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Q1:黄熱について教えてください。
A1:黄熱の流行地域としては、アフリカと中南米の一部で、それも赤道を中心として南と北の緯度にして20度の範囲内です。
黄熱の病原ウイルスはフラビウイルス科フラビウイルス属に属する黄熱ウイルスで、節足動物媒介ウイルス(アルボウイルス)B群に属するウイルスです。この黄熱ウイルスは日本脳炎ウイルス、デング熱ウイルス、ウエストナイルウイルスと近縁のウイルスです。人が感染するのはウイルスを保有しているネッタイシマカなどに吸血されることによります。
潜伏期は通常3~6日で、突然の頭痛、めまい、発熱をもって発病します。体温は39~40℃に達し、筋肉痛が強く現れます。吐き気を伴うことも多く見られます。2病日以降に見られるFaget症候(熱のわりには脈拍数が少ない)が特徴です。3病日頃から熱は散発的に下降し始めますが、黄だん、吐血、下血、強い蛋白尿など激しい症状が現れ、重症例では昏睡状態となり、死亡します。致死率は5~10%といわれています。症状の程度は上記の定型的な症例から不顕性感染例まで、さまざまなものがあります。
Q2:黄熱ワクチンについて教えてください。
A2:ワクチン株である17D-204株は強毒黄熱ウイルスAsibi株をニワトリ胚初代培養細胞によって継代を重ねて弱毒化したものです。
黄熱ワクチンはこの17D-204株を発育鶏卵に接種してつくった生ワクチンです。凍結乾燥製剤であり、使用時に「黄熟ワクチン溶解液:日本薬局方生理食塩液」3mLをワクチンの入ったパイアルにゆっくり注入します。1~2分間静置後、「静かに」振り混ぜて均一の懸濁液を作り、そのうち0.5mLを接種します。
わが国で使われているワクチンは輸入ワクチンであり、ゼラチンが含まれています。また、ワクチンのバイアルゴム栓には乾燥天然ラテックスゴムが含まれているため、ゼラチンと天然ラテックスゴムに対するアレルギー反応既往歴などの問診を十分に行い、接種後は観察を十分に行うことがワクチン添付文書に記載されています。
Q3:予防接種スケジュールについて教えてください。
A3:一般の医療機関での接種は行われていません。検疫所などで接種を受けることになります。
生後9ヶ月以上で、かつ南米、アフリカで黄熱感染が公的に報告されており、黄熱に感染する危険のある国(アンゴラ、ウガンダ、エチオピア、カメルーン、ガーナ、ガボン、ガンビア、ギニア、ギニアビサウ、ケニア、コンゴ共和国、コンゴ民主共和国(旧ザイール)、コートジボワール、シエラレオネ、スーダン、南スーダン、セネガル、赤道ギニア、中央アフリカ、チャド、トーゴ、ナイジェリア、ニジェール、ブルキナファソ、ブルンジ、ベナン、マリ、リベリア、ルワンダ、モーリタニア、アルゼンチン、エクアドル、ガイアナ、コロンビア、スリナム、パナマ、フランス領ギアナ、ブラジル、ペルー、ベネズエラ、ボリビア、トリニダード・トバゴ、パラグアイ)へ渡航する人、あるいは黄熟ワクチン接種証明書が要求される国へ渡航する人に対して、0.5mLを1回皮下に接種します。
黄熟ワクチン接種証明書は、接種後10日後から10年間有効です。黄熱予防接種証明書を要求している国、黄熟ワクチンの接種を行っている検疫所ならびに検疫所以外の医療機関の情報は、厚生労働省検疫所のHP(FORTH http://www.forth.go.jp/)に掲載されています。
また、政令(検疫法施行令)の改正に伴い、予防接種などの手数料が改訂されています。生後9ヶ月未満の乳児はワクチンによる脳炎発症の危険性が高くなるため接種できません。また、免疫抑制を来す治療中、免疫機能に異常がある場合、本ワクチンの成分にアナフイラキシーの既往がある場合も接種できません。妊娠又は妊娠している可能性のある女性への接種は推奨できません。
ただし、妊娠又は妊娠している可能性のある女性が黄熱の流行している地域へ旅行しなければならず、どうしても旅行を延期できず、かつネッタイシマカに対する十分な防虫ができない場合は接種を考えざるを得ない場合があります。
すなわち、予防接種上の有益性が危険性を上回ると判断される場合のみ接種するかどうかが考慮されます。高齢者では、他の年齢層に比べ重篤な副反応が発現する可能性が示唆されているため、高齢者への接種にあたっては、接種前後の健康状態の観察を十分行うなど注意が必要です。
ワクチンの添付文書によると、米国での報告では、65~74歳および75歳以上での重篤な副反応発現率は10万人あたり3.5人および9.1人であり、25~44歳の年齢層に比し、それぞれ12.3倍および32倍であったと記載されています。詳しくは黄熱ワクチンの添付文書を確認してください。
Q4:黄熱ワクチンの副反応について教えてください。
A4:黄熱ワクチンの副反応はおおむね軽いものです。
ワクチン接種後5~10日の間に10~30%に発疹、頭痛、筋肉痛、発熱などの症状が発現します。
ただし、まれにショック、脳炎(20万人接種に1人程度)、肝機能障害、呼吸不全、意識障害(錯乱)、熱性多臓器不全(40万人接種に1人程度)、ギラン・バレー症候群などの重篤な副反応の発現が報告されています。
ワクチン添付文書によると、熱性多臓器不全とは、接種2~5日目に疲労、筋肉痛、頭痛を伴う発熱があらわれ、呼吸不全、肝機能障害、リンパ球減少、血小板減少、高ビリルビン血症、腎不全などの急速な進行を特徴とする多臓器不全です。
Q5:妊婦への接種は推奨できないとのことですが、予防接種免除の医師の証明書があれば 接種しなくてもかまわないのでしょうか?
A5:黄熱ワクチンは生ワクチンなので、妊婦への接種は原則的に行われません(接種不適当者)。
妊娠しているため接種が受けられない人は医師の証明書をもらって行けば、検疫官が確認してくれます。
しかし、国によっては通用しないこともありますので、あらかじめ旅行会社や検疫所でよく確かめてください。できれば妊娠中の場合、流行国への入国は避ける方が無難です。
Q6:卵アレルギーのある人への接種はできますか?
A6:ワクチンウイルスを培養する際にニワトリの胎児細胞を使っており、さらにそれを発育鶏卵に接種してつくったワクチンのため、卵アレルギーの強い人には注意が必要です。
また、このワクチンにはゼラチンが含まれていますので、ゼラチンアレルギーの人は注意が必要です。
《参考文献》
2011(平成23年)予防接種に関するQ&A集(岡部 信彦、多屋 馨子ら):一般社団法人日本ワクチン産業協会 から転記(一部変更)
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