅環境での発症が多い、③多くが自宅に空調設備がないか、あっても適切に使用していない などが挙げられています。抗コリン薬などの薬剤がが、うつ熱の原因になることがあります。

薬剤熱は投与開始から数日~3週で発熱することが多いですが、数年間の内服で発症する症例もあります。薬剤を使用している限り、熱源として可能性を除外することはできません。

入院患者の発熱の原因の1割を占めると言われ、紅斑、蕁麻疹、粘膜潰瘍、臓器障害、好酸球増多などを伴うことがあります。
比較的徐脈は薬剤熱の1割の患者で見られますが、レジオネラ肺炎、クラミジア肺炎、オウム病、腸チフス、悪性リンパ腫、β-ブロッカー服用、詐病 などを鑑別します。

*比較的徐脈とは・・・1℃の体温上昇に対して、脈拍増加が10を下回る病態。正常では39℃の発熱で110/分くらいです(覚え方は、「39℃で110番」)。

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