皆様からよく聞かれる質問や疑問にについて Q and A 形式にまとめてみました。このページでは、「A型肝炎の予防接種」について解説しています。
※このQ&Aは平成24年時点の情報を元に作成しています。最新の情報は予防接種情報(厚生労働省)をご覧ください。
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Q1:A型肝炎について教えてください。
A1:A型肝炎は、A型肝炎ウイルス(HAV)の経口感染によって発症する急性肝炎です。
A型肝炎ウイルスの血清型は1種類ですが、遺伝子型はⅠ~Ⅵ型に分類されており、ヒトからは主にⅠ、Ⅲ型が検出されています。
小児では80~95%が不顕性感染で終わることが多く、発症しても発熱と軽い黄だんをみる程度ですが、成人では90%が発症し60%は黄だんを示します。38℃以上の発熱、全身倦怠感、頭痛、筋肉痛、腹痛、下痢、黄だん、食欲不振、肝腫大、黒色尿、白色便などの症状が現れ、完全に治癒するまでには1~2カ月の治療を要する疾患です。まれに劇症肝炎や急性腎不全を引き起こすことがあります。
わが国では、近年、生活環境の整備により患者発生が激減したことにより、感染の機会が減少し、その結果として50歳以下の世代ではA型肝炎に対する自然免疫の獲得がほとんど見られなくなりました。A型肝炎は冬から春に多く発生が見られていましたが、近年は平成22(2010)年以外、そのような傾向がみられなくなっています。
国内血清銀行保存血清を用いた平成15(2003)年の血清疫学調査では、60歳以上では70%以上の高い抗体保有率でしたが、60歳以降急激に抗体保有率は減少し、50歳以下の約98%は抗体陰性で、40歳以下ではほぼ0%の抗体保有率でした。
以前は予防として、免疫グロブリンが使用されていましたが、平成6(1994)年に国産A型肝炎ワクチンが認可されました。
A型肝炎が流行している地域や、海外のA型肝炎常在地への旅行・出張など長期滞在の場合などにワクチン接種が勧められます。食品を取り扱う人々の感染予防、感染の拡大予防にも有効と考えられます。
国内感染推定例が多くを占めていますが、平成18(2006)~平成20(2008)年に報告された国外感染推定例では、感染国の国名記載があった例では、インド、フィリピン、韓国、インドネシア、中国、パキスタン、タイ、カンボジア、ネパール、マレーシアなどアジア諸国が約8割を占め、その他アフリカ、中南米、ヨーロッパの国での感染も報告されています。
また原因食品として報告にあげられたものは、カキなどの2枚貝類やその他の魚介類が多く、特に国内経口感染例の9割は、カキ・寿司を含む魚介類によるものと推定されています。
Q2:A型肝炎ワクチンについて教えてください。
A2:A型肝炎ワクチンは、アフリカミドリザル腎臓由来細胞でA型肝炎ウイルス(HAV)を培養し、高度に精製し不活化後安定剤を加え凍結乾燥したワクチンです。製剤の特徴および有用性は次のとおりです。
- 安定性に優れた凍結乾燥品です。
- 本剤はアジュバントを含みません。
- 2回の接種により高率に免疫を獲得し、ヒト免疫グロブリン(15mg/kg)筋肉内注射直後と同等以上の抗体価が得られます。
- 3回筋肉内または皮下接種後30カ月を経過してもヒト免疫グロブリン(15mg/kg)筋肉内注射直後の抗体価を十分上回る感染防御能があります。
- HAVは数種類の遺伝子型がありますが、血清型は1種類なので、抗原的にはすべてのHAVに対応できます。
Q3:予防接種スケジュールについて教えてください。
A3:本剤を添付の溶剤(日本薬局方注射用水)0.65mLで溶解し、16歳以上の者に通常、0.5mL(不活化A型肝炎ウイルス抗原を0.5μg含みます)ずつを2~4週間間隔で2回、筋肉内又は皮下に接種し、さらに初回接種後24週を経過した後に0.5mLを追加接種します。
15歳以下の使用は認可申請中です。
免疫の賦与を急ぐ場合には、同量を2回(0、2週)、筋肉内又は皮下に接種します。しかし長期に抗体価を維持するためには、3回目の追加接種を勧めています。
Q4:A型肝炎ワクチンの副反応について教えてください。
A4:副反応発現率は6.0%(162/2,710)であり、いずれも軽度な発熱、じんましん、注射部位の疼痛、発赤、そうよう感、腫脹、硬結、圧痛、倦怠感、頭痛、頭量感、下痢、熟感、全身筋肉痛などで、これまでに重篤な副反応の発生は認められていません。
Q5:海外出張・旅行などで緊急に接種したい場合どうすればよいでしょうか?
A5:A型肝炎ウイルスは世界中に分布しますが、特にアフリカ、アジア、中南米に高度流行地域が多くなっています。
このような流行地域に旅行する場合には、A型肝炎ワクチンの予防接種を勧めてください。
接種間隔は2~4週間の間隔で2回接種し、更に初回接種後24週を経過した後に追加接種することになっていますが、1,168人を対象にした臨床試験では、このうち抗体陰性であった961人の100%が2回接種後に抗体陽性となったと報告されています。
Q6:ワクチン接種後どのくらいで抗体は上昇するのでしょうか。また持続はどの程度ですか?
A6:筋注用ヒト免疫グロブリンの予防効果から、A型肝炎の感染防御に有効な抗体価は、理論上2~3mIU/mLと推測されています。
A型肝炎ワクチン1回目接種後にもある程度の抗体の上昇が認められます。2回接種することで感染防御(2~3mIU/mL)に必要な抗体価が得られます。
抗体陽転率は、筋肉内接種群、皮下接種群とも2回接種後4週目に100%となりましたが、初回接種後24週目には皮下接種群215例中4例が陰性化しました。また用法・用量どおり3回目を6カ月目に接種すると3回接種後60カ月(5年)まで、高い抗体価を維持しており、少なくとも5年以上の抗体価の持続が期待されます。
Q7:子どもにも接種してよいでしょうか?
A7:平成23(2011)年7月現在、A型肝炎ワクチンは16歳未満の適応が得られていません(承認申請中)。
本人又は保護者からの希望があり、またその希望者が十分な説明を受け、納得が得られる場合には、医師の判断により接種することになります。
Q8:ヒト免疫グロブリンとの使い分けはどうするのですか?
A8:A型肝炎ワクチンが開発されるまではヒト免疫グロブリンがA型肝炎の予防に用いられていました。
しかし、ヒト免疫グロブリンは血液製剤であること、即効性はあるものの、投与後の抗体価がワクチン2回接種後と同等(100mIU/mL程度)に達するが、血中半減期は20日程度であり、有効抗体価の持続は14~18週と短いことに問題点があります。通常、あらかじめのA型肝炎の予防にはワクチンが用いられています。
Q9:ワクチンを接種したにもかかわらず、抗体検査を実施したら抗体陰性と結果が出ました。抗体がないのでしょうか?
A9:現行の検査の目的は、A型肝炎ウイルス感染の有無を評価するために設定されています。
A型肝炎ウイルスに感染して得た抗体価は高い値を示します。これに合わせて、検査試薬の感度を高く設定しています。しかし、ワクチン接種後に得られる抗体価はこれに比べると低い値を示します。
感染防御のための抗体価は十分得られていますが、検査の設定値に到達せず、陰性と判断される場合があります。
《参考文献》
2011(平成23年)予防接種に関するQ&A集(岡部 信彦、多屋 馨子ら):一般社団法人日本ワクチン産業協会 から転記(一部変更)
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