皆様からよく聞かれる質問や疑問にについて Q and A 形式にまとめてみました。このページでは、「結核(BCG)の予防接種」について解説しています。
- 1.結核について教えてください。
- 2.乾燥BCGワクチンについて教えてください。
- 3.予防接種のスケジュールについて教えてください。
- 4.BCG接種の副反応について教えてください。
- 5.BCG接種によって結核に対する免疫ができる作用メカニズムについて、簡単に教えてください。
- 6.BCGワクチンによる結核予防効果について教えてください。
- 7.乳児期におけるBCGワクチンの接種はいつまでに行えばよいでしょうか?
- 8.例外的に「生後1歳に達するまで」に接種できるのはどういう場合ですか?
- 9.出生直後の赤ちゃんにBCG接種をすることは問題ありませんか?
- 10.BCGワクチンの「接種不適当者(予防接種を行うことが適当でない者)」の各項目の内容について、説明してください。
- 11.副腎皮質ステロイド剤を使っていますが、BCGの接種を行ってもよいでしょうか?
- 12.BCG接種後、腋窩リンパ節腫大がみられたときは、どう対処したらよいでしょうか?
- 13.BCG接種後の潰瘍の手当は、どうすればよいでしょうか?
- 14.平成17年(2005)4月からBCGの直接接種が導入されましたが、なぜツベルクリン反応検査を省略することになったのですか?
- 15.コッホ現象というものが起きたら、どうすればよいのでしょうか?
- 16.従来、BCG接種は主に集団接種で行われていましたが、個別接種に移行しても問題はありませんか?
※このQ&Aは平成24年時点の情報を元に作成しています。最新の情報は予防接種情報(厚生労働省)をご覧ください。
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Q1:結核について教えてください。
A1:結核は、結核菌の飛沫核感染(空気感染)および飛沫感染などによって主に感染します。
感染者のすべてが発病するわけではなく、結核菌と個体の免疫力との力関係により発病します。感染してから長期間(数年から数十年におよぶ)潜んでいた結核菌が、免疫力が衰えたとき(たとえば、加齢、糖尿病、手術など)に活性化して発病することもあります。
昨今では、免疫機能が低下するAIDS患者の結核が大きな問題になっています。結核は早期に発見すれば化学療法で治せますが、治療には半年以上もかかってしまうやっかいな病気です。また、最近では多剤耐性結核菌が注目されています。
わが国の結核は、依然として最大級の感染症であり、平成21(2009)年の罹患率(1年間に新たに結核と診断された人(再発を含む)の数÷総人口(人口十万対))は人口10万対19.0で、平成20(2008)年(同19.4)に比して0.4低下し、新分類になった平成10(1998)年以降で最低の数字になりました。
また、新登録患者のうち、高齢者の割合は増加傾向にあり、70歳以上の割合が50.1%で半数を占めています。小児、若年者の結核も後を絶ちません。
平成21(2009)年の小児結核(0~14歳)の新登録患者数は73名で過去2年間増加していたのが、再び減少しましたが、15~19歳で罹患率が前年より増加しました。
平成21(2009)年の年齢階級別罹患率は、人口10万対で0~4歳0.6、5~9歳0.2、10~14歳0.4、15~19歳3.4、20~29歳11.8、30~39歳11.5、40~49歳11.3、50~59歳14.7、60~69歳20.5、70歳以上58.8でした。
平成21(2009)年には、2,159名が結核で亡くなり(人口10万対死亡率1.7)、24,170名が新たに結核として登録され、同年末現在で、59,573名が結核患者として登録されています。
新規登録患者の約80%が活動性肺結核で、菌陽性肺結核は全結核の65%、塗抹陽性は40%でした。
また、世界に目を向けると、結核の脅威は絶大なもので、毎年200万人もの命が奪われ、900万人の患者が発生していますが、わが国は依然として結核中蔓延国であり、わが国の罹患率(19.0)は、カナダ(4.7)の4.0倍、米国(4.3)の4.4倍、スウェーデン(5.4)の3.5倍とされています。
Q2:乾燥BCGワクチンについて教えてください。
A2:結核の予防には、結核菌に自然感染する前にBCGワクチンを接種することが重要になります。
適切な接種で行われたBCGワクチンで免疫をつけておけば、発病する機会を大幅に減らすことができ、その効果は10年以上持続されます。特に、乳幼児における結核性髄膜炎や粟粒結核などの予防に、BCG接種は極めて有効です。
BCGをできるだけ早い時期(標準的には生後3カ月から生後6カ月に達するまでに)に接種することが勧められます。
BCGワクチンは、フランス・パスツール研究所のカルメットとゲランの二人によって開発された生菌ワクチンです。わが国へは大正13(1924)年に志賀潔によって菌株がもたらされ、昭和13(1938)年から日本学術振興会第8小委員会で研究が進められ、昭和18(1943)年にBCGの接種効果が確認されました。
平成19(2007)年4月以降は、結核予防法の廃止に伴い、予防接種法に基づいた定期接種が行われています。接種方法は、昭和42(1967)年よりそれまでの皮内接種法から局所の反応を軽減するために、「管針」と呼ばれる専用の 接種器具を用いる経皮接種法に変わりました。しかしBCGを行っているほとんどの国は皮内接種法です。
また、当初の液体ワクチンが、優れた真空凍結乾燥技術により昭和25(1950)年からは長期間保存可能(現在の有効期限は2年)な乾燥ワクチンに代わりました。
Q3:予防接種のスケジュールについて教えてください。
A3:定期のBCG接種は、生後6カ月に達するまでに行うことになっています。
1)接種の時期:
定期のBCG接種は、生後6カ月に達するまでに行うことになっています。なお、地理的条件、交通事情、災害の発生その他やむを得ない事情のある市区町村においては生後1歳に達するまでに行います。
従来は事前にツベルクリン反応検査を行い、陰性者が接種対象になっていましたが、平成17(2005)年4月からはツベルクリン反応検査をしないで直接BCG接種を行うことになりました。なお、定期外の接種も必要に応じて行われています。
2)接種の方法:
わが国では9本の針が植えつけられている「管針」と呼ばれる専用の接種器具を用いて、経皮接種します。溶剤(生理食塩水)でBCGワクチンを懸濁し、懸濁液を上腕外側のほぼ中央部に1~2滴滴下し、管針のツバ部分で塗り広げ、管針で2回(2カ所)強く圧して接種します。
圧し方が弱いと免疫の獲得率が低いため注意が必要です。その後管針のツバでBCG液を針痕の上に塗りひろげ、紫外線を避けて自然に乾燥させてから衣服を着用します。
なお、BCG跡が洋服にかくれるという理由などで肩に近い部分や背中、大腿などに接種すると、ケロイドになりやすいのでそのような部位への接種は行わないでください。
Q4:BCG接種の副反応について教えてください。
A4:接種後、発疹、じんま疹などの過敏症、接種局所の反応、リンパ節腫大などが起こることがあります。
平成20(2008)年度予防接種後副反応報告書の集計結果によると、この1年間に148件の副反応が報告されています。男児が94件と多く、副反応の内容では腋窩リンパ節腫脹74件(50.0%)が最も多く、次いで皮膚結核様病変が39件(26.4%)でした。
腋窩リンパ節腫脹は74件中男児が47件と全体の63.5%を占めており、性差が明らかでした。発生時期は、接種後8日~2カ月に48件(64.9%)が集中しており、その後3カ月までに累計59件(79.7%)でした。皮膚結核様病変は前年の15件に比して39件と増加傾向がみられました。発生時期は接種後8日~2カ月に28件(71.8%)が集中していました。
接種局所の膿瘍・潰瘍と骨炎が各9件(6.0%)報告されており、骨炎も前年2件に比して増加傾向がみられました。骨炎の大半(7件)が接種後6カ月以降に発生していました。腋窩以外のリンパ節腫脹が7件、全身性播種性BCG感染症が2件報告されました。接種局所のケロイドは報告されませんでした。
1)接種局所の反応:
通常みられる接種後の局所の反応は次の通りです。接種後10日~4週の間に、接種部に発赤、硬結、腫脹、痴皮形成(かさぶた)などの局所変化が現れ、特に反応が強い場合は膿ほう(膿を持つ水ほう)をつくることもありますが、痴皮(かさぶた)を形成して1~3カ月で軽快します。標準的な接種が実施された場合、針痕は少なくとも12~15個以上残っていることが目安になります。
この接種局所の反応は、通常3カ月程度ではん痕化しますが、この時期を越えても乾かず、あるいは一度はん痕化したものが湿潤し、潰瘍化することもあります。このような場合は、混合感染の可能性もあります。また、はん痕化した針痕が拡大、一部ないし全部が融合してケロイドを生じてしまうこともあります。
2)リンパ節腫大:
よく知られた副反応に、腋窩(わきの下)リンパ節腫大があげられます。通常は放置しても接種6カ月後までに自然消たいします。まれに化膿性の経過をとって、皮膚に穿孔し排膿することがあります。腋窩以外の、たとえば鎖骨上窩や側頚部などのリンパ節腫大が見られることもあります。
3)重大な副反応:
例外的ではありますが、重大な副反応として、アナフィラキシー様症状、全身播種性BCG感染症、骨炎・骨髄炎・骨膜炎、皮膚結核様病変があげられます。
皮膚結核様病変は、接種後数週間で発症し、全身に発疹が散布する「結核疹」と総称されるものが多く、発熱を伴うこともありますが予後は良好です。真性皮膚結核様病変としては、BCG(菌)が接種局所からやや離れた部位の皮膚に転移し、そこで増殖して病変(肉芽腫)を作るもの、さらに接種局所周辺皮膚のループス様反応もあり、これらには抗結核剤による化学療法が勧められることが多いとされていますが、いずれも予後は良好です。
BCGは生ワクチンですので、免疫不全症候群の者などに接種をすると、BCGが血行散布してしまうおそれがあるので、このような基礎疾患を有する人には接種はできません。
Q5:BCG接種によって結核に対する免疫ができる作用メカニズムについて、簡単に教えてください。
A5:BCG接種は、結核菌に対する抗体をつくらせるのが目的ではありません(液性免疫)。
結核に対する免疫は、Tリンパ球とマクロファージを主体とした細胞性免疫によるものです。結核菌は細胞内に寄生するので、細胞内に入ることができない抗体による液性免疫は、通常役に立たないからです。
体内に入ったBCGはまずマクロファージに貪食され、抗原情報がTリンパ球に提示され、Tリンパ球はBCGの抗原で感作されます。BCGと結核菌とは共通の菌体蛋白質をもっていますので、BCGに感作されたTリンパ球は結核菌そのものの抗原で感作されたと同じ能力をもつようになり、記憶細胞として待機し、結核菌に遭遇したときに備えます。
次に結核菌が体内に入ってくると、この感作Tリンパ球が幼若化・増殖して、インターフェロンーγなどのサイトカインを産生することによって、マクロファージを活性化します。そして、この活性化されたマクロフアージが結核菌を効率よく貪食・殺菌することにより、結核感染の進展を抑えます。
Q6:BCGワクチンによる結核予防効果について教えてください。
A6:BCG接種による結核発病予防効果については、最近活発に研究が行われ、その結果は次のように要約できます。
- BCG接種は適切に行われれば結核の発病を、接種しなかった場合の1/4くらいに抑えます。
- BCG接種は、結核性髄膜炎や粟粒結核など小児の重篤な結核の発病予防に、特に効果があります。
- BCGワクチンは一度接種すれば、その効果は10~15年程度持続します。
わが国では、BCG接種により小児の結核罹患率は極めて低くなっていますが、わが国の人口10万対罹患率(19.0)は、カナダ(4.7)の4.0倍、米国(4.3)の4.4倍、スウェーデン(5.4)の3.5倍とされ、米国の1960年代後半の水準にあります。もし仮に今、わが国でBCG接種をやめれば、小児の結核はかなり増加するものと思われます。
Q7:乳児期におけるBCGワクチンの接種はいつまでに行えばよいでしょうか?
A7:定期接種では、生後6カ月に達するまでにBCG接種を行うことになっています。
これは、乳幼児の結核性髄膜炎や粟粒結核などの重症結核を防ぐためには、なるべく早い時期に接種する必要があるからです。
しかし出生直後などでは生まれつきの免疫不全などの確認が困難な場合があり、日本小児科学会では生後3カ月以降が適切であるとしています。
Q8:例外的に「生後1歳に達するまで」に接種できるのはどういう場合ですか?
A8:地理的条件、交通事情、災害の発生、その他の特別な事情がある市区町村においては、生後1歳に達するまでに予防接種法に基づく定期接種として接種できることが、例外的に認められています。
一方、接種を受ける子ども側の都合(医学的に接種が不適当であると判断された乳児)については、医師による医学的判断がなされ1歳に達するまでの期間にBCG接種が行われる場合については、法に基づく定期接種ではないものの、保護者の希望により接種が行われます。
その場合の費用負担は、法に基づくBCG接種に準じて取り扱うことができ、万が一副反応が認められ、医薬品医療機器総合機構法に規定する医薬品による副作用と認められた場合は、副作用救済給付が行われ、自治体が損害保険制度に加入する場合には、その保険の給付対象となり得ます。
Q9:出生直後の赤ちゃんにBCG接種をすることは問題ありませんか?
A9:生後何カ月から接種するかの法的な規定は従来からありませんでしたが、長年、「新生児期は避け、生後3カ月から」とされてきました。
BCG接種のもっとも重い副反応に全身性(播種性)BCG感染症がありますが、新生児や生後1~2カ月児の場合、先天性免疫不全を有するかどうかの判断が困難であるため、免疫不全に気付かず接種をしてしまい致命的な全身性BCG感染症を生じてしまう可能性があります。
発展途上国などの結核高蔓延地域では、乳児期早期に結核に罹患することの危険性が、先天性免疫不全児に接種してしまう危険性を上まわるため、出生直後にBCG接種が実施されています。
国内では新生児の結核感染の危険性より、知らないまま免疫不全症児にBCG接種を行う危険性の方が高いと考えられ、日本小児科学会では通常生後3カ月以降の方が適切であるとしています。
また、新生児では腋窩リンパ節腫大が高頻度(26%、全例排膿)に見られたという報告もあります。ただし、家族内に結核患者がいるなどの感染の危険性の高い場合は、新生児への接種が必要となることもあります。この場合は、免疫不全状態でないことの確認を含め健康状態を十分に確認してから接種することになります。
Q10:BCGワクチンの「接種不適当者(予防接種を行うことが適当でない者)」の各項目の内容について、説明してください。
A10:添付文書に記載してある内容は、下記(添付文書の抜粋)のとおりです。
主に予防接種法施行規則および定期の予防接種実施要領に規定する内容です。5)については、免疫不全状態の人には絶対にBCG接種をしないよう、特に注意を喚起するため加えてあります。
- 明らかな発熱を呈している者
- 重篤な急性疾患にかかっていることが明らかな者
- 本剤の成分によってアナフィラキシーを呈したことがあることが明らかな者
- 結核その他の疾病の予防接種、外傷などによるケロイドの認められる者
- 免疫機能に異常のある疾患を有する者および免疫抑制をきたす治療を受けている者
- 結核の既往のある者
- 上記に掲げる者のほか、予防接種を行うことが不適当な状態にある者
Q11:副腎皮質ステロイド剤を使っていますが、BCGの接種を行ってもよいでしょうか?
A11:副腎皮質ステロイド剤の使用中(軟膏の局所的な塗布を除く)は、免疫が弱まっていることがあり、播種性BCG感染症を招くおそれがありますので、これらの薬剤を使っている時には接種を避けてください。
また、大量あるいは長期間使用したときには薬剤の中止後6カ月程度経ってから接種することが望ましいとされています。
その他、免疫抑制剤(シクロスポリン、タクロリムス、アザチオプリンなど)を使用している場合も、接種を避けてください。
Q12:BCG接種後、腋窩リンパ節腫大がみられたときは、どう対処したらよいでしょうか?
A12:3カ月児にBCG接種を行い、1~2カ月後に触診するとリンパ節の腫大が認められることがあり、その頻度は約1%といわれています。
大きさも大きいもので2cm程度までで、次第に縮小し自然に治癒します。この程度のリンパ節腫脹はBCG接種後の正常反応と考えられる範囲内のもので、異常な反応と考えなくてよいでしょう。抗結核薬の内服などの治療も必要ありません。
リンパ節の大きさは時とともに変化し、また極めてまれにろう孔(組織が欠損して管状の穴ができること)を形成した例がありますので、経過観察は必要です。
リンパ節が化膿して波動を触れるか、皮膚との癒着、ろう孔の形成、あるいは3cmを超えるほど大きくなれば、INH(イソニコチン酸ヒドラジド)投与などの治療が必要になりますが、原則として外科手術は必要ありません。
Q13:BCG接種後の潰瘍の手当は、どうすればよいでしょうか?
A13:接種後1カ月くらい経ちますと、管針の針痕に相当するところ一つ一つが小さい独立した膿ほうになったり、かさぶたをつくったりしますが、これらは通常の反応であって、特別な処置は必要ありません。
局所をいじったり引っ掻いたり、かさぶたをはがしたりしないように被接種者又は保護者に注意し、局所を清潔に保っていれば十分です。
一つ一つの膿ほうが融合して全体に大きい膿ほうになったり、局所を引っ掻いて他の細菌の混合感染を起こしたりした場合は、5~10%程度のリファンピシン軟膏を局所に塗布したり抗菌薬入り軟膏で混合感染を治療することもありますが、このような場合はごく少数です。
Q14:平成17年(2005)4月からBCGの直接接種が導入されましたが、なぜツベルクリン反応検査を省略することになったのですか?
A14:従来はBCG接種に際して、結核(菌)に感染していないことを確認するために、ツベルクリン反応検査を実施していました。
BCG接種は、結核菌の感染を受けていない人が今後結核菌の感染を受けてもそれによる発病の危険を小さくするものですので、接種の対象はあくまでも結核(菌)未感染者です。
結核(菌)既感染者にBCGを接種すると、効果が期待できないだけでなく、接種部位にコッホ現象(*)と呼ばれる強い局所反応が起きてしまいます。そのため、接種の前にツベルクリン反応検査をして、結核(菌)に感染していないことを確認していました。
しかしながら、小児の結核罹患率が著しく減少した昨今では、乳児にツベルクリン反応検査をしてもほとんど全員の人が陰性で、推定の結核既感染率も0.04%程度(1歳になるまでに結核(菌)に感染する乳児の割合)になりました。
一方、この年代の児におけるツベルクリン反応陽性者のうち約70~75%が偽陽性者であり、そのためにBCG接種の機会を逸してしまう人が年間3~4万人出ており、その中の一部の人は本来不要な化学予防を受けることになるなど、不利益の方が大きくなってしまいました。
結核(菌)既感染者にBCG接種をするとコッホ現象が見られることがありますが、WHOの研究などにより重篤な反応でないことがわかっています。むしろコッホ現象を利用して接種部位に強い局所反応が起こるかどうか見ることによって、結核(菌)感染の指標として利用できるとの報告があります。
このような状況や考え方の変化を踏まえて、結核対策の包括的な見直しの一環として、ツベルクリン反応検査を省略したBCGの直接接種が、結核予防法の改正により平成17年(2005)4月から導入されました。
直接接種の導入によって、今まではツベルクリン反応を含め3日を要したBCG接種が、1日ですむことになります。接種を受けやすくなりより早い時期(生後6カ月に達するまで)にBCG接種が実施され、結核性髄膜炎や粟粒結核などの小児の重症結核が予防されることが望まれます。
(*)コッホ現象:結核既感染動物に結枚菌が接種されると接種早期に接種部位に強い反応が認められます。この際、所属リンパ節には病変を作らず、局所反応はすみやかに治癒します。この反応は生菌のみならず、死菌でも認められます。同様に結核(菌)既感染者において、BCG接種が行われるとコッホ現象により特徴的な反応を認めます。
コッホ現象による感染診断は、BCG接種の3日後の局所の発赤(硬結)で行うのがよいとされています。もし結核(菌)既感染者にBCGが接種されても発病を促したり病状を悪化させることはありません。
ただし、家族内に結核患者がいて明らかに感染が疑われる場合は、ツベルクリン反応で判定してからBCG接種を受けることが望ましいとされています。接種4週前後に現れる接種部位の発赤は通常の反応で心配ありません。
Q15:コッホ現象というものが起きたら、どうすればよいのでしょうか?
A15:コッホ現象が起きたら、まず結核に自然感染していないかどうかを疑ってください。
問診、ツベルクリン反応検査、胸部Ⅹ線検査などの結核に関する検査をします。この際、感染源となった家族など周りの大人も検査をすることが必要になります(結核菌以外の「非結核性抗酸菌」と呼ばれる菌に感染した場合でもコッホ現象が起きますが、比較的反応は弱いとされています)。
接種部位の局所の反応は、通常の接種後の反応より早くかつ強く出ますが、特別な処置は必要なく、経過観察を行います。30日を過ぎると次第に消たいし、はん痕化して治癒すると報告されています。
Q16:従来、BCG接種は主に集団接種で行われていましたが、個別接種に移行しても問題はありませんか?
A16:すでにBCG接種を個別接種で実施している自治体もかなり増えてきました。
また、平成17(2005)年1月に改訂された定期の予防接種実施要領でも個別接種が原則となったこともあり、今後多くの市区町村で個別接種に移行するものと思われます。
平成17(2005)年4月から直接接種が導入され、事前のツベルクリン反応検査がなくなると、結核暴露機会の聴取など、予診がより重要になってきます。その場合、かかりつけ医師が接種する個別接種が望ましいでしょう。
《参考文献》
2011(平成23年)予防接種に関するQ&A集(岡部 信彦、多屋 馨子ら):一般社団法人日本ワクチン産業協会 から転記(一部変更)
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