皆様からよく聞かれる質問や疑問にについて Q and A 形式にまとめてみました。このページでは、「B型肝炎の予防接種」について解説しています。
- 1.B型肝炎について教えてください。
- 2.B型肝炎ワクチンについて教えてください。
- 3.予防接種スケジュールについて教えてください。
- 4.通常3回接種が基本となっていますが、2回の接種で抗体が陽性になった場合、3回目は省略してもいいですか?
- 5.3回接種した後、抗体が獲得されているかどうかをいつ調べたらいいですか?
- 6.3回接種しても免疫応答が悪い人(抗体価が上がらない人)への対応を教えてください。
- 7.3回接種後どのくらい経過したら追加接種が必要ですか?
- 8.針刺しなどにより肝炎ウイルス汚染事故が起きた場合の対応の手順を教えてください。
- 9.授乳中の母親にHBワクチンを接種してもよいでしょうか?
- 10.妊婦へ接種してもよいでしょうか?
※このQ&Aは平成24年時点の情報を元に作成しています。最新の情報は予防接種情報(厚生労働省)をご覧ください。
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Q1:B型肝炎について教えてください。
A1:B型肝炎ウイルスは、ヒトの肝臓に慢性持続性感染を起こし、その内10~15%が慢性肝炎、肝細胞癌・肝硬変を発症することが知られています。
感染は主にB型肝炎ウイルスを含む血液あるいは血液成分との直接の接触によって生じます。
母親がB型肝炎ウイルス保有者(キャリア)である場合、妊娠中あるいは、多くは出産時に母親の血液によって胎児あるいは新生児がウイルスの曝露を受け感染が生じます(母子垂直感染)。
さらに、血液に接する機会が多い医療従事者などでは、針刺し事故(汚染事故)によって感染する場合もあります。また、最近は性感染症のひとつとして重要視されています。海外では、同性愛者、麻薬常習者間での流行が知られています。
成人がB型肝炎ウイルスの感染を受けると、約30%の人が急性肝炎として発病します。その予後は一般に良好で、キャリアになる割合も乳幼児期の感染に比べ低いと考えられていましたが、近年、成人になってから感染しても慢性化しやすい遺伝子型Aの感染者が国内でも急速に増加してきており、注意が必要です。
昭和60(1985)年より開始されたB型肝炎母子感染防止対策事業により、HBs抗原陽性の妊婦から出生した乳児へのB型肝炎ワクチン接種(抗HBs人免疫グロプリンとの併用)が実施され、これにより現在の母子感染によるキャリア化は著しく低下しています。
一方、国立病院急性肝炎共同研究班の報告では、最近10年間では、患者数は増加傾向を示しており、日本全国で急性B型肝炎による新規の推定入院患者は1.800名程度と推測されています。
性別は10代後半では女性がやや多いですが、それ以外は各年代とも男性の方が多く、全報告例では男性/女性は、2.9/1と男性が多くなっています。年齢は男性が20代後半および30代前半にピークがあり、女性は20代にピークがあります。
推定感染経路は、33%は不明であるものの、男女ともに61%が性的接触による感染が推定されており、感染経路の中に占める性的接触の割合は、平成11(1999)年の43%から、平成19(2007)年67%、平成20(2008)年66%と増加が見られており、性感染症としての対策が必要となってきています。
また、ごく少数ですが、「輸血」、「歯科治療」、「入れ墨」、「ピアス」、「針刺し事故」などが推定される感染経路として報告されています。
Q2:B型肝炎ワクチンについて教えてください。
A2:組換えB型肝炎ワクチン(HBワクチン)は、B型肝炎ウイルスDNAのHBs抗原に相当する部分を酵母菌の遺伝子(DNA)に挿入し、培養することで、ワクチンの有効成分であるHBs抗原をつくり、免疫増強剤(アジュバント)としてアルミニウムゲルを加えて調製したものです。
これまでの成績では、10%前後に軽度の倦怠感、頭痛、局所の腫脹、発赤、疼痛などの副反応が認められています。
なお、わが国では、HBワクチンとして「ビームゲン(製造販売会社:化学及血清療法研究所)」と「ヘプタバックスーⅢ(製造販売会社:MSD株式会社)」の2製品が供給されていますが、このうち、「ヘプタバックスーⅢ」のパイアルのゴム栓には乾燥天然ゴム(ラテックス)が含まれていますので、ラテックス過敏症のある被接種者においてはアレルギー反応があらわれる可能性があるため十分注意するよう、添付文書に記載されています。
Q3:予防接種スケジュールについて教えてください。
A3:通常、0.5mLずつを4週間隔で2回、さらに、20~24週を経過した後に1回0.5mLを皮下または筋肉内に接種します。
1)一般的な感染予防スケジュール
通常、0.5mLずつを4週間隔で2回、さらに、20~24週を経過した後に1回0.5mLを皮下または筋肉内に接種します。ただし、10歳未満の者には、0.25mLずつを同様の投与間隔で皮下に接種します。HBs抗体が獲得されていない場合にはさらに追加接種します。
2)母子感染予防スケジュール(HBs抗原陽性の母親から生まれた小児に対する接種)
通常、出生後できるだけ早い時期(遅くとも48時間以内に)と生後2~3ヶ月に抗HBsヒト免疫グロブリン(HBIG)1mlを筋肉内に投与、HBワクチンを生後2~3ヶ月に0.25mLを1回皮下に接種し、さらに、0.25mLずつを初回接種の1ヶ月後および3ヶ月後の2回、同様に接種します(健康保険適用あり)。
生後6ヶ月にHBs抗体が獲得されていない場合には、HBs抗原の検査を行い、陰性の場合は必要に応じてさらに追加接種します。
なお、生後1ヶ月の時点でHBs抗原が陽性であった場合は以後の処置は行いません。
3)汚染事故時の感染予防スケジュール
通常、0.5mLを事故発生後7日以内に皮下または筋肉内に接種します。さらに、0.5mLずつを初回接種の1ヶ月後および3~6ヶ月後の2回、同様の用法で接種します。
なお、10歳未満の者には、0.25mLずつを同様の投与間隔で皮下に接種します(労災保険、健康保険適用あり)。HBs抗体が獲得されていない場合にはさらに追加接種します。
4)医療関係者の予防スケジュール
「日本環境感染学会院内感染対策としてのワクチンガイドライン第1版」が、ワクチン接種プログラム作成委員会(委員長:岡部信彦)により、平成21(2009)年5月に作成されました。現在、日本環境感染学会のHPに公開されています。(http://www.kankyokansen.org/modules/publication/index.php?content_id=4)
Q4:通常3回接種が基本となっていますが、2回の接種で抗体が陽性になった場合、3回目は省略してもいいですか?
A4:はじめてB型肝炎ワクチンを接種される場合は、通常2回の接種では抗体の上がり方が3回に比ベて十分とはいえず、抗体の持続が望めません。
3回目の接種によるブースター効果で抗体が急激に上昇しますので、医療関係者、海外長期滞在者など、長期にわたって抗体や予防効果を持続させる必要のある方は必ず3回の接種を勧めてください。
Q5:3回接種した後、抗体が獲得されているかどうかをいつ調べたらいいですか?
A5:3回接種して、1~2カ月後をめどに抗体検査を行ってください。
Q6:3回接種しても免疫応答が悪い人(抗体価が上がらない人)への対応を教えてください。
A6:3回接種しても抗体ができない(免疫反応不応答者:nonresponder)の頻度は母子感染の場合は約4%、成人の場合は約10%とされています。
何回まで追加接種すればいいという目安はありませんが、中には何回接種しても抗体陽転にならない人がいます。そのような場合は、それ以上のワクチン接種はせず、B型肝炎ウイルス曝露時には、HBIG(抗HBsヒト免疫グロプリン)で対応することになります。
また、異なるメーカーのワクチンを用いることで免疫が獲得される場合や、皮内接種や筋肉内注射で接種することによって、抗体陽性率が高くなるという報告があります。
なお、皮内接種はワクチン製剤の用法用量外の接種方法になります。また、B型肝炎ワクチンは沈降型ワクチンのため、有効成分が沈殿しやすくなっています。ワクチンを接種してもHBs抗体が上昇しなかった症例の中には、使用前に十分に振らず、上清のみを接種していたという報告もあります。
沈殿している有効成分をよく振り、よくかきまぜてから吸引し接種を行ってください。
Q7:3回接種後どのくらい経過したら追加接種が必要ですか?
A7:3回の接種でHBs抗体ができても一生続くことはありません。
血液を扱う医療関係者など感染のリスクが高い場合には、定期的に抗体検査を行って抗体の維持に努めた方がよいと考える考え方もあり、抗体陰性になった場合はすみやかに1回追加接種することでブースター効果により抗体が上昇し、さらに数年間免疫が維持されます。
一方、いったん抗体を獲得した場合は、その後B型肝炎ウイルスに感染しても症状の明らかな急性B型肝炎の発症はないという報告から、海外では追加のワクチン接種を不要としている国もあります。
わが国では現時点では確立された方法はありませんが、日本環境感染学会のガイドライン http://www.kankyokansen.org/modules/publication/index.php?content_id=4 では、抗体価低下に伴うワクチンの追加接種は必須とはしませんが、その適否については今後検討が必要であるとされています。
Q8:針刺しなどにより肝炎ウイルス汚染事故が起きた場合の対応の手順を教えてください。
A8:HBs抗原陽性でかつHBe抗原陽性の血液で汚染を受けた場合、汚染された部分を流水でよく洗い流した後に、なるべく早く下表に従ってHBIG(抗HBsヒト免疫グロプリン)とワクチンの接種を行うことが必要です。
業務上は労災保険、業務外は健康保険などが通用となります。
なお、適用はこれまで汚染源がHBs抗原陽性でかつHBe抗原陽性の血液とされてきましたが、平成16(2004)年4月から、HBe抗原が陰性であってもHBs抗原が陽性であれば労災保険を適用する旨の通知が出されました(平成16(2004)年3月30日)。
ただし、健康保険の通用は汚染源がHBs抗原陽性でかつHBe抗原陽性の血液に限られます。また、HBワクチン接種既往者が汚染事故を受けた場合には、米国のACIP(予防接種諮問委員会)からの勧告が参考になります。
汚染事故後の対応
■汚染事故を受けた者がHBワクチン未接種者(HBs抗体-)の場合
汚染血がHBs抗原(+)かつ HBe抗原(+)の場合 | 成人ではHBIG5~10mLを、小児では0.16~0.24mL/kgを筋注 さらにHBワクチン0.5mL (0、1、3~6カ月)を皮下に接種(10歳未満の者には、0.25mL) |
汚染血がHBs抗原(+)かつ HBe抗原(-)の場合 | 成人ではHBIG5~10mL、 小児では0.16~0.24mL/kg |
■汚染事故を受けた者がHBワクチン既接種者の場合(米国ACIPの勧告)
(1)汚染事故を受けた者がHBワクチン既接種者かつ抗体陽転歴あり | |
汚染血がHBs抗原(+) | 処置不要 |
汚染血がHBs抗原不明 あるいは検査実施できず | 処置不要 |
(2)汚染事故を受けた者がHBワクチン既接種者かつ抗体陽転歴なし | |
汚染血がHBs抗原(+) | HBIG2回または HBIG1回とワクチン3回(*) |
汚染血がHBs抗原不明 あるいは検査実施できず |
ハイリスクの血液であればHBs 抗原(+)の処置に準ずる |
(3)汚染事故を受けた者がHBワクチン既接種者かつ抗体反応不明 | |
汚染血がHBs抗原(+) | まずHBs抗体検査し、抗体価が十分であれば処置不要(※) 抗体価が不十分であればHBIG1回とワクチンを追加接種 |
汚染血がHBs抗原不明 あるいは検査実施できず |
まずHBs抗体検査し、抗体価が十分であれば処置不要(※)、 抗体価が不十分であればワクチンを追加接種し1~2カ月後に再度抗体価を確認 |
※:抗体ありとは、PHA法で抗体陽性、国際単位10mIU/mL以上
*:抗体陽転歴がなく、2回目の3回のワクチンコースが終了していない方には、1回のHBIG投与とワクチン3回接種が行われる。過去に、2回目のワクチン3回接種が終了しているにもかかわらず抗体が陽転しなかった方には、2回のHBIG投与が行われる
Q9:授乳中の母親にHBワクチンを接種してもよいでしょうか?
A9:母乳中にワクチンの成分が分泌されてもごく微量であり乳児に与える影響はないと考えられます。
また、母体にできた抗体が母乳中に移行することも考えられますが、乳児に対する効果は期待できません。授乳中の母親がHBワクチンを受けても乳児に問題が生じたり、効果が現われたりすることは考えられません。
Q10:妊婦へ接種してもよいでしょうか?
A10:妊婦に対する安全性は確立していませんので、妊娠している、あるいはその可能性のある人には接種しないのが原則ですが、妊婦であっても特別に感染のリスクが高い場合は感染リスクの方が上回るため、接種対象になると考えられます。
ことに妊娠末期に罹患すれば、胎児への垂直感染も考えられるからです。
このワクチンは不活化ワクチンですので、胎児への感染あるいは催奇形性はありませんが、自然流産が一定の頻度で認められる妊娠初期は、リスクを避ける意味でワクチン接種は避けた方がよいでしょう。
《参考文献》
2011(平成23年)予防接種に関するQ&A集(岡部 信彦、多屋 馨子ら):一般社団法人日本ワクチン産業協会 から転記(一部変更)
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