8中高年者の腰痛
腰痛はもっとも一般的な症状の一つで、多くの中高年の人が悩まされています。腰痛のほとんどは骨や椎間板、筋肉・腱など整形外科の原因と関係深いものです。しかし、中には内科的な疾患で腰痛を生じることがあります。
その代表が次の四つです。いずれの頭文字もMで始まるため、4つのMと覚えます。さまざまな脊椎の病気と重なると、これらの病気の診断が遅れることがあります。原因のはっきりない頑固な腰痛の場合には、これらの病気も忘れないようにします。
1ガンの転移(Metastasis)
2多発性骨髄腫(Multiple Myeloma)
3悪性リンパ腫(Malignant Lymphoma)
4脊髄症(Myelopathy)
【病気の説明】
1ガンの転移(Metastasis)
骨に発生した腫瘍のなかでガンの転移の占める割合は高く、約3分の1がガンの骨転移と言われます。ガンがすべて同じように骨に転移するのではなく、骨転移しやすいガンがあります。肺ガンが最も多く、乳ガンと前立腺ガンがこれにつぎ、腎ガンや肝臓ガン、子宮ガンなどが多いことが知られています。
このうち、乳ガンの再発の多くは数年以内に生じますが、5年間再発のなかった乳ガンでも10年以内に11%、15年以内に20%で再発を認めると言われます。前立腺ガンの診断は血液検査(PSA)で可能なため、中高年の男性の頑固な腰痛では一度は調べる必要があります。
2多発性骨髄腫(Multiple Myeloma)
多発性骨髄腫は血液中に異常な蛋白が増加する血液の病気ですが、病変のほとんどは骨に現れるため「骨の病気」とも言えます。約8割の患者さんに骨病変が存在し、約5割の患者さんに骨痛や骨折などの骨病変が現れ生活の質を大きく損ないます。
多発性骨髄腫による骨の痛みは脊髄と肋骨に多くみられます。その中で最も多いのが腰痛です。腰痛の治療を受けるために整形外科などを受診して、腰椎X線写真で圧迫骨折などの所見があり、骨髄腫が疑われるきっかけになるケースが多くあります。70歳以降の高齢者で脊椎圧迫骨折を繰り返すときには、一度は多発性骨髄腫を疑いながら検査を行う必要があります。
3悪性リンパ腫(Malignant Lymphoma)
悪性リンパ腫は血液の病気の一つです。60~70歳代が発症のピークとされますが、高齢社会を迎えるにつれてまれならず認められるようになりました。異常なリンパ節腫大を見つけることが診断の手がかりになりますが、体の中に発症すると外からは分からないため、診断が困難なことがあります。
たとえば、腹腔内のリンパ節に原発すると腹部膨満感として症状が表れます。縦隔に起こると前胸部痛や息切れとして症状が現れます。血管内悪性リンパ腫では、神経症状など多彩な症状を呈することがあり、血管炎症候群と類似します。悪性リンパ腫が末梢神経や脊髄神経根あるいは神経叢、脳などの中枢神経に浸潤することがあります。痛みを伴う多発神経障害や多発神経根障害の形をとり、腰痛の原因となることがあります。
4脊髄症(Myelopathyミエロパティ-)
脊髄の炎症性疾患が脊髄炎ですが、炎症に限らず血管障害、圧迫、アレルギー、中毒などによる同様症状のものも含めてミエロパティー(Myelopathy)と呼びます。ミエロパティーの症状としては、痛みの他にしびれなどの知覚障害、運動麻痺などが含まれます。
ふつう整形外科的な原因の痛みは、体の動きによって痛みの程度が変化します。体動により増悪しない急性腰痛では、梗塞や出血による脊髄血管病変も逃さないようにします。突然発症したエピソードからは、何かが「詰まる、ねじれる、裂ける、出血、破裂」する原因を考えるのが大切です。
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一般に急性腰痛のうち、原因が特定できるものは15%にすぎず、75~90%は1ヶ月以内に改善すると言われます。しかし、腰痛のred flags(表1)のいずれかを認める場合には、ガンや圧迫骨折、感染症などの重篤な疾患を考える必要があります。
(表1)腰痛における red flags | |
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疑われる疾患 | 確認すべき病歴 |
下記疾患に共通 | 1ヵ月続く腰痛 床上安静での軽快なし |
悪性腫瘍 | 50歳以上 悪性腫瘍の既往 説明のつかない体重減少 |
圧迫骨折 | 70歳以上 外傷の既往 骨粗鬆症の既往 ステロイドの使用 薬物乱用 |
感染症 | 発熱または悪寒 直近での皮膚・尿路感染 免疫抑制状態 静脈投与の薬物投与の既往 |
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